身体強化魔法
次の日、マリー達は薬草採りに出かけていった。薬草の買い取り金額は高いままのため、前より儲けやすいようだ。
自分はお隣のレイラさんのところで魔法の話を聞いている。
「魔法力と言っても、その内容は様々です。魔力保有量、最大放出量、制御力、速度。また制御力には最大制御力という項目もありますし、速度には、発動までの時間として、構築速度。発動後の威力に影響する変換速度なんてものもあります。他にもいろいろあるのですが、リューさんの場合は、魔力保有量はかなり多そうです。身体強化の出力を上げるには、最大放出量か変換速度を上げればいいのかと思います」
「それを鍛えるのには?」
「そうですね。例えば何か物体の温度を上げようとするなら、魔力を放出しながら温度を上げていくのではなくて、一気に魔力を放出してから一気に温度を上げる。という風にすると両方鍛えられると思います。魔力放出にかかる時間と、温度を上げる時間、どちらか時間のかかる方がネックとなっているので、差がありすぎるようなら片方だけを重点的に鍛える方法に変えた方がいいかもしれません」
「へー、ただ漠然と使っているだけではダメなんだ」
「ダメということではないですよ。効率の問題です」
ふむ。魔法面白い。基礎から学んでみるのもいいかもね。
「ちなみに、身体強化魔法で部分的に強化したい場合は、何かいい特訓方法ある?」
「えっ、部分的にですか? あまり聞いたことがないですね。身体強化魔法だと、力強さ、素早さ、強靱さ、反応速度等があります。普通それらは意識されずに同時に発動しているので、例えば、力強さだけを発動させると、腕相撲の時には有効かもしれません」
「へぇー、なるほど、そうなんだ」
「ただ、気を付けなければならないのが、強靱さというのは敵から攻撃を受けたときに怪我をしにくくなる項目ですが、それ以外にも、力強さだけを発動させると、筋肉を痛めたり、腱が切れたりと怪我をしますので、それを防止するためにも強靱さというのは重要です」
「そういうパラメータは、なにか計測する方法があるのかな?」
「学校にはありましたよ。計測装置が。ただ厳密ではなくても簡易的に測定する方法もあります」
「それ、試してみたいなぁ」
自分の能力については知っておきたい。
「身体強化を発動していない状態と、発動した状態で計測してその違いで判定します。力強さだと持ち上げる重さ。速さだと50m走。強靱さは手の甲に石を乗せたりとか」
「え、手を潰すの?」
「いえ、そこまではしなくて、同じ痛さになるまでの重量の差で」
「ああ、そうだよね。でもそれだと、大分主観が入るんじゃない?」
「まあ、簡易的なものですから。あと、反応速度は、棒を落としてどれだけ素早くつかめるかとか」
「あ、それなら今できるかな」
「そうですね。でも反応速度を上げられる人は少ないですよ。いろいろな方法が試されているらしいですけど、素早さばかりが上がって肝心の反応速度は上がらないとか。なので、その項目は才能がある人だけですね。魔法学園でも同じ学年で数人できるかどうかといったところです」
「ま、面白そうだから、とにかくやってみよう。上がっていたらラッキーということで」
「そうですね。ふふっ。リューさんならできてしまいそうな気がします」
「そういうことは言わないでほしいなぁ。できなかったときに悲しくなるから」
「はい。そうですね」
ゴミ箱に捨ててあった串焼きの串を拭いて使うことにした。
レイラが上の方をちょんとつまんで持ち上げる。
「落ち始めたら、つかんで下さい」
「オッケー」
「じゃ、行きますよ」
落ち始めたからつかんだら、ほとんど落ちていなかった。エルフの40歳は反射神経がいいらしい。
「・・・もう一度やりますね。まだ身体強化使わないで下さいね」
落ち始めたからすぐつかむ。
「・・・。もしかして、私の手元を見ていませんか?」
「見ているつもりはないけれど、視界には入っているかも」
「じゃ、隠しますね」
レイラは板切れで手と串の両方を隠した。
「下から串が見えたらつかんで下さい」
「オッケー」
「じゃ、行きますよ」
串が見えたのでつかんだ。2cmくらいだろうか。
「やっと計れそうですけれど、もしかしたら、うちの学年のトップよりも速いかもしれないですね。では、次は身体強化発動させてやりましょう」
「オッケー」
「じゃ、行きますよ」
串が見えたのでつかんだ。さっきの半分くらいだ。
「あっ、たぶん発動していますね。反応速度。2倍くらいは」
「やった」
「もう一度、確認してみましょう!」
レイラは興奮してきたようだ。
「リューさん、やっぱり魔法学園行きましょう!お勧めは、魔法騎士科です。反応速度上げられるなら敵無しですよ。ロイヤルナイトも目指せます。もうそんなことになっちゃったら、王子様の護衛になったりして・・・、ふふっ、さらにはその美貌で心まで射止めちゃったり。正室は無理でも側室なら十分狙えますよっ!」
なんかレイラさん、また妄想モードに突入してしまったらしい。
「いや、反応速度速くても、剣技とか知らないから。この細腕じゃ剣なんて振れないから」
「そんなことないですよ。昨日、腕相撲大会でマチルダさんに勝ったそうじゃないですか。破壊の鉄槌のマチルダといえば、力自慢で結構有名な人ですよ」
それは、女子では珍しいパワータイプだから目立っているだけなのでは?
「それに、リューさんに勝った人が優勝したのなら、実質準優勝みたいなものですから」
その理論はめちゃくちゃだ。
「いやいや、それはないでしょう」
「とにかくですね。パワーも十分ですから。羨ましいです。まあ、魔法騎士科というのは冗談ですが、学校は行っておいて損は無いと思いますよ。これから長い人生を生きるなら、基本を勉強しておくと後々成長につながると思います」
「それはその通りなんだけどね」
それは否定しない。基本は大事。エルフの人生長そうだし。レイラさんの押しに負けたとは思いたくないが少しだけ学校に興味が湧いてきた。
お昼をご馳走になった後、着替えて南の草原に行き、久しぶりにマリー達とウサギ狩りをする。
そして今日、マリーは初めてウサギを仕留めることができた。まぐれかもしれないが着実にうまくなっているのは見ていて分かる。
そして肉を焼いている間に身体強化の程度を測定してみた。しかし重そうなものが河原にある岩くらいしかない。樽でも持ってきて水を入れたり、小石を詰めたりすれば比較しやすいのだけれど、岩だと見た目と重さがわかりにくい。50m走も距離を測るもの、時間を測るものもない。そして強靭さに関しては、どのくらい痛いかという曖昧さ。とりあえず、大体全部2倍くらいにはなっていそうだった。1.5倍がレベル1(弱)、2倍はレベル2(中)というクラス分けになるそうだ。4倍がレベル3(強)。
最大放出量と変換速度も調べてみた。水を瞬間的に温めたりすると爆発するので、やるなら少しづつ試すようにとレイラから念を押されている。一秒くらい放出してから石を温めるなどして試したが、温めるのは瞬間的に終わる感覚がある。どのくらいかは分からないが最大放出量が少ないらしい。とはいうものの大量の魔力を必要とするような魔法は知らないので、また後で相談することにした。そういえば、水が爆発するなら、あの川の主を狩るのに使えそうな気もするな。ふふふっ。自爆が怖いけど。
冒険者ギルドに帰ってきてウサギの毛皮を売ろうとしたらトーマスに声をかけられた。
「昨日はやってくれたな。流石だよ。暴れるやつらを押さえるのに苦労したよ」
「バーナードさんと対戦した時ですか?」
「ああそうだな、あの時はひどかった。まぁ、一般人はそうなのかもしれないが、冒険者連中からしたらマチルダの方が、ぶったまげたようだけどな」
「倍率は同じくらいだったと思うけど」
「お前さんには一試合目を見た一般人が賭けて、冒険者連中はマチルダに賭けてたんだよ。おかげさまで、おまえさんを侮るような冒険者はこの街にはいなくなったとまで言い切れる。女将さんやマチルダに叩きのめされた奴らは結構多いからな。これでこの街最強の女というわけだ。おめでとう」
「それ、うれしくないんだけど」
まあ、変なのが寄って来なくなるのはいいけどね。恋愛するつもりもないし。
「ちょっと後ろを見て見ろ」
この時間の買取カウンターだから冒険者の長い行列ができている。
「これだけ無駄話していても、誰も文句を言ってこない」
「それは凄いね。うん。いいから、早くして」
無駄話しているのは誰だよ全く。さっさと仕事しろ。
「ははは、ほい。薬草と毛皮の分」
話をしながらも一応仕事はしていたらしい。お金はマリーが受け取った。
「それと受付カウンターの方に顔を出していってくれってさ」
「なんで?」
「行けば分かる。次の人どうぞ」
トーマスはニヤニヤして何も教えてくれない。それどころか会話を打ち切った。仕方ないので受付の方に行く。
不人気のギルバートのところに並ぶ。本当はきれいなお姉さんとお話ししたいけれど、なぜか当たりがきつくて怖いのです。順番はすぐに回ってくる。
「おっ、久しぶりだな」
「どうも。なにか用事があるとか?」
「ああ、冒険者章を貸してくれ。今日からEランクだ」
「はぁ」
ギルバートは鉄の冒険者章を受け取ると、Fと書いてあるところの下をたがねで打ち付けて、Eという文字に変更する。
「随分と簡単ですね」
「そう、このランク帯はこんなもんだ」
「やった。私たちとおんなじですね」
隣にいたマリーが喜ぶ。
「書類上は暁が受注したことになっているが、仮にもギルドの指名依頼を受けているわけだからな。昨日の腕相撲大会とやらの件もあるし、実力的には申し分ないということで、来週にはDに上がることが決定している。これは内緒だがな」
喜ぼうとしたマリーが口を押さえている。
別にその情報いらないから。内緒なら言う必要ないだろうに。口が軽そうな男だな。
「はぁ」
「なんだ、全然嬉しそうじゃないないな」
「そうですね。冒険者を続けていくつもりは無いので」
「そう言わずに。儲かるだろう。他の仕事より」
「そこは否定しませんけど」
「まあ、来週もまた頼む、魔力草」
そんな笑顔をされても言いなりになって働いたりはしないぞ。
「後、それからもう一つ。臨時でパーティー組むなら口頭でもいいから受付に言っておいた方がいいぞ」
「なんで?」
「あんたみたいなソロを狙って悪いことを考えるやつらはいる。フィールドに出ちまえば、何かあっても分からないからな。スラムにも近づくなよ」
街の外もスラムも無法地帯ということか。異世界怖い。
「気を付けます」
この後は商業ギルドで打合せだ。




