表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気ままに生きたい異世界転生 ~チートは無いはずなのに目立ち過ぎるのは困ります~  作者: アルバザーク
第一章 辺境の街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/115

エンターテイナー

 くじ引きが終わると、番号と名前の入った看板を持ってしばらく整列する。選手は16人。

 この間に誰が優勝するのかという賭けの投票が行われている。自信のある選手は上半身裸でアピールしていたりする。自分は笑顔で手を振るのみだ。

 そして自分の倍率が気になるのでちらりと見てみると軽く100倍を超えていて、さらにどんどん倍率は上がっていく。そんなものだよな。当たり前だ。


 しばらくして投票が締め切られ試合が開始された。

「一回戦、第一試合。リュー選手!対するは、バーナード選手!」

 呼ばれたので壇上に上がる。他の選手は控え室に帰ったり、仲間のテーブルに戻ったり。

 ここでもこの試合の投票が行われるため(しばら)く待たされる。しかし、やることが無い。笑顔で手を振るにも精神的な限界がある。

 近くのVIPテーブルには腕相撲協会専用のテーブルが一つあり、そこには選手のサラと、アーサー、モーガンが座っていて、テーブルには泡ビールが4つ運ばれてきていた。一つは自分の分のはず。誰かが気を利かせてオーダーしてくれたのだろう。それをスティーブにお願いして取ってきて貰った。

 これはお決まりのパフォーマンスにしてしまってもいいかもしれない。ジョッキを片手に天高く持ち上げた。そして一気に飲む。

「ぷはー!」

 飲みきったことをアピールするためにジョッキを傾けたまま口から離し、口の周りの泡を手の甲で大げさに拭う。そして飲みきったジョッキを勢いよくテーブルにたたきつけた。対戦相手をにらみつけながら。口元には笑顔。うん、もうこれ以上の演技はできません。

 すると歓声が上がる。結構受けたらしい。

「調子に乗るなよ。その細腕へし折ってやろうか」

 先ほどまで笑顔だったバーナードの額に青筋が浮かび上がった。

「それ貰うぞ」

 近くを通りかかった店員からジョッキをひったくると豪快に飲み干し、飲みきったジョッキを勢いよくテーブルでたたき壊した。

 めっちゃ怖いんですけど。これはパフォーマンスなので本気で怒らないでほしいな。後で謝りに行こう。

 余りにも怖いので目を背けたら、賭けの投票を受け付けているカウンターが目に入った。倍率はバーナードが1.1。自分は15倍。ひどい倍率だ。バーナードが勝ったらほとんど儲けが無いどころか赤字なのでは?

 確か打ち合わせでは自分にかけるのはOKという事になっていたはず。懐から小金貨を一枚取り出しカウンターを見ると受付の一人と目が合った。ホーミングの魔法を発動し金貨を親指で弾く。その金貨はきれいな放物線を描いて飛んでいき、慌てて開いた受付の手の中に収まった。

「私に賭けといて!」

 大声で叫ぶとまた歓声が上がった。

 きょとんとしていた受付もすぐに起動し、OKのハンドサインを送ってきた。

 思いつきのパフォーマンスも受けが良くてなりよりだ。

 もうこのくらいでいいだろう。

 両腕を組んで、足を肩幅より少し大きめに開き、バーナードを笑顔でにらむ。

 決して若くはないんだろうから、こんな小娘の挑発なんて受け流してほしい。なのに顔のゆがみがさらに増し、アルコールの影響では無さそうな顔の赤みも増していますよ。

 やばい、やばい。男性恐怖症が発動するとまずいので何か別のことを考えよう。

 あの筋肉は暴力的だが冒険者ではないのでレベルは高くないはず。そして木こりギルドのトップということは、結構年食っていて、現役を引退し書類仕事がメインかもしれない。あとは身体強化魔法が使えるかどうか。これが使えるようなら勝てないが、使えないなら勝機はありそう。いける、いけると自分に言い聞かせた。

 カウンターで投票が締め切られたのを見てスティーブが動き出す。

「では、リュー選手対バーナード選手の試合を開始します。組み合って下さい」

 今回の大会は右手の一本勝負だ。お互いにテーブルに肘をつき、がっしりと組み合うと、まだ試合は始まっていないというのに、バーナードは握力で手を握りつぶそうとしてきた。

 痛いっての。全く。

 身体強化魔法を軽く発動させて握り返す。するとバーナードは意外そうな顔をした。

 ん、これは、もしかしていけるのか?

「レディー!」

 組み合った二人の拳をスティーブの両手が包み込む。

 このタイミングで身体強化魔法全開だ。

「ゴー!」

 思いっきり力を入れる。

 決着はあっさりついた。

 バーナードの見開かれた目。そして伸びきった肘。

「勝者、リュー!!!」

 スティーブは私の右手を高々と上げる。

「「「うぉぉぉー!」」」

 怒号が飛び交った。

 勝っちゃったよ。

 カウンターの方も大騒ぎになっていて警備担当の人が必死に仕事をしている。大丈夫かな。あっ、トーマスももみくちゃにされている。確か警備の責任者じゃなかったかな。

「流石リューさんです!!!」

 サラも立ち上がって喜んでくれていた。

 アーサー、モーガンは、落ち着いた笑顔でジョッキを掲げ、祝福してくれているようだ。


 すぐに次の試合が始まるので壇上から降りる。

 反対側には、がっくりと肩を落としたバーナード。怒り狂ったりしなくて良かったけど、これは何かしないとまずいかと思い声をかけた。

「あの、すみませんでした。煽ったりして。盛り上げ役として参加しているのでどうしてもパフォーマンスをしないといけなくてですね・・・」

「ああ、そういえば、おめえさんが腕相撲協会会長だろ。今思いだしたが、納得の強さだよ。後は若い世代に任せる」

「はい。あの、本当にすみませんでした」

 あまりにも意気消沈していて、かける言葉が見つからない。

「気にしてねぇよ。次も頑張んな」

「ありがとうございます。頑張ります」

 これ以上は無理なので、切り上げてサラたちのテーブルに合流した。


「リューさん凄いです。楽勝でしたね」

 サラは結構興奮している。

「ま、俺たちは勝つと思っていたけどな」

 そう言うアーサーと、頷くモーガン。

 すると隣のテーブルから声がかかった。

「強いね。驚いたよ」

 そう言って手を差し出してきた男は誰だろうか。見覚えのある顔だが。

「ありがとうございます」

 とりあえず握手し、ビジネススマイルで対応する。

「まずは、一勝おめでとう」

 その隣に座っていたのはレイモンド。という事は、これ商業ギルドのテーブルだ。となると記憶もたどりやすい。最初の人はギルド長のウォルターだ。

 後の二人もきっとギルドのお偉いさんだろう。

 話が長くなるといやなので軽く目を合わせたら会釈(えしゃく)で済ます。

 そこへちょうど給仕さんが料理とジョッキを運んできたので、これ幸いにと挨拶を切り上げた。

 しかし給仕さんは料理以外にも何か運んできてくれたようである。

「これが、リュー様の配当です。こちらがアーサー様、モーガン様、そしてサラ様ですね」

 どうやら座ったまま投票もできるようだ。さすがVIP席。隣が商業ギルドで、その奥が冒険者ギルドのテーブルとなっていたはず。うん、冒険者ギルドの面々も見覚えが無いな。と思ったら、副ギルド長のヘクターさんと目が合った。軽く会釈しておく。

「勝利に!カンパーイ!」

 おっと、乗り遅れそうになって少し焦った。

「ありがとうございます。ところで、皆さん私に賭けてくれていたのですね」

 最終的な倍率は13倍だったようで、目の前には小金貨13枚が山となっている。サラだけは銀貨だったが。

「まあ、当然だな。あれだけの強弓を顔色一つ変えずに引いていたし。バーナードは見た目こそ筋肉だるまだが、僕達と違って魔物を倒す機会は少ないからレベルは高くない」

「そう思っていたのなら、もっと賭けてもよかったのでは?」

 その考察を最初に聞けていたらもっと気楽に試合に臨めたのにと思い少し嫌味を言ってみた。

「あははは、そうだね。そうだな、僕らは、もうあまりお金に苦労はしていないから」

 そんな言い訳をするのでジト目で睨んでやった。

「というのが半分で、後は、バーナードが身体強化を使えるかどうかが分からなかったから」

 ほう、あっさりと白状するとは殊勝なことだ。

「勝者、マチルダ!!!」

 そのときひときわ大きい歓声とともに、それに負けないほどに頑張っているスティーブの声が聞こえた。

「リュー、次の相手が決まったようだよ」

 ふと壇上を見ると、ぼさぼさな髪に褐色の肌、ボディビルダーのように鍛え上げられた腕の筋肉が印象的な女性が勝どきを上げていた。スティーブに手を掲げられたその大柄な女性はふとこちらを振り向く。そして目が合うと、ニヤリと笑った。獲物を狙うような目が怖い。

「彼女はマチルダ。Bランクパーティ破壊の鉄槌(てっつい)のメンバーで身体強化持ちだよ」

 今日、選手として参加している女性は3人。自分とサラ、そしてこの人だ。

「君はずいぶんとライバル視されているようだね」

 アーサーは楽しそうに笑う。

「はぁ。単なる試合だよ。もっと楽しくやろうよ。みんな殺気を飛ばしすぎ」

「そのくらい本気の方が見ている方は楽しいと思うよ」

「そうですね。催し物としては、大成功かも」


 その後、モーガンとアーサーは一回戦を勝ち上がり、サラは惜しくも一回戦敗退だった。

「では二回戦、第一試合。リュー選手!対するは、マチルダ選手!奇しくも女性選手の頂上決戦だ」

 あぁ、さっきより気が進まない。冒険者は殺気が凄すぎて怖いんだよ。

 壇上に上がってきたマチルダは鎧装備にバカでかい鉄のハンマーを持っていた。そのハンマーを床にたたきつけながら言う。

「その小枝のような細腕、あたしが破壊してやるよ」

「遠慮しときます」

 めっちゃ緊張してきたので小声で返した。しかし、それが逆効果だったようで。

「はっ、なんだそのすました態度は!気に入らないねぇ。反吐が出そうだよ」

 いや、ただ単にあなたの殺気に当てられているだけなのですが。仕方ない、また酒パワーでも注入しておきますか。サラの方を向くと待ってましたとばかりにジョッキを回してくれる。さっきのパフォーマンスを見ていたお客さん数人の手を経て、バケツリレーのようにジョッキが届けられた。よく見ると飲み欠けではなく、並々とエールが入っている。

 ジョッキを片手に天高く持ち上げた。そして一気に飲む。おなじみのパフォーマンス。

「ぷはー!」

 それを見たマチルダは、近くで準備していた仲間からジョッキを2つ受け取ると両手に持ち、両方とも飲み干した。どこまでも張り合うようだ。

 カウンターに目をやると倍率はマチルダ1.9倍。自分が1.7倍。おっと、以外にも勝っている。初戦のイメージが良かったのかね。そこから視線を戻そうとして、さっきの受付の一人と目が合った。キラキラ目を輝かせてこっちを見ている。あれ?これは、金貨を投げないといけないパターンでしょうか?さっき儲かったからどうってことないけどね。また金貨を弾く。受付は慌てることもなく胸の前に開いた手のひらで金貨を受け止め、OKのハンドサインを送ってきた。

 また歓声が上がる。少し気持ちいい。

 しばらくしてから投票は締め切られ壇上でマチルダと組み合った。お互いの顔が近くなる。

「顔は、ちっとはまともだが、胸は絶望的に絶壁だな」

 なんでそんなに煽ってくるの。もう40なのでその程度で心動かされたりしないよ。と思ったら以外にもふつふつと怒りがわいてきた。肉体年齢が若いせいなのか、アルコールのせいなのか分からないが、なにか言い返したくなる。

「そう言うあんたの胸は筋肉で出来ているんだな」

 ブチッという音が聞こえたような気がした。

「レディー!ゴー!」

 最初、一気に勝ちそうな勢いで引き込んだが、こらえたマチルダの身体強化が遅れて発動し、まくられる。どうやら怒りで身体強化の発動が遅れたようだ。

「おっと、リュー選手が勝つかと思われたが、マチルダ選手が今度は優勢だ!」

 まずい、このままでは負ける。何かないか?こっちの身体強化の出力は最大でこれ以上は上がらない。かといってテニックなんてあるはずもない。いや、ちょっとまて、全身を身体強化する必要はないんじゃないか、右腕だけとか・・・は難しいから、上半身だけとかどうだ。

「おおーっ!!いい勝負だ!また、リュー選手が巻き返している!」

 そして、マルチダは力尽きた。

「勝者、リュー!!!」

 スティーブは私の右手を高々と上げる。

 観客の歓声は一段と大きくなる。

 人前に出るのは好きではなかったけれど、これはちょっと気持ちがいい。


 その後アーサーは二回戦で敗れ、自分も次の試合、準決勝であっさり負けた。お話にならないほどあっさりと。モーガンはそいつと決勝で戦ったが負けた。上には上がいるということで。


 その晩は、みんなの石を魔法でしっかりと温めてあげてから、部屋の鍵をかけ、新しい布団に包まれながらぐっすり眠った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ