大会当日
朝、目を覚ますと背中が温かかった。最近は朝に寒さで目を覚ますこともあった。こんな気持ちがいい朝は、森の木漏れ日亭に泊まっていた時以来だな。今日は腕相撲大会が開催される日だが、その前に敷き布団を買いに行こう。って・・・?なぜこんなに背中が温かい?
何かいる!
布団を跳ねのけて距離を取った。
「ふぁぁぁ~ぃ、あっ、おはようございます」
そこには、眠そうな目をこするマリーがいた。
いや、なぜマリーがここに?昨日の夜は一人で寝たはずだ。
「どうしたんですか?」
「なんで、マリーがここに居るのかなと」
「ああ、すみません。昨日、帰ってきてそのまま寝てしまったじゃないですか。石を温めるのも忘れてしまったので夜中に寒くて目が覚めてしまったんです」
「それで?」
「お姉さんのところに相談しに来たら鍵がかかっていなかったので」
「それで?」
「気持ち良さそうに寝ていたので、起こすのも悪いかと思いまして・・・」
「・・・」
「ところで、お姉さん。パンツ一つで寒くないんですか?」
うん。マリーは悪いことをしたという気持ちは一切ないようだ。
「寒いけど、外に着ていった埃だらけの服でおふとんを汚したくないの」
初日は寒かったから服を着て寝たけれど、昨日はお酒も入っていたからか寒さも感じなかったので服は脱いでいた。布団が高いから、ちょっと大事にしていこうかと思い始めている。なのでパジャマが欲しい。よし、今日買いに行こう。そして今は裸足で床に立っている。冷たい。暖かいスリッパのようなものもほしい。お金はいくらあってもすぐになくなりそうだ。
マリーは起きようとして布団をめくり、シーツの上に大量についている藁クズを見つけて青ざめる。
「・・・ごめんなさい」
「そのくらいなら叩けばいいから。大丈夫」
そう言っておく。裸で密着されても困るし・・・。
朝食を取ると、まずマットレスを買いに行った。わら敷きはもういや。
マリーたちは、朝からポピーナでアルバイト。薬草採取よりも給料がいいらしい。しかし、大会があるから夜遅くまでこき使われるかもね。
羊毛のマットレスを購入後、そのまま運搬、設置してもらう。
そして、ベッドにダイブした。
「ああ、気持ちいい」
やっと今日からは熟睡できそうだ。
そのまま昼寝をしたかったが打ち合わせがあるので商業ギルドへ。
打ち合わせの内容は今日の進行手順の最終確認。
腕相撲協会会長の挨拶は断固拒否させてもらった。会員もいない名前だけの組織なのに挨拶なんて無意味だ。それもこんな華奢な体格の女性じゃ場がしらけてしまうよ。よし。ミッションコンプリートだ。
後はみんなを信じて選手として参加するだけ。
ということで、午後も買い物に出かける。
今まで矢じりだけ回収しておいた折れた矢を再生してもらい、さらに今まで使用していた同じ矢を10本ほど特注した。
しかし、特注の矢は高い。一本35Cr。ゴブリン一匹にこの矢を1本消費したら、赤字になる。これは厳しい。唯一の救いは、矢じりを持ち込むと一本10Crで再生してもらえること。新品の矢と同じ値段なのは、太さも長さも、木の種類すら違っていて特注扱いになるんだそうな。
走って襲いかかってくるゴブリンに矢を打ち込むと倒れたときにほぼ折れる。量産品の矢はゴブリン専用にしようか。重さも長さも違う矢を使っていると感覚が狂ってくるけど、ホーミングを使っていれば外れることは無いからなぁ。悩ましい。
その後ふわふわした手触りの毛皮のスリッパを購入。家の中でブーツというのも何だし、木のサンダルも昔のトイレのイメージが・・・。
後は暖炉の前にソファーを置くか、絨毯を敷いたり、クッションを置いてくつろぎのスペースをリビングに作りたい。夢は広がる。
そしてコンロが無いからまだ自炊はしないけど食器くらいはそろえておきたい。
ジークたちに任せておくと串焼きの肉しか買ってこない。ちょっとしたスープくらいは食べたいものだ。
なので鍋と食器を購入した。鍋は土鍋。食器は、スプーン、フォーク、コップ、スープ皿、すべて木製。金属は高いので。自分のだけならまだしも6人分だ。マリーの財布のひもは固いようで、余計なものは一切買う気配が無いからね。
そんなことをしていると、あっという間に日が傾きだしたので家でくつろぐことも無く荷物を置いてポピーナに向かう。
参加者の受付は商業ギルド職員のエリー。腕相撲協会の会計を担当してくれる若くてかわいい女の子だ。
「お疲れさま。参加者はもう来てる?」
「あ、ちらほらですけど何人か。もう飲んじゃっているみたいですけどね」
店内を見渡すと、もう何組かテーブルを囲んで飲んでいる。
「それで、リューさんが来たら早くアレを作ってほしいとのことで、女将さんが待っていますよ」
「ああ、アレね。分かった」
泡エールね。今日は一体どのくらい作ればいいのだろう。
「それと、これに着替えてください。あちらに女性用の控え室がありますので」
渡されたのは少しお高そうな服だった。
「この服は?」
「少し言いにくいのですが、レイモンドがですね。リューさんの着ている服がみすぼらしいからと言うことで・・・。あの、リューさんの参加は客寄せ的な意味合いもあるので」
そうですね。今着ているのはお金が無いから古着屋で見繕った何の変哲も無い服です。
「分かったけど。これ貸衣装?」
「いえ、そのままリューさんが貰ってしまって構いません」
「そうなの?高そうだけど・・・」
「経費扱いで処理するので大丈夫です」
「えっ!?経費?いいの?」
エリーは辺りを見回しながらカウンターから顔を寄せてきたので、こちらも耳を近づけると小声で話し始めた。
「今回かなり儲かりそうなので、いろいろと経費を計上しないと結局税金でもっていかれてしまいますから。それに相撲協会はうちのギルドとは別組織扱いで、監査とかも無いので、お金は使いたい放題です。まあ、これは報酬の一部だと思ってください」
レイモンドさんの指示なら何の問題も無いだろうが、後になって横領だとか言われて首を切られるなんて事になったりして。疑いだしたらキリが無いんだけどね。
あらためて渡された服を広げてみた。少しフォーマルな印象のしっかりとした作りの服だった。生地も仕立ても良さそう。一応スカートでは無い。
「これ、着てやるの?」
「そうですね」
「あまり腕相撲をするときに合うとは思えないんだけど」
「女性の騎士服はこんな感じですよ。結構激しく動いても大丈夫なはずです」
フリフリの女の子っぽい服装じゃ無いのは良かったんだけど。
「半袖?この細い腕じゃ、オッズがひどいことになるんじゃない?」
「はい。逆に見えた方が、強さとのギャップがあって、受けるんじゃないかとの事です。なので、一回は勝って下さい」
「そうね。場違いなところに出てきた頭のおかしい女で終わってしまうと、街中を歩けなくなりそう・・・」
「リューさんなら大丈夫です」
簡単に言ってくれるなぁ。ああ、胃が痛くなってきた。もっとお気楽な大会のはずだったのではなかったか?
「まあ、ぼちぼち頑張るよ」
その後、女将さんに挨拶したら10樽も炭酸追加させられた。
今日からは、ぼったくり価格ではなく、ほどほどの値段で売るそうだ。なのでこれからは1樽400Crという事になった。そして10樽処理すると、それは4000Crとなり、昨日の稼ぎを軽く超えることになった。いやもうこの仕事だけでいいよ。週休6日でのんびり生きていく。
着替えて表に出ようとすると身長と体重を計測された。まさかと思うけれどもこれ確実に公表されるよね。別にいいけどね。元男だし。打ち合わせの時にこんな話していたかな。ん~、思い出せない。
表に出ると参加者がそろったと言うことで、大会が開始されることになった。これは自分が一番遅かったのか?時計なんて無いので時間がきっちり決まっていたわけじゃないけど。遅くなったのは10樽も炭酸追加させた女将さんのせいだ。ということにしよう。
「では、これより、第一回マデリン腕相撲大会を開催します!」
スティーブが声を張り上げている。マイクも無いからそうなるよね。
「「「わーっ!」」」
大きな歓声が上がる。
「では、選手紹介とトーナメントの抽選を行います。名前を呼ばれた選手は壇上でくじを引いて下さい。ではエントリー番号1番リューさん!」
自分が最初だった。
「なんだ、あの細っこいのは!」
「なめてんのか!」
とかまぁ、ひどいヤジが飛ぶ。それを無駄に高性能な耳が聞き取ってしまう。へこむからやめて。しかし、盛り上げ役としてここに立っているからには精一杯の作り笑顔で手を振る。
「身長172cm、46kg、森の妖精リュー!こんな細腕だが、侮るなかれ!オークを一撃で倒すほどの強弓使いだ!昨日は、ここの女将さんも倒している。その実力は本物だ!」
その紹介でヤジは収まり、ざわめきが広がっていく。どの部分にざわついているのか非常に気になるが、笑顔が引きつらないように必死にこらえた。
くじを引くと一番だった。カウンター近くの壁に大きなトーナメント表が立てかけてある。自分の名前が書いてあるカードが一番の場所に引っかけられた。
サラは反対側の山に入ったので決勝まで当たることはない。
「身長183cm、127kg、木こりギルドのトップ、バーナード!本日の選手の中でも屈指の巨漢だ!」
「よし、いいとこ引いたわい!」
筋骨隆々の男が二番を引いていた。白髪交じりのひげが印象的な顔だ。
うわ、よりにもよって初戦の相手はこれかよ。




