シャワー
ポピーナを出るとマリー達が待っていた。
ジークが何か言おうとしていたところで、マリーがグイッと前に出る。
「お姉さん、流石です!」
「あっ、マリー。ありがとう。待っててくれたんだ」
「ちょうど帰ってきたところで、何やら盛り上がっているところが見えたので」
「店中に入ってきても良かったのに」
「応援は、中でさせてもらいましたよ。でもその後は・・・、値段も高いですし・・・」
「あー、それもそうか」
そこにスティーブが割り込んできた。二人の肩をポンと叩く。
「よし、今日もうちのホームで打ち上げやるか!」
「やったー!」
マリーの笑顔がはじける。きっと私ではなく、これを待っていたに違いない・・・。
男性恐怖症は克服したと思うが、ビクッとしたよ。全くスティーブのヤツめ、遠慮がないな。
「今日は、打ち上げの前に汗を流しておきたいから、少し遅い時間でもいいかな?」
前回は朝まで防具を付けたままで、失敗したのを思い出した。
「それならうちのシャワーを使ってみないかい?」
会話にアーサーが入ってきた。
「え、いいんですか?」
「今日は特別」
「ありがとうございます」
やった。シャワーもうれしいが、シャワーの魔道具がどんな具合なのか気になっていたところ。ぜひうちにもほしい。
「あのっ、あのっ、私も使ってみたいです!」
マリーも興味津々のようだ。
「まだ未体験?」
「はい、話には聞いたことがありますが・・・」
「じゃ、リューさんと一緒にどうぞ」
「やったー!」
急いで、家に戻り着替えを持ってお隣さんへ。ちょうどアーサーがシャワーを浴びた後だったらしく、濡れた髪の毛のまま出迎えてくれた。マリーはちょっと赤い顔に見える。アーサーはやたらと整った顔立ちだし、これが普通の反応なのかもね。私(俺)の心は凪だが。
「ここのつまみを左に動かすと、シャワーが出る。水量を調整できるけど、目いっぱい左でいいよ。そんなに勢いよく出てこないから。そして、その上のつまみは温度調節。ちょっと動かすだけで水になったりするから気を付けて。魔石は新しいのを入れておいたから大丈夫だと思うけれど、もし、シャワーが止まってしまったら呼んで。妹を行かせるよ」
「そんなにすぐに、魔石ってなくなるんですか?」
「6人で使うと、だいたいゴブリンの魔石が一つ無くなるくらいかな」
ゴブリンの魔石の買取価格が、20Cr。という事は、シャワー1回で3Crちょい。しかし、魔石の販売価格はここマデリンで50Cr。都市部で60Crという話を聞いた事がある。すると、シャワー1回で10Cr。1000円だとしたら、なかなかにお高い。
「結構使いますね」
「そうだね。僕ら冒険者だからこその贅沢かもね」
そう言って、アーサーは水場から出て行った。
シャワーは、高い位置に取り付けてある。モーガンなんかは190cm超えているだろうし。でもマリーなんかは、140位しかなくて魔道具本体にギリギリ手が届くかどうか。だから、一緒にという事なのかな。
「みんなが帰ってくる前に、さっさと浴びちゃおうか」
アーサー以外は、買い出ししているらしい。まだ帰ってきていない。
さらっと脱ぎ始めたらマリーが扉に鍵を掛けた。
「お姉さん。いつもの事ですが、油断しすぎです」
「あはは。ゴメンゴメン」
服を脱いだら早速、下のつまみを左に動かす。するとすぐに反応してお湯が出てきた。勢いはそれほどないが、最初から温かいお湯だ。部分的に現代のものより機能的に上回るというのは面白い。また、配管が不要なので、持ち運びも可能かもしれない。どんな粗末な家に引っ越しても、取り付けるだけですぐに使えるというのは便利だ。電気や水道の無いどんな僻地でも魔道具さえあれば快適な暮らしができるというもの。
「あー、気持ちがいい・・・」
確かにシャワーの勢いは物足りないが、十分及第点。シャワーですらぜいたく品の部類に入ってしまうこの世界で、柔らかな温もりを顔に受けながら目をつぶれば、シャワーを浴びる事さえ面倒くさいと思っていた過去の自分を思い出す。
「お姉さん、早く代わってください」
隣では、もう待ちきれないといった表情のマリーがいた。
桶にお湯を貯めてからマリーと交代する。
そして、髪を洗う。水場は風呂場と洗面所を合わせたような広さで、スペース的には問題ない。しかし、長い髪は洗うのが面倒くさい。濡れるとずっしりとした重みを感じる。頭を横にして桶の中で髪を流していたらマリーと目が合った。
「マリーも洗う?」
「はい!」
聞けば、これもまた孤児院を出てから頭を洗ったことは無いらしい。もともと頭は一月に一度くらいしか洗わないのが普通とか。冒険者の普通なのか、孤児院の普通なのか、庶民の普通なのか、それは分からない。
マリーの髪を泥で洗ってあげてシャワーで流す。
その後、また桶にお湯を貯めて部屋から持ってきたビーカーを取り出す。そして入っていた緑色っぽい茶色のペーストとよく混ぜ合わせた。
「なんですかそれは」
マリーが顔をしかめている。
しかし、そんなことは気にせずに髪を浸して馴染ませた。
「これは、薬草のペースト。ポーションを作った後の廃棄物だけど、こうして使うと髪がつやつやになるの」
エレーナの知識なので自分でやるのは初めてだ。
「マリーもやる?」
「はい!」
「じゃ、これ。でも気を付けてね。目に入ると痛いから」
マリーの表情は少し引きつって見えた。河原でお風呂に入った時の事を思い出したに違いない。
最後にシャワーで洗い流す。
「あーさっぱりした」
「すごいですね。これ。髪がサラサラになりました」
そりゃそうだろう。ここに来る前、部屋で薬草ペーストに魔素注入までしておいたものだし。
マリーの髪は乾燥魔法で程よく乾いている。
自分の髪も範囲を絞って魔法をかけた。しかし頭皮の近くは温風魔法。面倒くさいがこの長い髪全てにドライヤーをかけるより手間はかからない。
着替えてリビングに行く途中、炊事場にレイラがいた。
「どうも。シャワーお借りしました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
マリーも同じように挨拶している。
「どういたしまして。あれ?」
レイラはスープをかき混ぜながら挨拶を返したが、何かに気が付いた。
「リューさんの髪は前から手入れが行き届いていると思ったのだけれど、マリーちゃんの髪、どうしたの?」
まあ、さっきまでは、かなり荒れ放題だったからね。
「えへへ、お姉さんの魔法です」
何故か自慢げなマリーだった。しかし魔法では無いのに。
レイラは目を丸くしている。いや、ギラギラしてきた。
「後で、三人でお話ししない?」
「はい、喜んで!」
マリーは速攻で返事をする。
「ちょうどお話ししたいと思っていたので、ぜひ」
そう、魔法の事とか、いろいろ聞きたい。できれば教えてもらいたい。
その後、買い出し組が帰ってきてから宴会となった。
当然のように泡エールを作らされる。まあそれは、どうという事も無いのだが。なぜか違和感なくトーマスが混ざっていた。
「なんであんたがここに?」
「いいじゃないか。アイアンイーグルも混ざっているんだ」
「それは、お隣さんだから」
「俺も、裏通りの二軒先」
「えっ」
めっちゃご近所さんだった。




