新魔法の研究
次の日の朝、ノックの音で目が覚めた。
「今開けるから、待っててねー」
普段着を着てからドアを開けると、珍しいことにトムが立っていた。
「これ」
言葉少なめに、ポスターを差し出してきた。
四枚全て描いてあった。だんだんと上手になっていっているのが良くわかる。
「ありがとう。もう全部書いてくれたんだね」
「うん。あとこれ」
インク瓶と羽ペンを受け取る。
本当は、プレゼントしたいところだが借りものだから返してもらうしかない。
「じゃ、ちょっと待ってて」
財布から、銀貨五枚を取り出して持ってくる。
「はい、ありがとう。なくさないようにね」
「うん」
トムは満面の笑みで頷くと、階段を駆け下りていった。
そのまま朝食を取りに降りていくと、既にアイアンイーグルの面々は勢ぞろいしていた。
みんな無言で、トムを見つめている。
「おはよう」
「あ、お姉さんおはようございます」
「どうしたの?」
「いえ、今、パーティの財布がピンチなんですよ」
財布がピンチで、なぜトムを見ている?嫌な予感が・・・。
「じゃあ、二枚だけ」
トムは、さっき手に入れたばかりの銀貨を二枚さしだした。
「よし」
マリーは頷き、それを手に取ろうとする。
「よし、じゃなーい!!!」
すかさずマリーの頭をこぶしで挟んでグリグリパンチした。
「イダダダダダダ!」
「なにやってんの、それトムのお金でしょ」
さっき渡したお金に違いない。
「だって、ピンチなんですよ」
「だってじゃない。じゃ、借りたことにしなさい」
「・・・はぃ」
マリーの返事は声が小さい。
「お金が入ったら必ず返すこと」
「はーぃ」
まったく。せっかく頑張ったトムが可哀そうだ。
ということで、財政がピンチのアイアンイーグルは、薬草の買い取り額が上がっているということで、薬草採取に出かけた。おそらく、今度取りに行く魔力草と関係していると思う。処理してハイポーションを作るための準備で、薬草の値段が上がっているんだと思う。
今日は、まず商業ギルドに行きポスターを置いてくる。
そして、布団を買いに行く。
ちなみに、すでに持ち金はトムに渡した銀貨で、1400Cr割り込んでしまっていた。
ということで、粘りに粘って、1300Cr。加えてワラも全員分大盛りでサービスしてもらった。必死の笑顔でお兄さんにお願いし倒したのだが、これは黒歴史として封印したい。
購入後、そのまま納品してもらう。
昨日、マリー達が三階に集まっていたのは、ちょうどベッドが届き設置してもらったタイミングだったようだ。すべてのベッドの枠内にワラを敷いてもらった。
マリー達のベッドはワラが山盛りになっているだけ。自分なら絶対に森の木漏れ日亭に泊まり続けたと思う。
自分のベッドは、藁の上にシーツを敷き、その上に羊毛の入った布団が掛けてある。枕はサービスしてもらえなかったので、シーツの下、頭の位置にワラを丸めて枕代わりに盛り上げてある。明日から魔力草採集までの2日間、いや、採集して帰ってくる頃にはお店が閉まっているだろうから3日間か、このベッドで我慢することになる。
昼も遅い時間になってしまったので、昼は屋台で串焼きを買って軽く済ます。そして、冒険者装備に着替えて南門を出る。いつもの草原で魔法実験だ。
失敗した雷魔法を何とかしたい。自分に当たってしまう事故を防ぐため、なるべく地面の近くにしようということで、河原に移動した。
まず、電子は集めるのではなく、魔法で作り出すことにした。試しに魔法を発動させてみると水面近くでパチパチ音が響く。電子には質量もほとんどないので大丈夫だと踏んではいたが、これが大成功。ほとんど同じコストで集めることに成功した。
次に、なるべく距離を取って出力を上げていく。
すると、だいたい2メートル。このくらいが大出力・遠距離という条件で最も効率が良さそうだった。地面から1メートルほどのところで発動させて、地面にスパークする程度の出力が出せる。
向かってくる敵には、このような設置型でも使えるが、使い勝手はあまり良くない。
直接飛ばすのは難しそうなので、矢に乗せたい。
そうだな。空気中よりは、矢の方が帯電しやすいだろうから・・・。
先ほどと同じように2メートル先の空気中に電子を生成し、その空間を矢で射抜いた。
パチッ。
おそらく矢に帯電したが、どの程度したものか、威力がどうなのか全く不明。しかし、矢の飛んでいく軌道に沿って、近くの草が揺れていた。矢を放っただけでそれほど空気が動ことは無い。となればこの現象は矢に帯電した静電気のためということになる。下敷きをこすって頭に近づけると髪の毛を逆立つ現象と同じだろう。
明日、新魔法をウサギで試すか。いや、背の高い草に放電してしまっていたとしたら、ウサギには試せない。現に矢が刺さっている地点のかなり手前から、草が揺れていなかった。
ゴブリンか・・・。マリー達と行ってみるかな。
それにしても、強く帯電させると、あちこちに放電してしまって使い勝手が悪くなってしまうかもしれない。草原だったらホーミングだけつけて山なりの軌道に変えるか。なんにせよ森の中では使いにくそうだ。
そういえば、ホーミングを使うと、矢と自分は細い魔力でつながっているはずだ。その魔力を電線のように変えれば、矢が刺さった相手に直接電撃を送り込むことができるかもしれない。空気に電気を通すには・・・プラズマ化か?それ、細い魔力でできるのか?そして、自分と矢がつながっているなら、矢より先に自分の方に電撃が来るのでは?・・・怖いな、実験したくない。
そうだ、矢に電子ではなくプラズマをまとわせて、そのまま糸を引くように攻撃対象まで電気の通る道を作ればいいのでは?
これはうまくいきそうな気がしてきた。魔法はイメージが重要だからね。
早速、実験を開始した。
結果、空気をプラズマ化するのは問題なくできた。そして矢に風のエンチャントをかけると、何もないよりプラズマを多く巻き込み遠くまで届き、そして時間的にも短くなるのでプラズマ状態を維持しやすかった。そして、魔法でプラズマ状態を維持させるイメージを追加することで、ようやく実用レベルに達した感じだった。電撃を発生させるタイミングは、実戦で繰り返し練習して最適なタイミングを覚えるしかないな。
今日は、もう日も傾いてきたし帰ることにした。
腕相撲大会の打ち合わせは進捗確認といったところ。昼前、ギルドにサラが来て、ポスターの絵を置いていってくれたらしい。とりあえず、それもポスターに採用された。張り出す場所は、ポピーナ店内、店外、冒険者ギルド内、商業ギルド内、北門、南門の6カ所となった。門にも張れるとは、ギルドの力だろうね。
ギルドからの帰りは、またトーマスに送ってもらったが、特に何事もなく無事に宿に帰り着いた。昨日の捕り物から人身売買の犯罪組織を一つつぶしたとのことで、この街も少し治安が良くなったのだろう。
夕食時、マリーは機嫌が良かった。
「今日は、今までで一番の稼ぎだったんですよー」
「よかったね。こっちもいい報告が。ワラは全員分サービスしてもらったよ。もう入れてある」
「ありがとございます。これで明日からも何とかなります」
「ところで、明日はゴブリン狩りに行こうかと思っているんだけれど一緒に行く?」
すると、アイアンイーグルの面々に緊張が走った。
そうだよね。一週間前に死にそうになったゴブリンだ。
マリーは不安な顔をしていたが、ジーク達男共はやる気に満ちていた。
「やる。マリーもいいよな」
珍しく、ジークがリーダーのようだった。
「うん」
元気の無いマリー。
「本当は、防具も買ってからの方がいいのだけれど、ポーションもあるし、サポートもするから、あの時のような事にはならないと思う。でも自信がないならまだやめておいた方がいいかも」
「ううん。そうだよね。お姉さんがいるもんね。うん。大丈夫。行きます」
マリーにもやる気が出てくれたようで良かった。




