捕り物
ギルドに到着後、適当に本を借りる。
トムの描いた絵の上に「腕相撲大会」と、かっこよさげな字体を選び、よく見ながらレタリングする。
絵の下には、「場所:ポピーナ」と記入。日時は、まだ入れなくてもいいかな。
「集え強者よ!」とか入れたいけど、文字が読めない人が多いんじゃなぁ。こんなもんでいいや。
今日の打ち合わせは、主に進捗確認。ポスターはOKだった。追加で5枚頼まれた。文字は、商業ギルドの方で入れてくれるらしい。そんなにひどい文字ではないと思ったのだが・・・まあいい。そして、腕相撲用のテーブル代は戻ってきた。これで、布団が買える。
「ところで、昨日、打合せの帰りに襲われたんですが、皆さん大丈夫でした?」
「ああ、その件は聞いているよ」
宿屋のおやじから、冒険者ギルドのギルバートを経由して、トーマス、そして、レイモンドと午前中のうちに連絡がいっていたらしい。狭い街だね。
「今日からトーマスに送ってもらう事になっている」
「えっ、こんなので大丈夫?」
「このなので悪かったな。ただのギルド職員なんだから大丈夫なわけあるか!俺とお前はおとりだよ」
「そうだ。こういう輩は、さっさと排除するに限る。油断して近づいてきたところを一網打尽にする計画だ。それで、君にはこれを持っていてもらおう」
渡された肩掛けバックの中には、直径30cmくらいの円盤のようなものが入っていた。金属製なのかそこそこ重さがある。
「これはなんですか?」
「君の身を守ってくれる魔道具だよ。半径2メートルくらいの結界を作り出す」
「魔道具!?」
「危なくなったら、魔力を流し込んでほしい。タイミングはトーマスから支持させる。くれぐれも不用意に使わないでくれ。今、使われると建物が壊れる」
夜道を歩く男女。トーマスとリューだ。
「護衛なんだから剣くらい持ってきたら?」
「襲われたとき、相手は剣を抜かなかったんだろ。だったら殺しじゃなくて誘拐目的だろうから、剣なんて無い方がいいだろ。こっちが抜いたら向こうも抜かざるを得ない」
「そういうもの?」
「そういうもの」
「ふーん」
「で、男たちが現れたのはこの辺だったか?」
「そう。脇道の無い比較的長い一歩道」
そんな話をしていたら、ちょうど男たちが現れた。
「あっ、来たかも」
今日は、曇りなので星明りは無い。かなり暗い夜道だ。しかし、エルフの特性なのかどうかは分からないが、夜目はかなり効く。
「えっ、よく見えるな」
「そんなんで大丈夫?タイミング間違えないでよ」
トーマスはカンテラをかざしているが何も見えないらしい。
後ろを振り向くと、やはり三人の男たちが路地から現れた。
立ち止まり、バッグを抱えて魔力を込める準備をした。
男たちはゆっくりと歩いてくる。前から三人、後ろから三人。昨日と同じだ。
トーマスが頼りないので、パッシブスキャン。
男たちが現れた路地の辺りにさらに何人かこちらを窺う人影がある。これは、レイモンドさんが手配した人員だろうか?少し安心した。
男たちが歩いてきてくれたおかげで、トーマスもしっかり認識できたようだ。
「今だ」
相手が話しかけてきそうな距離だった。
待ってましたとばかりに、魔力を注ぎ込む。どんな性能なのか分からないので、どんどん注ぎ込む。
すると、まず抱えていたバッグが浮き上がる。自分の全体重をかけても抑えきれないほどの浮力。次は、足元に何かが出現し、体が地面から浮き上がった。自分たちを包み込むようにし出現したのは、直径三メートルほどの薄く発行した球体だった。
トーマスは、滑って転んで私の足元にうずくまっている。
「ちょっと何やってんの?」
トーマスに足元をすくわれて転びそうになったので、必死にバックにしがみついた。どうやらバッグを中心にした球体らしい。
「いやいやいや、あり得ないだろ」
足元で驚愕の表情を浮かべているトーマスも気になるが、男たちの方が気になる。
周りに視線を向けると、男たちが慌てていた。発光した球体をこぶしでたたいたり、剣で切りつけたりしているようだが、音がほとんど聞こえてこない。防御魔法は効果十分のようだ。安心して一息ついた。後は、放っておいてもよいだろう。そして、もう一度トーマスを見る。
「ちょっと落ち着いて。何の話?」
「防御魔法が発光するなんて聞いたことが無い」
「ああそぉ。そんなことはどうでもいいから、そこどいて。踏んずけるわよ」
トーマスは、バッグのちょうど真下で尻もちをついたままだ。
「あ、いや、これ、つるつる滑って立てないんだよ」
「そう。こっちも手が限界」
実は限界でも何でもないのだが、いつまでもバッグにしがみついたままでは身動きが取れない。バッグの真下はちょうどトーマスの下腹の辺りだがまあいいや。トーマスの上に立とうとしたら、足を手でつかまれた。
「おいっ!俺の大事なところを踏もうとしただろ」
「踏まれたいのかと思って」
「そんなわけないだろ!」
トーマスは、つかんだ足を自分の体の上からずらしておろした。そこは足の付け根付近。
「ちょっと、股間を押し当てようとしていない?」
「違うって!」
トーマスと緊張感のない会話をしていると、またしても球体をたたくような音が聞こえた。そこには、レイモンドが立っていた。
球体は、さっきより光り方が弱くなってきて、外の様子がよく見える。男たちは既に取り押さえられているようだ。そして、音も多少聞こえるようになってきていた。
「魔力供給を絶て」と言っているようだが、もう既に供給はしていない。
トーマスも落ち着いてきたようで、周りをきょろきょろ見回している。
とりあえずこれ以上やることは無い。なので、球体の上に両足で立ってみた。確かにつるつるしていて立ちにくい。バッグから手を放すことはできない。バッグは相変わらず、空中で静止している。
やがて発光が収まると、足元の感触も柔らかくなっていき、地面に足が付いた。
「ごくろうさま」
レイモンドの声が普通に聞こえた。
「いやはや、エルフの魔力量は多いと聞いていたが、ここまで規格外とは」
「どうも。すみません」
どうやら、魔力を込めすぎてしまったらしい。でも教えてもらっていないんだから仕方ないよね。命がかかっていたから全力で込めてしまったよ。
「魔道具が壊れていなければいいが・・・まあ、そんなことは気にしなくていい。壊れていたとしても君のせいではない」
「ありがとうございます」
気を使ってくれたようなので、とりあえずお礼を言っておいた。
「賊は全て捕らえたので安心してほしい。首謀者まで捕らえられるかどうかは分からないが、ここから先は任せてもらいたい」
「よろしくお願いいたします」
もう帰っていいようなので、さっさと帰ろう。
一応、宿の前までトーマスに送ってもらった。




