ナンパ
お昼を食べてから街に戻ってきた。
今日は行きも帰りも小走り。これも訓練の一環。
マリーと体の大きいジョンは少しばて気味だった。
午後、マリーたちはお買い物。みんな靴を買うことにしたらしい。まず宿に戻ってウサギ肉を売却。
自分は冒険者ギルドへ直行しウサギの毛皮を売るつもりだ。
そして、とっておいたグレートボアの魔石も売り払う。お金が無くなるのは避けたいので、明日は薬草採取でもしようかな。
ギルドの中は閑散としていた。
買い取りカウンターには職員すらいない。
受付に一人たたずむ女の子に声をかける。
「あの、買取をお願いしたいんですけど」
「はい、素材の買取ですね。少々お待ちください。買取お願いしまーす!」
大きな声でカウンターの奥に声をかけた。
しばらくして若い男が顔を出す。
この前も買取のカウンターにいた職員だ。専門かな。
「この時間に買取って、あ、エルフのねーちゃんか」
「どうも」
「今日もウサギか」
「はい。毛皮五枚で。あと、魔石もお願いします」
「結局売ることにしたのか」
「はい・・・」
非常に残念ではあるのだが、お金が無いのです。
「ウサギなんて狩ってないで、大物、大物。大丈夫、いけるさ」
ずいぶん軽く言ってくれるね。この人は魔物と戦ったことあるのだろうか。
「装備が整ってきたら、少しずつ慣らしていきますよ」
「そういやあの革鎧じゃないんだな。補修中か?あのままでもいいと思うけどな。セクシーで」
この変態野郎め。
・・・まさか!この世界、ビキニアーマーなんて物が本当にあったりするんだろうか。
いやいやいや無いだろう。肌むき出しなんてケガするから。
「はい、毛皮5枚で25。魔石で300。合計325Cr」
置かれた硬貨を確認して財布という小さな革袋に収める。
「そういえば、この辺に生えている薬草とか、魔物について書かれている資料とかありますか?」
「ああ、資料室はあるけど大したものは無いぞ」
「見せてもらってもいいですか?」
「おう。受付カウンターのすぐ裏の部屋だ」
「それって誰でも見ていいんですか?」
「ああ、冒険者章があればな。でも、あまり見ようとするやつはいない。文字が読めないやつも多いからな」
「そうなんですね」
「若い奴らは先輩冒険者から話を聞くとかして、だんだんと仕事を覚えていくんだ。だからあんたも小僧達とばかりつるんでないで、もう少し上のランクの奴らと話をしたりした方がいいぞ」
「そうですか」
なんかさっきから、返事が淡白になってしまったのは自覚している。
こいつ口がうまそうで、なんかやな感じが。
「なんなら俺が教えてやろうか」
手取り足取りって言ったら殺す。
「仕事終わりでよければ、一杯おごるぜ」
「けっ、えっ?」
断ろうと思ったが、これは・・・ただ酒か。
「一杯とは言わず、何杯でも」
それは魅力的な提案なのだが男と二人というのはなぁ。
「他にも連れて行っていいのなら」
「えっ、ちょっとガキンチョは勘弁してほしいなぁ」
アイアンイーグルのメンツは却下ということか。とは言っても他に知り合い少ないし。
「じゃ、誰か連れてきて」
「んー、誰でもいいなら・・・」
「女の子」
「お、女ぁ!あんたそっちかよ」
盛大に勘違いされた。
「違う!女一人は嫌なだけ。他にも連れてきていいから」
「んーそうだな。まあいいか。じゃ、日が暮れたら、大通りを南門の方に少し行ったところにあるポピーナという店で。俺は、トーマス。よろしくな」
トーマスは手を出してきた。これはお決まりの握手ってやつだろうがそれはまだ敷居が高い。こんな場所で吐いたら最悪だし。ただ酒は消えてしまうだろう。
「私はリュー」
そして、手は握らず軽く叩いてみた。
「エルフに握手の習慣は無いの」
今決めた適当な設定だ。
「そうなのか?」
不信な顔はしていないから、はったり成功だ。
飲み会が始まってしまえば男性恐怖症がバレても問題は無いと思う。いや、逆に積極的にアピールして面倒事を回避するのだ。
せっかく整った顔なんだから、そこは利用させてもらおう。体は魅力的とは言い難いが。うまく立ち回れば毎日ただ酒。なんちゃって。
「じゃ、資料室使わせてもらうから」
さて、まずは植物について調べようかな。
全体的な植生としては少し暖かいところに生えるものが多くなっているようだ。
一番大事な薬草と魔力草はエレーナが使っていたものと同じだった。
魔力草は西に半日ほど歩いたところにある泉のほとりによく生えていると。
これを取りに行くのには案内が必要だろうね。
そして魔物。
街の西側を南北に流れる川がある。
その川を渡った西側が魔物の領域ということのようだ。
川のこちら側では角ウサギくらいしかいないらしい。
この辺に出るのは、角ウサギ、ゴブリン、オーク、グレートボア、人食いナマズ、少し奥地に行くと、キラーエイプ、フォレストウルフなどなど。
西側でも山の上の方にはアイアンイーグルがいるらしい。
ま、奥地に行くことは無いからこの辺は読み飛ばす。また後で読もう。
そして魔物を調べる。
角ウサギはそれほど強くないが藪の中から突然現れ角で腹を刺され死ぬことも多いか。
気を付けよう。
十分に引き付け飛びかかってきたところを角より長い武器で仕留めるのがよい。
ほぼ単独で群れることはめったにない。
討伐証明部位は角でそのまま売れる。肉も毛皮も売れるが普通のウサギよりは安い。そして魔物ではあるが魔石が非常に小さく売り物にならない。
ゴブリンは肉もまずくて魔石しか売れない。討伐証明部位は右耳。
弓や、こん棒、石斧、槍等の武器を自ら作り持ち歩く。弓を持った個体は優先して倒す方がよい。槍も投げてくる場合があるので要注意。
すぐに増えやすく群れると厄介なため、巣穴を見つけた場合は速やかにギルドに報告と。
巣穴は狭い場合が多く武器を振り回せない。入り組んでいて挟み撃ちに遭う等、危険が多い。
群れるとまれに上位種が現れる、か。
上位種は体も大きいため巣穴の天井も高くなる傾向にある。
死体は人間との境界域では埋めることを奨励する。魔物の領域ではその限りではないが、魔石は魔物の進化を促進する可能性があるため必ず取ること。
他にもいろいろと書いてあった。
魔法書とか錬金術の本とかがあれば良かったのだがそんなものは無かった。
さて、ほどほどにして街に出る。また明日来よう。
今日も買いたいものがいろいろある。
コップ、皿、くし、リボン、ナイフの手入れのため砥石と油。そして、全部食われて無くなった塩。
ウサギの内臓を持ち帰る袋も欲しいが何でも買っているとすぐにお金が無くなる。
今日は素材袋の中に桶を入れていった。それでも何とかなる。
100円ショップ無いかなぁ。
小さい街だけれどいろいろ店を回ると時間がかかる。車も自転車もないからね。
補修の終わった革の鎧、その下に着る予定の革の服、それらも取りに行き宿に戻ってくるともう夕暮れ時。もうすでに何人か夕食を食べている客がいた。
「今日は、外で食べてくるので夕食いりません」
マスターに声をかけてく。
マスターは忙しそうで、こちらを振り向くこともなく軽く手を挙げるのが見えた。
すぐに部屋に戻り櫛を使って髪をとかす。そして三つ編みにしてリボンで止めた。いい感じだ。
出かけようと部屋の扉を開けると、
ガン!
「あいたっ!」
マリーの声だ。ちょうど扉を開けた時に当たってしまったらしい。
「ごめん、痛かった?」
「大丈夫です」
マリーは鼻を押さえている。笑っているが少し涙目だった。
「そんなことより見てください。ジャジャーン」
片足を出して、腰に手をあてる。
「おっ、いいね。似合ってる」
「でしょ。うふふ。初めての靴だし、ちょっとだけかわいいのにしちゃった。あいつらには悪いけど」
自分だけ少しお高い靴を買ったのかな。マリーも地は悪くないから、おしゃれにお金を使えるようになったら化けるかもね。
「ところでマリー。それ、靴下はいている?」
「靴下?」
「これ、これ」
分からないようなので自分のブーツの隙間から上のほうを引っ張り出す。元々は股下まであったはずだが膝上でちぎれている。後でほつれないように補修して、ずり落ちないようゴムの代わりにスパイダーシルクの糸を使う予定。今はちぎれた部分が見えないように丸めてブーツの中に突っ込んであるだけだ。
「あ、昨日干してあったやつですね」
「そうそう。素足だとすぐに臭くなるかもよ。それと、湿ったらすぐに乾かすように」
「そうなんですね。気を付けます・・・」
「帰ってきたら手入れの方法教えてあげるから」
と言ってから気が付いた。メンテナンス用のクリームも何も無かった。また買い物か、お金が・・・やばいな。それに飲んだら遅くなりそうだし。
「ありがとうございます」
「あ、ごめん、明日ね、明日」
「?」
「今日、夕食は外で食べてくるから」
「え?」
「ということで、みんなによろしく」
と言って、さっさと立ち去ろうとしたら手首をつかまれた。かなりの力で。
な、何かな・・・。
「どこに行くんですか?」
「ちょっと夕食に」
「じゃ、私も行きます」
ガキんちょはダメと言われているし、どうしよう。
「いや、あの、飲みに行くから。子供はダメ」
「何言っているんですか。おととい一緒に飲んだじゃないですか」
そういえばそうだった!それに水筒に入れていたのも薄いアルコール飲料。
「それにほら。お金無くなっちゃうよ」
「お姉さんは、私たち以上に買い物していますよね。それはいいんですか?」
ウグッ。そうだった。
「今日は、おごってもらうことになっているから、お金かからないの」
マリーは半目になった。
「まさか男ですか?男は嫌いだって言っていたのに」
「え、いや、男性恐怖症ではあるけれど、嫌いとは言っていないって」
「なんですかその冗談みたいな設定は」
いや設定じゃないから、体が勝手に反応するだけだから。どっちかっていうと女の子のほうが好きだし。どうしよう。
「ちょっと声をかけてきた子がいたから、情報収集のついでに、ただ酒をいただこうかと思って」
「本当ですか?」
「本当にそれだけ」
「その男、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。ギルドの買取やってた人」
「あぁ、あの野郎か」
マリーさん。あの野郎なんて言っちゃいけません。
「だから心配しなくても大丈夫」
「いえ、信用できません」
え、それはどっち?
「すぐに帰ってくるから」
「いえ、ついていきます」
「えっ、それはちょっと」
「大丈夫です。お姉さんの恋路は邪魔しません。たまたま同じ店で飲んでいただけということで」
男を好きになることはあり得ません。と言いたいが信じてもらえそうもない。
「んー、しょうがないなぁ。ほんとに邪魔しないでね。ところで、それはマリーが大丈夫。まさかみんなで来るの?」
「そんな無駄遣いできないので、最低限の人数で」
まあ仕方ない。遠くから眺めているだけなら。
「ふぅ。じゃ行くから」
「待って、場所はどこですか?」
「ポピーナという店。知ってる?」
「大通り沿いにある店ですね。そこそこ大きいし。あそこなら」
「じゃ、先に行くから」
「では、ごはん食べてから行きます。本当に気を付けてくださいよ」
「大丈夫だって。40歳だし」
エレーナの記憶を含めると80年以上の人生経験だ。よく考えるとすごいな。
それにしても監視されながらの飲み会かあ。
なんかテンション下がるなぁ。
あ、39歳だったっけか。サバ読むの忘れてた。




