髪の毛サラサラ
シャワーを浴びてきて、魔法の鏡の前で髪の毛を乾かしていた。
そこにナタリーが話しかけてきた。
「リューの髪の毛っていつもサラサラで綺麗だけど、そういう魔法を使っているの?」
「魔法は使っているけど、乾かしているだけ。髪の状態がいいのはコレかな」
小瓶を見せる。
中には緑がかった茶色いドロドロした物体が入っていた。
「なにそれ?」
ナタリーの眉間にシワが寄る。
「薬草の絞りカス。頭を洗う時にこれを使うと良い感じになるよ。使ってみる?」
これはマデリンから持ってきた物だ。もう残り少なくなってしまった。
「どうやって使うの?」
「桶にお湯を張って、その中に溶かすの。そして髪を浸けるようにして流しかける感じかな」
「へー、じゃ早速やってみようかな」
「えっ、今から?」
「そう、今から」
「今シャワー浴びたばかりなのに、明日にすれば?」
「ううん、待ちきれないから今すぐ」
ナタリーは瓶のまま持っていきそうな勢いだった。
「ちょっと待って、準備するから。桶貸して」
瓶から一回分の分量の薬草カスを取り出して、ナタリーが持ってきた桶に入れる。そして、魔素注入。
「何しているの?」
「魔素注入。これをしないと効果が弱いから。要するに劣化版のポーションみたいな物」
「え!? 錬金台なしで魔素注入できるの!?」
「ああ、そうね。頑張ったらできるようになった」
「そうなんだ。あまり聞いた事無いんだけど・・・。という事は、もしかしてポーションも作れるとか?」
「そうね。作れるよ。この薬草カスはそのときの物だし」
「まさかの、錬金術師がここに居た! ねぇ、ポーションの作り方教えて! お願い!」
「いいけど、私、錬金術師じゃ無いから。作り方もみんなと違うかもよ」
「え!? もぐりの錬金術師なの!? 捕まるよ!」
「売ったらダメだって聞いたけど、自分で使う分にはいいんじゃないの?」
「ああ、そうでした。ちょっとびっくりした」
ナタリーが少し落ち着いたところで、桶を手渡した。
「はい、準備完了」
「あっ、そうだった。コレコレ。早速、試してくるねー!」
ナタリーは元気に部屋を飛び出していった。
*****
暫くして髪を拭きながら戻ってきたナタリーは興奮していた。
「いい感じだよー」
「魔法で乾かしてあげようか?」
「えっ、いいの? じゃお願い」
自分の髪と違って乾燥魔法一発で済むため簡単だ。
「はい。終わり」
「えっ、もう? 本当だ。乾いてる。そして・・・サラサラ!」
ナタリーは、魔力鏡に触って魔力を込めてから、その場でくるりと回った。
傘のように開いた髪の毛が、ふわりと肩を包み込む。
「これ最高! ねぇ、これ売らない? 売ろうよ。売れるよ。銀貨3枚とか」
「まあ売れるとは思うけど。さすがにそれは高いんじゃない? 絞りカスじゃ無くて本物のポーションでも同じ様な事ができるし、小分けにすれば、ポーション1本で5回くらいは使えるはず」
「そうなの? でも髪の毛のお手入れにポーション使うのって冒険者じゃ当たり前かもしれないけど、庶民はしないよ」
「冒険者でもしないと思う」
「ふーん。でも冒険者ってポーションを常に持ち歩いていて、常飲しているって聞いたけど・・・本当?」
「あーそうかもね。酔っ払って女の子のお尻触って殴られても、すぐにポーション飲んで笑っているヤツいたわ」
殴ったのは自分だけど、それは言わない。
「えー!?そうなの? じゃ、かすり傷にハイポーション使う人もいるって話も聞いたんだけど本当かもね。いくら使い切れないほどお金を持っているからといっても、もう少し有意義に使えば良いのにね」
ナタリーは笑っている。
「そうだねー、アハハ・・・」
しかし、自分は笑えない。きっと別人の話だと信じたい。
その手の噂話って、何処まで広まるのか心配になってきた。広まってもマデリンの中だけとか、冒険者内で終わるのかと思っていたのに・・・。
「そういう話って誰から聞いたの?」
「お客の冒険者。私さ、運良くポーションを扱うお店で店員やっているんだけど、冒険者ギルドに近いからか冒険者さんがよくポーションを買いに来るのよね」
これは危険だ。すぐにでも辞めてもらいたい。
「でも、常に持ち歩いていると消費期限が近い物をそうやって消費する事もあるんだって」
それは、いい理由だな。その廃棄予定のポーションを使って、なんか良い儲け話になりそうな気もするが、今は冒険者の話から逸らせたい。
「ああ、そうかもね。・・・それでね、話は戻るけど錬金術師が見たらすぐに薬草カスだってバレると思う。そしたらすぐに真似されるよ。きっと」
「うーん。最初だけしか売れないって事かぁー・・・」
「後、最大の問題点が一つ」
「何?」
「魔法薬と言われてしまったら、錬金術師じゃないと売れない」
「そうか、魔法薬か。薬草に魔素注入しているし、ポーションと同じかぁ・・・」
「飲む訳じゃ無いし、命にも関わらないから、大丈夫だとは思うんだけど・・・上の立場の人を巻き込まないと私達だけだとダメかもね」
「あー、残念。美味しい儲け話かと思ったのに~」
ナタリーはあきらめてしまったようだが、自分にはアイデアがあった。
「物として売るのでは無くて、サービスとして提供するっていう手もあるよ」
「サービス?」
「例えば、洗髪屋をやるとか」
「あっ、なるほどー!」
「そして目に入らないように目隠しでもすれば、何を使っているのかも分からない。でも匂いでわかるかな・・・軽く香料を何か混ぜれば・・・」
「香水とかって高いよ」
私はエレーナの記憶を思い出す。
秋にオレンジ色の小さな実をすり潰して混ぜていた。混ぜると爽やかな香りがして、髪のしっとりスベスベ感が増していた。
マデリン周辺には生えて無さそうだったけど、王都周辺にはあるのだろうか?
「お店かぁ・・・いいけど、面倒くさそうだなぁ」
ナタリーは悩んでいる。
「場所も問題だね。この部屋でならこっそりできそうだけど。この寮って部外者連れ込んでも良いの?」
「シャワーを使えたはずだから入れると思う」
ナタリーは暫く考え込んでいた。
「面倒くさいと思ったけど、銀貨3枚もらえるなら今のアルバイトの日給と同じなんだよね。ん~~~~~、また後で考えよう。学校始まったら忙しいかもしれないし」
「そうだね。まずは勉強だね」
アルバイトの日給が銀貨3枚か、高いのか低いのか分からない。
自分の今の金銭感覚からすると・・・、やりたくないな。




