恩を仇で返された
時間もあるので王都の外へ魔法の練習に出掛けようかとも思ったが、鎧の修理も終わっていないので諦めた。
王都周辺に魔物はほとんど出ないのだが、盗賊が怖い。治安は悪くないと聞いているが、あのとき命を守ってくれた胸当てはお守り的な意味合いで身につけていたい。
しばらくは図書室通い。
そしてナタリーのバイトが休みの時に二人で街に繰り出した。
露店でお揃いのアクセサリーを買ったり、小物を買ったり。
自分としてはそんなに買い物が好きな訳じゃ無いのだが、街並みを見たりして観光気分で。
ナタリーの後を付いてまわる感じは、彼女の買い物に付き合わされている彼氏のよう。
そんな昼下がり、混雑した大通りを歩いていると、すれ違いざまに少年とぶつかった。
男に体を触られたような嫌な感覚に鳥肌が立つ。
そして、首にかけてあった紐が引っ張られる感触。
素早く振り返ると、小走りに去りゆく少年と目が合った。
視界の端には、懐にしまっておいたはずの巾着袋が宙を舞う。
発動した身体強化により、ワンステップで少年との距離を詰め、襟首をしっかり掴んだ。
「ぐえっ、離せ!」
少年は腕を振り回して振り解こうとしたが、襟首を離してその手首を掴む。
「くっ!」
すぐさま足蹴りを見せる少年だったが、レベル差と身体強化もあるので全く痛くない。
手早く少年の手を持ち替え、後ろ手にして捻り上げる。
「こら、大人しくしなさい」
「あだだだだ!わかった。わかったよ!」
お財布の巾着袋が出ているのだから、この少年はスリで確定だろう。紐を長くして首にかけておいて良かった。
脇道に入って説教を始める。
「こんな事しちゃダメでしょ」
「何もしてねぇーよ」
しらを切る少年。
「女性の体をまさぐるなんて、いくら少年でもやってはダメです」
「ぼっ、僕は、・・・女だよ」
恥ずかしそうに、うつむく少年。いや、少女か。
「えっ?そうなの?」
10歳くらいだと特徴なんてあまり無いからな。
服を脱がせて確認・・・は、する必要無いな。
「何、どうしたの?」
事情の分からないナタリーが聞いてきた。
「スリ」
「あー、一番近い衛兵の詰め所は、あっちの方だったかな」
「わーっ、まだ何も盗っていないんだから見逃してくれ!」
ナタリーの冷たい言葉に少女が白状した。
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
少女は大人しく謝った。
「もうしない?」
「もうしないよ」
「ねぇ、ずいぶん甘くない?」
仏の龍平と呼ばれた私の対応を見て、ナタリーが呆れていた。
そうか・・・、スリで捕まると確かむち打ち刑だったはず。本で読んだ。
「じゃ、げんこつで」
「えっ!?」
「はぁー・・・」
拳を強く握って息を吹きかけた。これ、異世界でも通用するのかな。
頭の上で震える拳を見た少女は、目をつぶり震えて縮こまった。
しかし、いつまで経っても落ちない拳。
薄目を開けてこちらを窺う少女を見てから拳を振り下ろした。
痛くない程度に、拳を頭に当てる。そして、手首を離す。
再び目をつぶって固くなっていた少女は、目を大きく開けてこちらを見る。
「甘いなぁ」
ナタリーのつぶやきが耳に届いた。
解放された少女は、ほっとしたような笑顔を見せた。
良い感じで大人の対応ができたのでは無いかと自己満足していたら、少女が近寄ってきて屈み込んだ。
そして、ナタリーと自分のスカートの端を掴むと、突然立ち上がり、盛大に万歳した。
顔の辺りまでめくれ上がるスカート。
「バーカ!バーカ!」
少女は走って逃げていった。
そして、スカートを押さえて真っ赤な顔の二人が取り残された。
脇道とはいえ、通行人はそこそこある。
ちらちらと周りを確認した後にナタリーと目が合った。
「だから言ったのに。甘いって」
「ごめん」
自嘲するように少し笑うと、ナタリーも少し笑顔になる。
その後、なんだかとてもおかしくなってきて、二人して笑った。
*****
「で、何も盗られなかった?」
帰り道、ナタリーが心配して聞いてきた。
「うん、大丈夫」
財布の中身を確認しながら返事をする。
「袋を盗られなくても、中身を盗られていたりするから」
「この袋、マジックバッグだから意外と奥行きがあるんだ」
腕を半分ほど突っ込んでみせる。
「え!?」
ナタリーは驚いていた。
あれ?これ非常識だった?
*****
寮に帰ってから、冒険者装備のポーチの蓋が簡単に開かないように、そして解体ナイフも簡単に引き抜かれないように改造した。
フィールドで取られる心配はしていないが、冒険者ギルドの周辺や、門の周辺は人が多い。
ナイフは普段持ち歩く物では無いけど、盗られてしまうと痛手は財布の比では無いから。
スリにではなく、敵対者に盗られると命の危機に直結する。
予防できて良かったと思う事にした。




