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気ままに生きたい異世界転生 ~チートは無いはずなのに目立ち過ぎるのは困ります~  作者: アルバザーク
第三章 魔法学園

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詠唱魔法

 さて、どうしようか。

 授業が始まるまでは一ヶ月以上あった。

 ナタリーはアルバイト先を探しに街に出てしまった。

 少し考えて、図書室に向かう。


 魔法学園にも図書室があった。しかも魔法書が豊富に揃っている。

 そうして怠惰で幸せな一ヶ月が始まった。

 食事の心配は無く、宿題も無い。

 アルバイトする必要は無い。お金はあるので。

 ただただ、ひたすらに暇で、興味のある本を読み(あさ)る。

 学園内は閑散(かんさん)としていて声をかけてくる人もいない。

 人目を気にせずのんびりできるのだ。


 例えば魔道具の本に保管庫の仕組みが書いてあった。

 基本的に鍵が閉まっている状態で、魔力を流しているときにだけ鍵が開くような構造になっている。魔力を流し込む部分から魔力の流れは二つに枝分かれし、片方は鍵が開く魔方陣に、片方は魔力の蓄積に回される。蓄積された魔力は、鍵に繋がる経路に少しずつ流し込まれていて、他人が鍵を開けようと魔力を流し込むと弾かれる仕組みだ。それでも普通に考えると大量の魔力を流し込むと破られてしまいそうなものなのだが、鍵を開ける経路を細くして物理的に大量の魔力を流せないようにする事により魔力の流量制限をかけてあるのだそうだ。

 おもしろいっ!


 魔法語の本も読んでみたが、外国語は苦手だった自分にとって、ちんぷんかんぷんだった。

 生活魔法レベルだと平文の呪文書があったので、少しずつ暗記しては校庭の隅で試していたら先生に見つかって怒られた。

 誰にも見つからなさそうな草木で隠れた良い場所だったはずなのに、近くにあった実験棟の4階からは丸見えだったらしい。

 魔法は決められた場所で使う必要があるのだが、入学前という扱いなので使わせてもらえなかった。

 生活魔法なんて無詠唱で使えるから今更呪文を憶える必要なんて無いのだが、マリー達に教えてあげたい。精霊魔法じゃないなら、もしかしたら発動できるようになるかも。

 その中に一つだけ攻撃魔法があった。ファイヤアローだ。

 少し呪文は長いのだが、ぜひとも試してみたい。

 授業が始まれば教えてもらえるのかもしれないけど、今すぐに使ってみたい。

 ということで冒険者ギルドに向かった。


 王都の冒険者ギルドには訓練などに使える広場がある。そこを使わせてもらった。

 広場には他にも訓練している冒険者が数人居て、こちらを胡乱(うろん)げに見ていた。

 冒険者装備では無く、騎士風の普通の服装だからかもしれない。


 隅の方に丸太が立ててあったのでその近くに移動する。

 丸太に右手の平を向けまっすぐ伸ばす。左手をその手首に添える。

「其は森林を焼く大火の渦、地中より這い出でたる熱き血潮、灼熱の大地に君臨する暴君、そのひとかけら。万物を焼き切る炎を伴い、出でよ閃炎(せんえん)! 疾風がごとく突き進み我が敵を穿て、その力果てるまで!」

 詠唱の途中から、魔力が吸い出されるような感覚があり、右手の前に赤く光る棒が形成された。棒は魔力の塊だ。炎によく似た薄赤い揺らめきを(まと)いながら空中に留まっている。その状態の維持にも魔力が使われるらしく、じりじりと吸い出される魔力と、右手に暖かさを感じていた。

「ファイヤアロー!」

 パスッ!

 発動句を唱えると、棒は勢いよく突き進み、丸太に吸い込まれるように消えた。丸太には穴が開き、少し炎が噴き出す。まるで吹き出し花火が終わった直後のように、はかなく消えていく炎。その後には、指が入りそうなほどの黒い穴が残されていた。

 これは、レーザー光線。いや、どこぞのSF映画によくある光線銃のような感じだ。

 おっ、おっ、おもしろい!

 子供時代に初めて空気銃を手に入れた時のような楽しさがある。


 丸太の穴をしげしげと観察してみる。

 穴の深さは3cmくらい。貫通力は普通の矢よりもありそう。

 穴周辺の炭化の具合を見ると放熱量がかなりあるようで、人に当たった場合はポーションでは治せない可能性もありそうだ。ただ、人の場合は魔力を持っているため表面で弾かれ、ここまでの貫通力を発揮することは無いはず・・・うむ、これは試してみないと分からないが、そんなこと試せるはずがない。

 辺りを見回すと、訓練用の剣や槍、盾などが置いてある。

 盾は木製だが金属で補強されている。うまく金属部分に当てると金属の場合の貫通力をテストできるかもしれない。・・・しかし確実に怒られるだろう。弁償させられるかもしれない。


 ところで、この詠唱はそれなりに声を張らないといけないので、知らない人がいるところでやると少し恥ずかしい。

 校庭の隅で練習していた時も、この声が聞こえていたのかも。今は夏だし。窓くらい開けるだろう。

 ちなみに詠唱は噛んだ時点で魔力が霧散して失敗するし、焦って文節の区切りに間を置かないだけでも形にならなかったりする。

 慣れれば小声や早口で唱えることも可能だと本には書いてあった。

 練習が必要という事だな。


「おっ居た居た」

 嫌らしくニヤついた顔の冒険者が数人、こちらを見ながら広場に入ってきた。

 次は何をしようかと考えていたところに、邪魔が入ったようだ。

 相手をするのは面倒くさい。この前も裏道で知らない人に絡まれることがあったじゃ無いか。すっかり忘れていた。フードを頭からすっぽり被っておくんだった。

 思わずため息が出た。

「よう、ネエちゃん。一人寂しく訓練かぁ?」

「げへへ。俺たちが相手してやんよ」

 ここは冒険者ギルド内だ。少々雑な対応をしても暴力を振るわれることは無いと思う。

 自分も冒険者というものに慣れてしまったようだ。

「そう。じゃあ、相手してもらおうかなぁ」

「へっ、ずいぶんと余裕だな」

「今、魔法の試し打ちしていたんだよねぇ」

「は!? 魔法? 剣士じゃないのかよ」

 騎士風の服を見て勘違いしたのだろう。両手を広げて剣を持っていないことをアピールした。

 そして男に近づき胸の辺りに指を()わせる。

「この金属の胸当ていいねぇ。防御力高そう。ねぇ、これ、どのくらいの魔法に耐えられるのか試したくない?」

 男は一歩、後ずさった。

「いや、それはちょっと危なくないか」

「大丈夫。ポーションあるし。なんならハイポーションもあるから」

「ハイポーション・・・」

 男は仲間に(すそ)を引っ張られて後ろを向くと、顔を突き合わせて何やら相談を始めた。

 ハイポーションは高い。使わなくても二ヶ月で買い直す必要があるので、常時持ち歩くのにはそれなりの収入が不可欠だ。

「噂で聞いたんだが、かすり傷にハイポーション使う女がいるらしい」

「かすり傷程度に!?」

「まさか」

「巨人を倒して大金を手に入れたらしいぜ」

「あのジャイアントキラーってヤツか!?」

「そいつは、金髪エルフで・・・」

 三人の視線がこっちを向いた。

 顔を見て、腕を見て、最後に胸を見た。

 そして、またしても始まる内緒話。

「「「エルフだ・・・」」」

 耳は髪の毛で隠してあるのだが、どこを確認してエルフだと結論付けたのかな~。んんん~?

「血を見ると、見境が無くなるってよ」

「Aランク冒険者の股間を粉砕したって話だろ」

「こいつが、ブラッディオーガ?」

 話が終わらないようなので、男の肩をチョンチョンとつついた。

 振り向いた男たちは、少し青い顔をしているものもいれば、半信半疑のものも。

「そのお話。私も興味がありますので、お聞かせ願えないでしょうか?」

 ネットが無い世界では、エゴサーチも簡単ではない。

 精一杯感情を隠し、丁寧な言葉遣いでお願いしてみる。

 すると男たちの表情は盛大に引きつった。全員。

「ああーっと、そういえば用事忘れてた! 急いで帰らねぇと!」

「んっいてて、なんか腹の具合が・・・」

 咄嗟に言い訳をする仲間たちに、一人が取り残される。

「・・・! ということで、失礼しまーす」

 腹を抑えている仲間を介抱する振りをしながら、去っていった。


 逃げられたか。

 でも少し面白かった。ご老公様にでもなったような気分。

 目立つのは好きじゃないんだけど、トラブルを暴力無しで解決できるなら悪くないかも。


 逃げた男達と入れ違いでギルド職員が入ってきた。

 どうやら見ていた誰かが職員を呼んできてくれたようだ。

「大丈夫でしたか?」

 きれいどころが揃っているギルド受付の一人だ。

「心配していただいて、ありがとうございます」

「素行の悪い冒険者もいますので。何かありましたら、すぐ職員にお知らせくださいね」

 王都のギルドは流石の対応だ。

 マデリンの冒険者ギルドは、トップがアレだから窓口の職員も対応が微妙なのかもしれない。


 職員も去り静かになった広場。

 早速、実験再開だ。

 誰も見ていないので遠慮無く魔力を滞留させる。オーバーブーストのテストだ。

 きっちり発光するまで溜めてから呪文を唱える。

「ファイヤアロー!」

 バスッ!

 矢の見た目は変わらなかったけど、威力は明らかに違っていた。

 丸太に駆け寄り空いた穴を冷却、そして指を突っ込んでみる。

 穴の深さは2倍くらい。それと穴の周りの炭化層の厚さも増えていた。

 威力は2倍以上。悪くない。でも使った魔力はそれ以上なので、燃費は悪いということだ。


 その後、詠唱中に無理やり魔力をねじ込んだりしてみたが、うまくいかない。

 詠唱魔法は簡単にはアレンジできないようだ。


 次は、距離を離して正確に狙う練習をする。

 この広場はそんなに広くないので、一番遠いところからでも丸太に当てるのは難しくなかった。

 目の高さに顕現させて、矢を後ろから見て狙うと微調整がしやすい。魔法の矢は重力の影響を受けずに真っ直ぐ進む。速さは普通の矢よりも速い。

 呪文を唱えるのに時間はかかるけど、矢が無くなってしまったときは充分に代替の攻撃手段に成り得る。

 ただ、詠唱に20秒弱かかるのが難点だ。やはり魔法語の勉強は必須かな。


 その後、丸太を穴だらけにした事がギルド職員にバレて怒られた。

 おおぅ。やっちまった。


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