合格祝い
その後、二人で合格祝いに甘いものを食べに行った。
ポッチャリお勧めのあの店だ。
その店は今日も賑わっていた。
「わぁー」
ナタリーはこの店を知らなかったようだ。
こんなに早くから寮に入っている時点で地方出身濃厚なので、王都の店は知らなくて当たり前か。
客はほとんど女性だが、男を連れた幸せそうなレディーもちらほら見かける。
そんな中、キョロキョロと店内を見回していたナタリーが、何かに気付いて耳打ちしてきた。
「こんな素敵な店なのに、奥の席に気持ち悪い男が一人いるから、明るい窓際の席にしましょ」
奥の席と言えば、ポッチャリと食べた時も奥の席だったかも。
そう思い出し、ちらりと視線を向けたら驚いたことに彼がいた。
合格発表の日にこの店に居るという事は、自分達と同じ考えなら『合格祝い』だ。
もしそうなら錬金科の彼はナタリーのクラスメイトという事になる。
無視してもいいのだが、これ以上ナタリーに地雷原を歩かせるわけにはいかないので、自然を装い声に出した。今なら、まだ抜け出せる。
「あ、ポッチャリだ」
「えっ!?」
目を丸くしているナタリーの反応も分かる。
そんなナタリーを置き去りにして、店の奥に早歩きで進む。
「久しぶりっ。合格した?」
「えっ。あっ。うん」
視線を伏せていたポッチャリは、急に話しかけられて驚いていたが、自分を認識してくれたようだ。
「何食べてたの?」
「えっと、新作のチーズケーキ」
「おいしい?」
「うん。このチーズは・・・」
「じゃ、同じのにしようっと。それと、私も合格したから、今度は学園でねー」
手を振ると、ポッチャリもぎこちなく微笑んだ。
多分、彼はもっとチーズケーキの話をしたかったのかもしれないが、そうしてしまうと話が長くなるからさっさと切り上げた。
本当はナタリーも連れてきて一緒に話をするのが一番いいのだが、『気持ち悪い』と言っているのに同席させるのは酷な話だ。
ごめん。ポッチャリ。そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
ナタリーは物陰から見守っていたようだ。
しかしその行動はどうみても不審者っぽいので半目になりながら声をかけた。
「なにやってんの?」
「えっ、だって、知り合いだったの?」
ナタリーはオロオロしている。
「そう。友達」
「ごめんなさい。私、変な事言っちゃって」
「ああ、いいのいいの。気にしないで。確かに見た目は良くないから」
「だって、リューのお友達なんでしょう」
「そうだけど、ナタリーにも友達になってほしいと思っているわけでもないし」
「そ、そうなの?」
「でも彼、錬金科に合格したから、ナタリーのクラスメイトだよ」
「えっ!?・・・挨拶に行った方がいいかしら」
「挨拶は、学校が始まってからでもいいと思うけど」
「そ、そうかな・・・。それで、あの、私が悪口言ったことは内緒にしてほしいの」
「大丈夫。そんなこと言うつもりは無いから。でも、みたくれがあんななだけで、中身は普通だから。慣れれば普通にしゃべるよ」
「えー、どんなことを話すの?」
「スイーツとか、食べ物系。このお店も教えてもらったし」
「そういうことね」
窓際の明るい席に座り、ナタリーはイチゴのショートケーキを、自分はチーズケーキを頼んだ。
ナタリーは値段を聞いて固まっていたので、今日は自分が奢ることにした。コーヒーは無いので紅茶も頼む。
「冒険者は儲かるの?」
ナタリーが興味津々といった表情で聞いてきた。
「命を張れば」
山賊の襲撃を思い出して、少し暗い気分になってしまった。
「・・・それは嫌ね」
「でしょう。だから、引退しようかと思って学園に来たの」
そしてナタリーは、ちらりとポッチャリの方を見た。
ふふふっ。気が付いたかな。ポッチャリはこの程度のお金は軽く払えるほどのボンボンだという事に。あっ、プリンまで食べてやがる。食べ過ぎだろう。だからそんな体型になってしまうんだ。
「そういえば、彼の名前は?」
少し声量を抑えたナタリーが口に手をあてている。
そう言えば聞いたこともない。自分も名前を教えた記憶はない。
「えっ、知らない」
「えっ!?友達なのに名前も知らないの?」
ナタリーの目は大きい。それがさらに大きくなる。
「アハハ、そうみたい」
「えっ!?どういうお友達?」
「図書館で、一緒に受験勉強した仲かな」
「きっかけは? 同じ本を取ろうとして手が触れ合っちゃったりとか」
ナタリーはコイバナでも期待していたようだが、それは無い。
「全然そんなんじゃなくて、過去問を見せてもらったの」
「え!? それ、ずるくない?」
話は弾み、楽しいひと時はあっという間に過ぎていった。
その後、せっかく王都の繁華街の中心地まで来ていたので、二人でいろいろと買い物をする。
そして比較的大きな商会に入る。ここは学園から指定されている商会の一つで、制服を買う事ができるところだ。
仮の学生証を見せれば、店員は手慣れている感じで奥の個室に案内してくれた。
そこで採寸する。最初の一着は無料だ。
この一着だけで授業料など軽く吹き飛ぶほどなので、魔法学園はかなり優遇されていると思う。教育に重きを置いた賢者様の方針は素晴らしい。
そしてその商会の魔道具コーナーで見つけてしまった。
魔法の鏡。
魔力を流すと直径1mほどの鏡が出現する魔道具。
つい最近出た新商品らしい。
なんと金属鏡と同じ値段の1000Cr。
安いと思って迷わず購入した。
ナタリーも錬金科に入るくらいだから魔力を流し込むのは問題が無い。部屋の壁に掛けて二人で使おうと提案すると、とても喜んでくれた。
商会を出て、庶民でも買えるような値段の服屋へ入る。
自分にはオシャレのセンスが無いので、ナタリーに普通の外出着を選んでもらった。これが一番嬉しかった。
騎士風の服は、街中を歩くには少し人目を引きすぎる。
申し訳ないけれど防具屋にも付き合ってもらった。
革鎧の補修に時間がかかっているのだ。
「おう。ちょうど良いところに来たな。やっとこれに合う素材が見つかったぞ」
「それは良かったです。それで補修はいくらになりますか?」
「金貨40枚だ」
「高っ!」
「仕方ないだろ。色やサイズの合ったものを探すの大変なんだぞ。それにこれ最高ランクの素材で、一番良い背甲を使っている」
「えっ!!!」
「マデリンでは簡単に手に入るのかもしれないがな・・・。いっそのこと片方の右胸だけじゃ無くて左胸も同時に交換したらどうだ。それなら少しランクを落としただけでも35枚で済むぞ」
「いえ、片方だけの補修でお願いします」
「そうか。なら、そうしよう。で、これ何にやられたんだ。キングスコーピオンの甲殻といやあ、金属鎧よりよっぽど防御力があるって言うのに完全に割れているなんて」
「・・・」
あの盗賊の一撃は、そんなにヤバい攻撃だったのか。
防具を奮発しておいて良かった!
「それに触ったら指が痺れたぞ。毒はきちんと洗い流しておいてくれねぇと困るんだよ」
「す、すみません」
「でもまぁそれよりもだ。このベースの革、これなんだ? キングスコーピオンの甲殻が割れちまうような攻撃を防いでいる・・・。サイクロプスに似ているか? ・・・まさか!?」
「あー、そのまさかですね」
「おいおいおいおい、噂のサイクロプス強化種かよ。いや、オークションに革が出たのって、おめえさんがこれを持ち込んだ後だろうが。あんた何者だ? オークション前に市場に流れた素材を手に入れたってか?」
「手に入れたのは、私じゃ無いですけどね。ギルドが現金欲しさに一部売り払ったみたいですよ」
「かー、あんた運が良いな。今、毎週オークションが行われているんだが、素材が小出しにされててな。毎週値が上がっているんだよ。疑問に思っていたんだが、そうか。この防御力か。この分ならまだ値上がりしそうだな。オレも今のうちに買っておくかな」
「あんたー!!!いつまで油売っているんだよっ!!!さっさと仕事しなっ!!!」
とんでもない声量の怒鳴り声が奥から聞こえてきた。
店の中で飾ってある商品を見ていたナタリーが怯えている。
「おー怖っ。じゃ、片方交換で本当にいいんだな。サイクロプス革があるんならキングスコーピオンの甲殻なんて無くても良いかもしれないぞ」
「いえ、作ってくれた職人の愛情がこもっていますので」
酔っ払いながら、自慢げに鎧の話していた女親方を思い出す。
「ほう。じゃ、オレも愛情込めようじゃ無いか。たっぷりと」
「若い子だからって、鼻の下伸ばしているんじゃ無いよ!!!!!!」
さらに大きくなる女性の声。顔は見えないけど、イメージができそう。
「愛されてますね」
「ほんとにそう思うか? まあいい。金貨40枚な」
「はい。それで」
「高いと思うかもしれないが、今はオークション目当てに現金かき集めているヤツらが多くて、これでも少し安いんだぜ」
*****
その夜、消灯した暗い室内でベッドに横になりながら、遅くまでおしゃべりをした。
まあ、ほとんどナタリーが話して、自分は聞き役なのだけど。
こう見えて、女の子と二人だと、まだ少し緊張してしまう。
ポッチャリとだと話しやすいんだけどね。
夜中に、ふと目が覚めた。
いつのまにか寝ていたらしい。
マリーと違って、ナタリーはとても静かに寝息を立てていた。
最大の懸念事項がクリアとなったため安心した。快適な寮生活が保証されたようなもの。
白いシーツのお布団にくるまれて、朝までぐっすりと眠った。




