試験
ついに試験の日がやってきた。
階段を数段上がり、学園の門をくぐる。
石畳の道を他の受験生と共に歩いていく。
左右の植え込みの奥は土がむき出しのグラウンドになっていた。
キョロキョロと辺りを観察しながら歩く。
近くにポッチャリはいなかった。
いよいよ校舎が近づいてきたところで、また階段を上がる。
左右には手入れの行き届いた庭園。
そして校舎に入り受験票を見せると試験会場を指示された。
会場は普通の教室。前面に教壇と黒板があり、それを机と椅子が階段状になって配置されている。
これから三年間、学ぶ事になるかもしれない場所。
雰囲気は大学っぽい。
この学校も賢者様が作ったんじゃないだろうか。
午前中の筆記試験はつつがなく終わり、場所を移動し食堂でお昼を食べる。ここは無料だった。
味は可もなく不可もなく、なんて言ったら贅沢だろう。市中で食べれば銀貨が飛ぶようなものだろうし。
そして午後の実技試験に臨む。
グラウンドに集まり、試験官の前で順番に魔法を使っていく。
少し離れた場所には的が置いてあり、ファイヤアローのような攻撃魔法をその的に放つ者もいる。攻撃魔法を使えるのは少数で、ほとんどは生活魔法程度のようだが。勿論その場合は的は関係ない。
「次、176番。リュー」
「はいっ!」
印象が良くなるように元気に返事をして、試験官の近くに走って行った。
「では、得意な魔法を全力で使ってみなさい」
「あのー、弓ってありますか?」
「弓? 弓は無いな。剣と盾なら隣の剣技の会場から借りてこられるが」
剣技の試験があるのは、魔法騎士科だけだ。
「では」
生活魔法の着火を使う。
手の平の上にロウソク程度の炎が揺らめく。
試験官の顔色を窺うと、どうも芳しくない。
おかしいな。前の人はこれで通っていたはずだが。
「他には?」
仕方が無いので、次は水魔法。手の平から水が滴り落ちる。
「他には?」
えっ、まだやるの?
疑問に思ったが、試験官に逆らうわけにも行かない。
光源魔法。普通の光源魔法より少し白い光が手の平の上で瞬く。
でも昼間だから目立たない。
試験官の顔色を横目でうかがうと、眉毛がピクリと動いたような気がした。
ドオーン!!!
爆音に驚き振り返ると、となりで試験を受けていた子がファイヤボールを放ったようだ。
入学前でこんな魔法を使えてしまうのか。凄いな。
暫く見とれていると、ツインテールの髪を翻した女の子は、気の強そうな瞳でこちらを睨んできた。
え!?
そして、次にはそっぽを向いて歩いて行ってしまう。
ええーっ!!!
なにこれ。入学前からライバル視されたのだろうか。
学園には勉強しに来たのであって、バトルなんてしないよ。
「ほら、あのくらい派手なのない? 君の全力が見たいんだ」
いや、そんな事言われてもな。
攻撃魔法なんて知らないし、弓は無いし。
雷撃魔法も見た目は地味だから「他には」と言われてしまいそう。
そう言えば、危ないかもしれないからと、やっていなかった事を思い出した。
的の近くまで歩いて行く。
すると試験官も付いてきた。
「危ないですよ」
「近くで見ないと分からないじゃないか」
試験官は目をキラキラさせている。なにか変。
仕方がないので無視して、空中に防御魔法をお椀型にして発現させる。手でなでるようにすると、ある程度の形は再現出来る。
そして、その中に水魔法で水を溜める。
そして、制御限界の2m離れる。
「ほうほう。ふむふむ」
「危ないですから、私の後ろに下がってください」
空中の水を近くから観察していた試験官を下がらせる。
岩みたいなものがあれば安心だったけど無いので、防御魔法を目の前に展開する。分厚く念入りに魔力を込めながら。
さて、これはぶっつけ本番の魔法実験だ。水蒸気爆発の。
派手なのってこれくらいしか思い浮かばなかった。
魔力を限界まで滞留させていく。体がほんのりと発光する程度で止める。ふむ、この程度なら遠目では分るまい。
試験官をチラリと見ると、ワクワクが止まらないといった表情でこちらを見ていた。
あ、こいつはきっと魔法オタクだ。
「それじゃ行きます」
放出した魔力を水に集中し、瞬間的に温度を上げる!
ドーーーン!!!
爆風で髪の毛が乱れる。
実験は大成功した。防御魔法も爆発に耐えきった。よしよし。
魔法の発動直前、「待ちなさーい」という声が聞こえたような気もしたので、声のしたほうを確認する。
すると、すぐ近くに女の人が倒れていた。
「え!?」
この人は、隣で試験を担当していた試験官の人。
「いたたた・・・」
ゆっくり立ち上がる女の試験官。その髪の毛は乱れに乱れ、服は土にまみれていた。
なぜこんなところにいるのか、さっぱり意味が分からない。
「ケイン教授、何やっているんですか!」
女の試験官は、男の試験官に食ってかかる。
「何って試験だけど」
「彼女、さっき魔法使っていましたよね」
「そうだけど、それじゃ実力がわからないじゃないか」
「彼女は魔道具科なので、実力は関係ないんですよ!」
「エルフの魔法を見てみたいと思わないかい?」
「思いません」
「そう? それにしては、ずいぶん気にしていたようだけど」
「教授が何かしそうだったので監視していたんです!」
「そんなことより聞いてくれよ。彼女、無詠唱にトリプルキャスト、そしてオーバーブーストだよ!」
「ですから、オーバーブーストなんて危ない事をしそうになったら止めてください!」
ケイン教授と呼ばれていた私の試験官は、興奮冷めやらぬ様子で女の試験官と話している。
もしかしなくても、やらかした感じだろうか。
順番を待つ受験生たちは、全員がこちらを見ている。試験が中断しているようなものだし当然だな・・・。あぁ、恥ずかしくて頭がクラクラしてきた。
こちらを無視して言い争う試験官。仕方がないので、こちらから声をかける。
「あの。もう試験は終わりでいいでしょうか?」
「はい。OKです。最後に魔力量の測定がありますので、また校舎のほうに戻ってください」
女の試験官が対応してくれた。
その場を歩いて立ち去っても、まだ二人の声は聞こえてきた。
「注意事項に『煽らないように』と書いてあるのに何しているんですか!」
振り向くと、手に持ったバインダーを指でつついている女の試験官が見えた。
「煽ってなんかいないよ。それに流血もしていないから大丈夫」
ちょっと待て。なんだその会話は。『流血』だと?
どうしてその単語が会話に出てくるんだ。
まさか冒険者ギルドの推薦状か!?
ヘクターさんにお願いしたのに、書いたのギルバートじゃないだろうな!
生徒の間に変な噂が流れないことを祈るのみだ。
*****
魔力量測定の会場に行き、受験票を見せる。
「176番。リューさんですね」
「はい」
どうせ実技は試験結果に関係無いはずだから、今度こそ手を抜こうと考えていた。
「では、リラックスしてください」
「はい」
「魔法は使わないでくださいね。常時発動しているものはありますか?」
「あ、防御の魔法陣があります」
「そのくらいなら大丈夫です。魔力の操作もしないでくださいね」
「はい」
「魔力隠蔽とかしていますか?」
「なんですかそれ?」
「知らないなら大丈夫です」
何をするのか。次の言葉を待っていると・・・。
「リューさんは凄いですね。宮廷魔導師レベルの魔力保有量です。Aと書いてもいいんですけど、桁が違うから・・・そうだ! AAって書いておきましょうか」
魔力量測定は、いつの間にやら終わっていたらしい。うそでしょ。
「普通でお願いし・・・」
「今日は試験お疲れさまでした。合否の結果は三日後に門の近くに貼り出されます。発表は番号になりますので、それまで受験票はなくさないようにしてください」
声が小さすぎて、流されたような気がする・・・。




