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気ままに生きたい異世界転生 ~チートは無いはずなのに目立ち過ぎるのは困ります~  作者: アルバザーク
第三章 魔法学園

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受験仲間

 館内では飲食ができないので、いったん外に出る。

 図書館の入り口前は、ちょっとした庭園のようになっていて、ベンチがいくつか置いてある。

 そこに目をやると、美味しそうなサンドイッチを食べている人を見かけた。

 今日のお昼はサンドイッチにしようと決めて近くを散策すると、同じ物を売っている屋台を見つけた。

 購入後、図書館前の空いているベンチに座り昼食を取る。

 今日も良い天気だ。

 6月だというのに雨はほとんど降らない気候のようだ。

 日本とは違う。


 次の日も次の日も、同じ場所でサンドイッチを食べている小太りの男がいる。

 ところが、あるときホットドッグを食べていた。

 サンドイッチは飽きたのかなぁと思って買いに行ったら、その屋台が休みだった。

 仕方なく同じホットドッグを探して食べたがそれも美味しかった。

 彼の舌は肥えているのかもしれない。体型を見ても食べるのが好きそうだし。


 また数日後、サンドイッチを買って戻ってくると、ベンチが空いていなかった。そして、どこか空かないかと思いうろうろしていたら、あるベンチの前を通るときに声をかけられた。

「どうぞ」

 そう声をかけて席を立ったのは、いつもの男だった。

「どうも」

 こちらも軽くお礼を言ってベンチに座る。

 すると男は目が合いそうになるとサッと逸らし、スタスタと図書館へ歩いて行った。

 あれ?これはなんか自分の若い頃に似ているような・・・。

 顔じゃ無くて、雰囲気というか・・・、ぶっちゃけオタクのような匂いがプンプンする。

 自信が無くて女の人と一対一で話せない感じ。

 これはお仲間発見か?

 少し親近感が沸いてきたので、心の中で彼を『ポッチャリ』と名付けた。


 図書館に戻り、次に読もうと思っていた本を探すと棚から無くなっていた。

 仕方なく別の本を手に持ち歩いていると、ある机の上に積み上げてある本の中にお目当ての本がある事に気が付いた。そこにはポッチャリが座っていた。

「あのー」

 小さな声で声をかけると、こちらを見たポッチャリは驚いた顔をした。

「そこにある本、読み終わったら次に借りても良いかな」

 (しばら)く固まっていた彼は、急に再起動した。

「どうぞ。どうそ。先に持って行って下さい」

「ありがとう。では、遠慮無く」

 ありがたく本を手に取ろうと思ったとき、彼の手元に目がいった。

 テスト問題のようなものを解いているようだ。

 年も若いし、毎日通っている事からして学園の受験者じゃないかとは思っていたが、これで確信に変わる。

「それってもしかして想定問題集?」

「いえ、過去問です」

「えっ!?魔法学園の?」

「あっ、はい・・・」

 一気にテンションが上がった。これは是非拝見したい。

「あのう。それって少しだけ見せてもらえないかな」

 図々しくも、お願いしてみた。

「あっ、はい。どうぞ」

 まさかの即答だった。

「ほんと! ありがとう!」

「いえ・・・」

「えーっと、私も魔法学園を受ける予定なんだけど。何科? 私は魔道具科なんだけど」

「僕は、錬金科です」

「良かった。ライバルじゃ無くて」

 気兼ねなく過去問を借りられる。


 その後、近くの机で勉強し、お昼を一緒に食べる仲になった。

 ポッチャリは商家の次男坊。兄の下では働きたくないので、錬金術師を目指しているのだそうだ。去年も受けていて、今年は二度目の受験という事で過去問を持っていた。

 魔法学園卒業生のレイラからある程度の出題傾向は聞いていたが、過去問があると、どの程度まで勉強すれば良いのか分かりやすい。

 数学と物理は中学を卒業していれば全く問題の無いレベル。歴史、礼儀作法、法律、そして王族や上位の貴族の名前をメインに勉強する。これらはほとんど暗記問題。これがこの体になってから記憶力が上がっていて非常にありがたい。

 ポッチャリは数学と物理が苦手なようなので、それは過去問を見せてもらったお礼も兼ねて教えてあげる。しかし商人が数学弱くちゃダメだろう。

 ポッチャリがいれば、最悪ボッチは回避できそうなので是非とも合格してもらいたい。


 数日後、特注の矢を受け取りに鍛冶屋へ行く。

 だんだんと王都にも慣れてきたので、ちょっと裏道を使っただけだった。それなのに、ガラの悪い連中に絡まれた。

「おう、ねぇちゃんよう。何処に行くんだ」

 何処にでもいるんだな。こんなヤツらって。

 矢を背負っているのに、一般人だと思ったのか?

 いや、矢はボロキレにくるまれているから気が付いていないのかも。

 でも嬉しい事がある。こいつら私を知らない。

 マデリンでは絡んでくる連中がいつの間にか居なくなっていた。そういう点では悪名であっても悪い事ばかりではなかった。

 仲間の一人が後ろに回り込む。

 ここで大立ち回りをしてしまうと、また噂が広がってしまうかもしれないので逃げに徹しよう。王都には人が多いので平気かもしれないけど、(ちり)も積もれば山となる。

「おう。なんだ、だんまりかよ」

 男が手を伸ばしてきたので、それを(かが)んでかわし、脇の下をくぐって後ろに回る。

「なっ!」

 身体強化も発動しているので動きについて来られないようだ。

 狭い路地なので、軽くジャンプして壁を蹴り、3階のベランダに手を掛けた。

「お邪魔しまーす」と、心の中で(つぶや)く。

 3階の窓から部屋の中を見回したが、家主は居ないようだった。良かった。

「こらっ、降りてこい!」

 男が石を拾って投げてきた。

 そんな物は片手でキャッチする。

 余りにも平然とあしらう物だから、男達も趣向を変えてきた。

「おー、パンツが丸見えだぞ!」

「パンツじゃ無いっ!スパッツ!」

 急に恥ずかしくなったので、思わず叫んでしまった。

 それと同時に手にした石を投げ下ろす。

 ピュン。スパーン!

 石を投げた腕からあり得ない風切り音がして、石は石畳の上で雪玉のように砕け散った。

 その場の全員が絶句して、静寂がその場を支配する。

 右手だけに全力の身体強化をかけてしまったらしい。

 石は盛り塩のような茶色い小山になってしまった。

 これはあれだ、風化した砂岩だから(もろ)かったに違いない。石畳の上に落ちている石なんて、壁から剥がれ落ちた石かレンガか。そんなもの。

 男達はこそこそ話し合うと、何度も後ろを振り返りながら小走りで逃げて行った。

 それにしても、この状況は記憶に新しい。

 殺されそうになった自分と、石を投げ下ろしてくる猿。その立場が逆転したような・・・。

 あれ?

 逃げるつもりでいたのに、もしかして、やっちゃった?

「おい! どけっ!」

 通りの奥で男達に突き飛ばされている人がいた。

 あらら、とばっちり。かわいそう。

 と思ったら、ポッチャリだった。

 ん!?

 これはもしかして、見られていた? 引かれるパターン?

 3階から飛び降りると、スカートがめくれ上がった。

 すかさず両手で押さえ着地したが、ポッチャリの方を見ると、突き飛ばされた体勢のままの彼と目が合った。

 もうカオス過ぎて、よく分からない。

 動こうとしないポッチャリの側まで歩いて行き手を伸ばす。

「見た?」

 このとき自分は赤い顔をしていたかもしれない。

 スカートの話じゃなくて、男達を追い払った事なんだけど、言葉が足りなかった。

「なっ、何も・・・」

 ポッチャリは立ち上がりながら嘘をつく。顔を背けて。

 その耳はうっすらと赤かった。


「何でこんな所に?」

 こいつストーカーなんじゃないかと思ったのだけど、普通に質問してみた。

「この先に美味しいスイーツの店があって」

 言い訳なのかは分からないが、こいつの舌に間違いはない。

「スイーツいいね! 一緒に行ってもいい?」

 こちらの世界には甘いものが少ない。

 変な雰囲気を変えたくて少しだけ演技をしたけれど、甘いものを食べたいのは本心だ。

「うん」

 ポッチャリは地面を見たまま、はにかむような笑顔で答えた。

 そのお店は、定番のパイやクッキーの他に、焼き菓子、ケーキ、シュークリーム、プリン。そしてパフェまで(そろ)っていた。

 ポッチャリにスイーツの事を聞くと、突然、饒舌(じょうぜつ)になって話が弾む。

 この店はグランシーズ法皇国の有名店の支店で、これらのスイーツの元は全て聖女様が考案された物だと話していた。

 聖女様はスイーツチートもやらかしていたらしい。でもそのおかげで異世界にいながらも美味しいスイーツをいただける。幸せな事だ。ただし金貨が必要。高いな。

 そんなお店に通えるポッチャリはそれなりのお坊ちゃまで、お小遣いも持っているようだ。

 それにしても定番のチョコレートとコーヒーがメニューに無い。グランシーズ法皇国は北の国だから聖女様でも入手困難だったのかも。胡椒(こしょう)は王都の市場にあるので南方の国との交易ルートはどこかにあるはず。心の中のほしいものリストに加えてこう。


 急速に距離が縮まりそうだったポッチャリとの関係は、この事件後、ほどよい距離感に落ち着いた。

 間違って距離感が縮まりそうになったら、爆弾をぶち込めば良いかも。年齢とか。冒険者の経験とか。自分はそういったネタを大量に持っている。

 あまり知られてしまうと、ジーク達との上下関係のようになってしまうかもしれないから、加減をしないといけないが。

 あまりこちらの事を聞いてこないポッチャリとは今後もよい友達でいれそうだ。



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