寝不足
馬車の車列は移動を再開したが、山賊の襲撃地点から少し進んだところで日が暮れてきたため、予定していた停泊地よりかなり手前で野営する事になった。
ここは、比較的傾斜の無い場所ではあるが、街道上だ。
夜中にランプの明かりだけで、転落する危険のある峠道を進む馬車は無いそうなので、道幅いっぱいを使用していた。
ポールさんの馬は二頭ともいなくなってしまったが、山賊が使用していた馬車の馬を借りている。これは戦利品とともに売却した後に、生き残った冒険者たちに配分される予定ではあるが、質の良い馬らしいのでそのままポールさんが買い上げたいと言っていた。
今日の夜警は最初が自分とアーサーだった。
話題は当然、山賊に襲われたときの話が中心になる。
「僕たちが駆け付けた時には、戦線崩壊寸前で危なかったよ。すぐに山の上のアーチャーを倒してくれたのは助かった。鬱陶しかったからね」
頭の上から降ってくる矢を鬱陶しいというアーサーは、矢の攻撃なんて効かないのだろう。雷撃矢に代わる必殺技が欲しい。今日は親玉に見事、レジストされてしまった。草や枝があるだけで使えないというのもいまいち。
それに全身金属鎧の場合にも効果が無いだろう。あんなの着たら馬上でも無ければ重くて動けないと聞いたことがあるが、ここは異世界。レベルというものがあるので、あのくらいの装備を身に着けても普通に動けてしまう。
と、ここまで考えて気が付いた。対人戦なんてやらないよ!でも保険は必要。
「必死に助けを求めて合流したのに、剣を構えて見ているだけってひどくない!?」
話は崖を飛び降りた後の事になっていた。声のトーンはかなり抑えているが、心の底ではむしろ周りの連中に聞かせてやりたいと思っている。
「まあそう言うな。あの3人は強かったんだよ」
「スティーブから山賊はほとんどDランク以下って聞いたけど」
「実際そうだけど、Cランクの実力があっても素行が悪くてCランクに上がれなかったという場合もあるからね。それに、対人戦に慣れているというのもある。僕らはほとんど対魔獣。護衛を主にやっていたとしても対人戦の経験は少ないと思うよ」
「それにしてもなぁ」
「目の前で仲間の冒険者が次々に倒されていくのを見たら、なかなか前には出れないものだよ。君も勝てないと思ったから逃げて来たんだろう?」
「その通りなんだけどね」
「その山賊とも少し剣を交えたんだけど、実際に強かったよ。そんな彼らをあっさり倒した君は凄いよ。僕は見ていなかったんだけど、ナイフで倒したんだって?」
「あれは、ただ必死になっただけ」
敵の剣を避けて、ナイフを突き刺した。まあ、隙を作るために雷魔法を使ったりもしたけど、ほぼ身体強化魔法頼りだった。
「まあ、僕も一対一ならいけてたと思うけどね」
さわやかに笑うアーサー、自慢か?
それとも、複数だったから倒せなかったという言い訳かな?
でも不思議とあまり不快感を覚えない。
「そういうアーサーは、対人戦に慣れているように見えたけど。どこかで習ったの?」
明らかにルイスより動きが良かったから指摘してみた。
「冒険者に過去の経歴を聞くのはマナー違反だよ」
と言って笑うアーサー。
別にアーサーに興味があるから聞いたわけじゃないんだけどね。話したくないなら別にそれでいいし。
「ところで、親玉はずいぶんと強かったですね」
アーサーとルイスの2人がかりでも、すぐには倒せなかった親玉。明らかに、Cランクの実力じゃない。
「そうだね。あれだけ強かったんだから、かなりの賞金が掛けられているかもね」
「護衛メインのアーサーも知らないの?」
「僕らの護衛はマデリンとフォレストワース間だけだし。あの辺は山賊が隠れていたら一夜で魔物にやられて全滅するだろうね」
「でも、マデリンとフォレストワース間は2日かかると聞いたけど」
「ああ、野営なんてしないよ。途中に砦があって、そこに泊まらせてもらうんだ」
そんな他愛もない話をしながら、野営の夜は更けていった。
救出された女性達に『暁』のテントを使わせたため、自分達は星空を見ながら寝ることになっていた。
さすがに地面の上に直接寝るのは嫌なので、荷馬車の上の荷物を移動し、平らな隙間を作ってそこに寝転んだ。
眼前に広がるのは満天の星。焚火の明かりは気になるほどのものでもなく、煙が時折に星の光を弱める程度だ。
目を瞑るとどうしても、無精ひげを生やした山賊の断末魔の表情を思い出してしまう。
星を見るのは嫌いじゃない。
あの圧倒的暴力の塊である巨人との対戦では死者が3人だったのに、今回の山賊戦では12人が死んでいる。刃物を持っている人間は怖いと改めて感じた。
じっとしていると腰のナイフが気になったので引き抜く。
その刃は一部が欠けてしまっていた。
手荒く扱ったからね。研いでどうにかなるレベルか微妙なところだ。王都に行ったらしばらく使う事は無いのかもしれないけど。
ベルトを外して傍らに置く。
その夜は、たまに見える流れ星を待ちながら、自然と眠ってしまうまで星空を眺め続けた。
次の日。馬車の車列はいつもより早くに出発する。
護衛がいなくなってしまって坂を上がれない馬車は、他の冒険者たちが手を貸して坂道を上る。ルイスとモーガンも手伝いに出ていた。
やがて峠を越えると下り坂になる。そうなると手伝いは不要でルイスとモーガンも戻ってきた。
下りは馬車の速度も上がって、歩いている冒険者はいない。救出された女性も馬車に分乗している。その中の1人がこの馬車にも乗っていた。
馬車を押しているときは良かったが、一緒に乗っていると話をしないわけにも行かない。女性は心に深い傷を負っている。ただ同性という理由だけで隣に座らされたけど、カウンセラーの経験は無いし、自分には荷が重すぎる。
自分も気にしていたが、相手もこちらを気にしていたようで、ちらちらとこちらを伺う視線の先は耳の辺りのようだった。
「エルフは初めてですか?」
「はい・・・、田舎だったので」
「少し見た目が違うだけで、普通の人と同じですよ」
中身は普通じゃないけどね。それは言わないでいいところ。
「なぜ冒険者なんかに?」
冒険者に対するイメージは少し悪そうだが、自分の事を話していいのなら話はできる。彼女の傷口に触れずに済むから。
2人で話しているとモーガンも話に混ざってきた。女性も嫌がるそぶりは無い。
3人なら、かなり気が楽になる。モーガン、ナイスアシストだ。
話していると女性は少しづつ自分の事を話し始めた。
田舎で農業をしていたが、盗賊団に襲われて両親も夫も子供も殺されてしまったらしい。村で生き残ったのは自分だけだとか。
今回は助かったけれどもこれからどうなるのか。




