これはありきたりなラブストーリーです
あたしが朝起きるともう学校へ出かけなきゃな時間だったので、階段を駆け降りながらお母さんに文句を言った。
「もーっ! どうして起こしてくれなかったの!?」
「だってこれはありきたりなラブストーリーじゃないの」
お母さんは呑気に紅茶を口にしながら、のほほんと言った。
「あなたにはありきたりでフツーでいてほしいのよ、裕子」
「遅刻しちゃう!」
ドタバタと着替えたり用意をしたりしながら、あたしは食パンを口にセットした。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
お母さんはなぜか寂しそうに、言った。
「幸せになるのよ」
☆ ★ ☆ ★
お母さんが言った通り、これはありきたりなラブストーリーだ。
だってタイトルにそう書いてある。
あたしはラブストーリーの始まりによくあるように食パンをくわえながら、走ってコンクリート壁の角を曲がる。
あれを曲がったら、これがありきたりなラブストーリーなのなら──
どっしーん!
やはりイケメンの男の子とぶつかった。
「大丈夫?」
彼はあたしが思い切りぶつかっても揺らぎもしなかった。
頑丈だ! こんな頼れる彼氏、欲しかった!
黒い髪が岩海苔みたいに綺麗で、ミステリアスな黒いマントに身を包み、右手に大きな鎌を持っている。クールな顔つきがこの世のひとじゃないみたいに整っていた。
こけたあたしに優しく手を差し出してくれる。この手を握ったら……恋が……恋がはじまるの?
あの世に連れて行かれた。
あたしはどうやら昨日車に轢かれて死んだようだった。死神の彼に聞いて初めて知ったよ、そんなの。
お母さんも教えてくれたらいいのに!