第八話 皆、死ぬ
「高城さんは、以前に小鬼に襲われたことって、ありますか?」
「え? ううん、昨日初めて……小鬼? っていうの、アレに出会ったよ」
「そうですか……」
「どうしたの?」
「珍しいんですよね、私たち……以外で小鬼を目視できるのって」
「そうなの? そういえば、小鬼もそんなこと言ってた気がする」
赤だったか青だったかがそう言っていた気がする。
「そもそもアレって何なの? 見えることが珍しいって、幽霊とかそういう類い?」
「んーと、言うなれば妖怪ですね。人の魂から成り立った存在じゃなくて、人の思念から生まれた存在です」
人の思念から生まれた存在。
「それって……そういう成り立ちの存在がいるとしたら幽霊より溢れてるものなんじゃないの?」
幽霊が本当にいるとしても、現実には死者より生者の方が多いはずだ。いや、幽霊に期限が、成仏という終わりが無いのなら幽霊の方が多いのか?
「妖怪として成り立つのに色々条件があるみたいで、溢れるほどでは無いですね。私達が祓ってたり、自然消滅なんてこともありますし」
「自然消滅なんて、あるの?」
「ええ、あくまで想いで成り立ってますから。元が解消されたなら消えてしまいます。全部がそうなってくれたら楽なんですけどね」
「祓う……だっけ? それが必要ってことは、自然消滅しにくいってこと?」
和美の質問に西生奈菜は驚いたように片眉を上げる。
「高城さんって、こういう話、得意ですか? なんというか飲み込みが早いというか」
「得意かどうかと言われても困るんだけど、漫画とか小説とか読むから想像がしやすいのかも」
「漫画とか小説かぁ。はー、私あんまり読まないんで、そういうものなんですね」
西生奈菜は感心の声を上げる。西生奈菜の見た目の印象からすると、教室で独り小説を読んでそうなんだが。偏見か、と和美は思った。
「あ、自然消滅なんですけど高城さんの言う通り起こりにくいですね。そもそも妖怪として成り立つ想いって強いというか大きいものが多いから、解消されづらいですね。それこそ想いの元が死んでしまうとかですね、消滅するのって」
「祓う必要があるってことは……何か害があるってことだよね。私も昨日襲われたし──」
和美が小鬼と遭遇して襲われることになる直前。小鬼が追いかけていたもの。
「瀬名さんと矢附さん!?」
和美の言葉に西生奈菜は頷いた。
「そうですね、高城さんが襲われたことは偶然だと思います。小鬼が見える高城さんに興味が移ったんでしょう。でも、本来は別の人を追いかけていたんです」
「知ってたの?」
「はい、それで待ってましたから。ここで」
昨日のあの言葉が、頭をよぎる。
「なんで屋上に?」
「誰も寄りつかないし、人目につきにくいですからね」
考えることは一緒か。しかし、待っててどうするつもりだったのだろう。瀬名も矢附も階段を降りていったし、和美が出逢わなければ小鬼も二人の後をつけて学校を出ていったのではないか。
「小鬼は釣るの簡単なんですよ。昨日の青い小鬼もあの後、すぐ誘い出せましたし」
西生奈菜は左手をヒラヒラと振ってそう言った。
「そう、それを聞いて安心した。それで……解決ってことじゃないんでしょ?」
「はい。小鬼を祓っても問題は解消されません、本題はここからです」
「本題?」
「小鬼が複数現れたってことは、大元の想いがそれだけ強いってことなんです」
「自然消滅しにくい、ってこと以外に問題が?」
「鬼が、現れます」
「……鬼?」
西生奈菜が頷く。表情に少し緊張感が浮かぶ。
「鬼は、危険な存在です。一度現れたら祓う以外に消えることはなく、被害の規模は小鬼とは比べ物になりません」
「小鬼だって人を襲うんでしょ、食べようとしてたし。それと比べ物にならないってどのくらいなの?」
「この学校で現れたら、生徒も教師も、皆死にますね」
西生奈菜はさらっとそれを言葉にした。それは漫画や小説ならよく聞く言葉だ。皆、死ぬ。まるでキャッチコピーみたいに軽く使われてたりする。現実感の無い、言葉。
「なので、直ぐに鬼を祓う必要があるんです」
「それが出来るんだね、西生さんは」
「はい。ですが、少し問題がありまして。そこで高城さんにお願いがあるんです」
鬼以外に更に問題があるのかと、和美は身構えた。
「瀬名さんと矢附さんを、引き離してほしいんです」