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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
第四章 くるみパン大人形

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第七十話 我が儘

 高城家への道程は、驚くほどあっさりしていた。坂道を埋め尽くすように蔓延っていた小鬼たちの群れも、坂を降りきる前には影を潜めてしまったのだ。


 二階建ての古びた一軒家。その玄関の前に立ち、奈菜たちはインターフォンを押す。


「ごめんくださーい」


 応答はない。奈菜は首を傾げながら声を張る。


「なんかこうやって人の家に訪ねるのって最近滅多にないから、ごめんください、って変な言葉に感じるね?」


「『御免下さい』は“無礼をお許しください”って意味ですから、変じゃないと思いますけど」


 何度も「ごめんくださーい」と呼ぶ奈菜に、後ろから気の抜けた笠原の相槌と、真面目に返す矢附の声。


「何言うとんねん、って言おう思ったけど……矢附さん、ええ情報ありがと。無礼を許してください、って宣言してもうたんやったら──」


 ニヤリと笑う奈菜は、玄関のドアに手をかけて──


 ドガァッ!


 手刀でドアノブを鍵ごと叩き壊した。


「鍵壊すくらい、御免ってことでええやろ」


「いや、絶対良くない!」


 笠原の抗議もどこ吹く風、奈菜は建て付けの弛んだドアを押し開ける。

 中は、ごく普通の一軒家だった。玄関には家族の靴が四つきちんと並び、漂う空気に威圧感はない。


「和美、おるんやろ?」


 呼び掛けても返事はない。


「だんまり通す気なら、勝手に入るからなぁ」


「ドア壊しといて今さらな許可取りじゃない?」


 声を掛けながらゆっくりと家に入っていく奈菜。そのあとをついていく矢附と笠原。


「ほな、聞いた話からして二階やな」


 玄関から見える一階の奥へ気を配りつつ、奈菜は階段へ足を向ける。木製の靴箱、姿見の鏡。ギィギィと軋む木の階段を慎重に登っていく。


 二階の廊下には左右に二つの部屋。その一つから人の気配がある。奈菜がドアノブに手をかけた瞬間──


「ノックはしないタイプ?」


 中から和美の声。奈菜の手が一瞬止まり、無意識にドアを押し開けてしまう。


「散々呼び掛けたのに無視したんはそっちやろ、和美。今さらノック一つで文句言われても困るわ」


「無視したからこそ、不法侵入ってやつになるんだよ、奈菜。ノック一つでも大事にしないと、あんた度を弁えなくなるでしょ」


 そこは和美の姉の部屋だった。ベッドの端に腰かける和美。その傍らには、仰向けに眠る姉。

 和美は家の中にもかかわらず制服姿に着替えている。その仕草も言葉も、普段通り。だからこそ異様だった。鬼の力を顕現しているはずなのに、小鬼もいなければ色の気が漂う様子もない。まるで何事もなかったかのように、ただ和美はそこにいた。


「お姉さん、寝てはるん?」


「そう。さっきまで起きてたんだけどね、急に事切れたみたいに倒れちゃって」


「倒れちゃって、って冷静すぎる言い方やなぁ」


「そう? でもほら、呼吸はしてるから」


 和美の指差す先。姉の胸は、呼吸に合わせて静かに上下していた。


「死んでないなら、それでいい」


「本来、死んどるはずやけどな」


 奈菜の返しに、和美の瞳が鋭く光った。


「何? 奈菜はお姉ちゃんに死んで欲しいの?」


「死んで欲しいんやない。“死んでて欲しい”──」


 奈菜が言い切る前に、和美は立ち上がり、二歩で詰め寄って手を振り上げた。


「──んや」


 奈菜はその手を掴み止める。


「和美。アンタのお姉ちゃんは自殺したんや。それを無かったことにするんは、流石に無茶苦茶やで。わかってるんやろ? それ押し通すには、アンタ自身の命を投げ捨てなあかんって」


「もちろんわかってる。私はお姉ちゃんを助けられなかったから、今度こそ助けたいの。そのために命を投げ出すぐらいの覚悟、とっくの昔に出来てる」


 奈菜の手に掴まれた和美の腕には、白い指の跡がくっきり残っていた。


「でも、それじゃあ解決になってないじゃないですか! 高城さんが力尽きたら、結局お姉さんはそれまでの命なんですよ!」


 矢附の声に、和美は驚いて廊下に目を向ける。そこには矢附と笠原の姿。奈菜は予想していたが、彼らの来訪までは想像していなかったようだ。和美の目に、一瞬だけ迷いが浮かび、その隙に奈菜は手を離した。振り上げられていた腕が静かに下ろされる。


「皆で私を説得しに来たんだ。……でもごめん、それは余計なお世話。私は僅かでもお姉ちゃんに生きてて欲しいし、これが我が儘だって自覚もしてる」


「その我が儘で、他の人まで甦らせて、一時のぬか喜びに浸らせてるんか?」


「一瞬でも一緒にいられること、居たいと願うことの、どこが悪いの?」


「またその問答かいな」


 屋上で小早志と繰り広げた問答。そのときは和美の生死の話に逸らしたが、本人を前にしてはもう逃げ場はない。奈菜は小さく溜息をついた。


「そっちが我が儘通す言うなら、こっちも我が儘通させてもらう。ウチもな、友達が死ぬかもしれへんって知って、みすみす見逃せる性分やないのよ」

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