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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
第一章 あんパン大奮闘
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第五話 屋上は立ち入り禁止

 誰も寄りつかない場所、イコール屋上。安直な考えがそもそも正しいのか和美は階段を一段飛び越える度に不安になってきた。


 ここで転げてしまえば間抜けだな、と気をつけながら階段を一段飛ばしで駆け上がっていく。


「「「マテヤ、コラ!」」」


 階下から聞こえる甲高い声。恐怖よりも、追いかけてきたことへの安堵感が上回っていた。


 三階を通りすぎたが、階段周辺には人の姿は無かったし声も聞こえなかった。立ち止まることなく、和美は四階へと駆け上がる。この程度では息が上がらない自信はあった。


 自信が無いのは屋上のことだ。直感で動いた、不安でしかない。


(こういうのって・・・・・・こういう危機的な状況の時って漫画とかドラマとかじゃ屋上開いてたりするけど)


 学校を舞台にしたホラーとか、逃げ惑う人が屋上に逃げて追いつめられて飛び降りてしまうとか。今まさにその状態でその記憶は消したいのだけど。


 そういう物語は都合よく屋上が開いていたりする。


 だけど普通、学校生活において屋上に用があることなんてないし危険視されて開放的な訳が無い。つまり、立ち入り禁止。


 四階にたどり着く。三階同様、階段周辺には人はいないし、声も聞こえない。帰っているなら、それでいい。教室にいるのだとしても、それでいい。下から迫り来る何か(・・)に誰かが見つからなければそれでいい。


 甲高い声とペタペタという足音が、下から追いかけてくる。ちゃんと来てる。和美はその音を確認すると、屋上へと続く階段を駆け登った。


 屋上へのドア。磨りガラス越しに見える外は、薄暗い。ドアノブへと手をかける。和美は願うようにゆっくり捻った。


 ドアがすんなり、外開きに開いた。外の空気と強めの風が流れ込み、和美の髪が乱れる。


「屋上は、立ち入り禁止やねんで」


 白い小袖に緋袴ひばかま。巫女装束をまとった少女が、そこに立っていた。後ろで束ねられた髪は、筒状の和紙で止められ、強い風に吹かれて揺れる。


「え、え、何!?」


 キッとした鋭い目付きで、少女は和美を睨んでいた。和美には、ただ戸惑いしかなかった。同い年くらい? 生徒だろうか?


「もうええから、そこ退いて!」


 少女は顎で右を指した。混乱した和美は、言われるがまま右へと飛び退く。


「「「マテヤ、コラッッッ!!!」」」


 三つの声が重なり、ドアの向こうから響く。赤、青、緑が連なって、屋上へ飛び出してきた。


「待ってたわ、ボケ」


 少女は不機嫌そうに呟くと、左手をゆらりと掲げた。まるで木の葉が落ちるように、ゆらゆらと空を滑らせる。

 バチッ。静電気が弾けたような音が鳴り、少女の左手が輝きだす。


「ミコッ!? ミコダッ!!」


 赤の何か(・・)が目を大きく開く。目玉が痙攣し、皮膚がぬちゃりと鳴る。


(そういえば、さっきも──)


 和美が思考を巡らせた瞬間、少女は拳を固く握りしめた。


「ほな、さいなら」


 光が爆ぜる。赤の何か(・・)が、頭と太い手足から閃光を放ち、一瞬にして弾け飛んだ。

 和美は咄嗟に閃光から目を逸らした。


「アカン、ミコハアカンッ!」


 青が跳ねる。


「セメテ、セメテクイタイ、クイタイッッッッッッ!!」


 緑も跳ねる。


 青は屋上のドア──校舎へと続く道に跳ね、緑は顔を背けた和美へと飛び掛かった。


「喰わさんし、逃がさへん! アンタ、ちゃんと目ぇ開いて!」


「へ、あ!?」


 少女は一歩踏み込むと低い姿勢で駆け出して、先ほどと同じ様に青に向かって左手をかざした。ゆらゆらと空を滑らせる。合わせて右手を緑に向かってかざす。


 右手を鋭く垂直に振り上げ引っ張る動作を取ると、飛び掛かっていた緑の動きが一瞬止まり地面に倒れ込んだ。


 続けて、少女は左手を握りしめた。


「ギッッ!!」


 青が呻き声をあげて、腕をばたつかせる。右腕が空気を叩いて全身を左へと弾く。青の右足が光を放って弾け飛んだ。


「避けた!? ウソやろ!?」


 右足が弾け飛んだ青は階段を転げ落ちていく。


「クイタイッッッッッッ!」


 俯せに倒れ込んだ緑が両腕を支えに起き上がる。


「しつこいっ!」


 少女は右手を緑に向けてかざす。ゆらゆらと空を滑らせ始める。


 だが、遅い。緑はその太い両腕をバネに和美へと飛び掛かった。


 眼前に迫る目玉。緑の何か(・・)が和美に迫る。


 殴る? 蹴り上げる? 手刀を振り下ろす?


 反撃手段が浮かぶもののどれも有効打に思えなかった。消火器がへこむ硬さをしているのだ。


 和美は後ろに倒れ込むように跳ねた。緑との距離は離れなかったが近づきもしなかった。眼前の目玉が、和美の動きに合わせて揺れる。


「クワッッセッロッッッッッッッッッッ!!」


「残念。ほな、さいなら」


 少女の手が握られるのを見て、和美は思わず瞼を閉じた。小さな呻き声が聞こえ、光が弾けた。

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