表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
第四章 くるみパン大人形

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/146

第五十七話 A組、B組、D組

 瀬名と別れ、自分の教室に向かおうとした矢附だったが、その足でそのまま奈菜の姿を探しに行こうと決めた。だが、数歩踏み出したところで、ふと、妙な違和感に気づく。


 ──自分の教室に戻る。


 瀬名にそう言われ、矢附も頷いていた。けれど、それはおかしい。

 瀬名と矢附は、同じクラスだったはずだ。バレーボール部の部長と部員。監視する側とされる側。そういう関係だった。

 にもかかわらず──さっき、階段を上った先で瀬名と別れたとき、彼女は矢附とは違う方向に歩いていったのだ。

 瀬名の向かう先は、C組やD組の教室が並ぶエリア。けれど、二人が所属するはずの教室は、二年B組。奈菜がいると思われる二年A組は、そのさらに奥にある。


 このズレは、偶然のはずがない。


 ──追いかけるべきか?

 それとも、まず西生奈菜に会いに行くべきか?


 迷った末に、矢附は踵を返した。これ以上、他人任せにするわけにはいかない。どうにもできなくなる前に、自分で動き、確かめなければ。


 瀬名の後ろ姿を探し、廊下を進む。すぐに追いつけると思っていたが、思ったよりも距離が離れていた。


 やがて、瀬名は二年D組の教室に入っていった。

 そこは、二人の教室ではない。まるで当然のように違う場所へと向かうその様子に、矢附は胸の奥がざわめくのを感じた。

 早足になりながら、教室の入り口まで近づく。


「おはよう、朋美。まぁた眠そうな顔して。昨日もバイト遅かったの?」


 瀬名の声が聞こえる。教室の中にいるのは、笠原朋美。

 茶色のショートボブに、くりっとした瞳。柔らかそうな唇に、どこか可愛らしい丸みを帯びた体型。座っていても背が高めなのがわかる。


「うん、そうなの。今のバイト先さ、すごくいい雰囲気でね。つい、残業も引き受けちゃって。あ、高校生がやっちゃいけない時間まで働いてたのはナイショね。ワガママ言って無理に残らせてもらってるから、あんまりバラすとバイト先に迷惑かかるかも」


 矢附にとって、笠原は「どこかで見かけたことがある」程度の存在だった。

 名前も、誰かから聞いた記憶があるような──そんな、ぼんやりした印象しかない。

 中学時代は別の学校、高校ではクラスも部活も違い、特に係で関わったこともない。なのに、どこかで確かに、対面した記憶がある。それがなんだったのか、思い出せないまま胸の奥に引っかかっていた。


「……あれ、矢附さんだよね?」


 覗き込むようにしていた視線に気づいたのか、笠原が小さく手を振ってくる。

 その言葉に瀬名も気づき、軽く目を見開いた。


「どうしたの、矢附? ……私、何か忘れてたっけ?」


 瀬名が口にしたその問いに、矢附はさらに違和感を覚える。

 彼女は常に部長として上に立ち、相手に落ち度を問う立場を崩さないはずだった。だが今の口調は、まるで自分に非があるかのような、そんな言い方だった。


「違うの……その、笠原さんに用があって」


「え、私?」


 咄嗟に出た言い訳。けれどもちろん、笠原に何か用があるわけではない。次の言葉をどう続けるか、矢附は内心で焦った。

 交流もない相手に話題を繕うのは難しい。それでも、笠原は不思議そうな顔をしながらも席を立ち、入り口まで歩み寄ってきた。


 笠原自身、矢附に特別な印象は持っていなかったが、どこかで見たような気がした。最近、瀬名に声をかけられるようになってから、少しだけ周囲に目を向けるようになっていたこともある。


「えっと……笠原さん、西生奈菜さんがどこにいるか、知ってますか?」


 思わず出たのは、さっき迷ったもう一つの選択肢だった。

 偶然かもしれない。でも、何かがこの流れに繋がっているような気がした。瀬名、笠原、奈菜──その関係に、導かれているような。


「西生さん? えーと……あんまり詳しくないんだよね」


 だが、その“知らない”という一言もまた、矢附にとっては一つの収穫だった。

 違和感を覚えたものの、そこに何もないと判断できるなら、それも前進だ。


「教室にいなかったなら、登校してないか……あ、図書室は? 西生さんって図書委員なんだよね。私も同じ図書委員なんだけど、私とかは仕事サボりぎみでさ。西生さんが私たちの分まで真面目に働いてて、放課後の準備とか、朝のうちにやってるって聞いたことある」


 そう言って、笠原は窓の向こう──校舎の四階隅にある図書室の方を指さす。

 「バイト始めてから、仕事の大切さ、準備の大切さを実感してるんだよね」と照れたように笑った。


「ありがとうございます。図書室、行ってみますね」


 矢附は深く頭を下げた。話の断片が、またひとつ繋がったような気がしていた。


「あ、待って。せっかくだし、私も行くよ。……ほら、図書委員の仕事、やるチャンスって感じで」


 笠原の申し出に、矢附は頷いた。断る理由もなかった。

 二人が並んで廊下を歩き始めると、背後から瀬名の声が飛ぶ。


「時間、気にしなよー!」


 いつものような調子で、けれどどこか、見守るような響きが混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ