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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
第二章 カレーパン大闘争

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第二十話 危険な《お手伝い》

 放課後、和美は屋上を訪れた。《お手伝い》というのは矢附への口実で、本当は前回と同じように、人目を避けて奈菜に会うためだった。


 今日も屋上には風が強く吹いていて、深まる秋を感じさせる肌寒さがあった。坂進(はんしん)高校は市の北部、しかも長い坂の上にあり、スマホに表示される気温よりも体感は低い。和美は体操着のジャージのチャックを上まで閉めた。


「屋上で待ち合わせって、寒くない?」


「んー、そうですね。そろそろ他にいい場所、探さないと」


 奈菜も寒そうにしていて、和美と同じくジャージを羽織っていた。


「いずれバレても面倒ですしね」


「やっぱり無断で入ってたんだ」


「屋上への立ち入りに、許可なんて出ませんよ」


 となると、鍵を開ける技術があるのか、あるいは鍵を拝借したのか──どちらにしても、何気なく答える奈菜の雰囲気には合わないように思えた。


(巫女モードのときは強気だけど……まさか、屋上に来るために変身したわけじゃないよね?)


 もしかしたら「お祓いの準備中」ということで、仕事モードに意識を切り替えていたのかもしれない。和美は、三つ編み眼鏡の奈菜を横目で見た。


「矢附さんは今日、部活?」


「うん。瀬名さんと一緒に向かってた。鬼の影響は、今のところ大丈夫かな? 私のことも含めて、想いの辻褄合わせはうまくいってるように思う」


「再発の心配も無さそうですね」


 奈菜は安堵の息を漏らした。今回の件は彼女にとって、初めて一人で任された仕事だった。もちろん、失敗は許されない立場ではあるけれど、それ以上に、姉のいない現場に一人で立つという重みがあった。


「矢附さん、カウンセリングはまだ続けてるけど……それは大丈夫?」


 ある意味、今回の出来事の引き金でもあったスクールカウンセラーのカウンセリングを、矢附は今も週に二回受けている。いじめという指摘によって増幅した想いが、また再燃するのではと和美は不安だった。


「はい、大丈夫です。『助けられなかった』という想いが解消されたことで、今は本来の──いじめを受けたこと自体へのケアに戻っています。むしろ必要なものです。鬼が消えたからって、心が急に強くなるわけじゃありませんから」


 「気にしてなかったことになった」なんて都合のいい辻褄合わせはなされなかった。矢附が今もカウンセリングを続けているという事実が、心の傷が残っていることの証だった。


 彼女はいまも、誰かに助けを求めている。


 本当に、仕返しを手伝ったほうがいいのか──和美はふと思ったが、矢附本人がそれを望むかはわからなかった。


「……物騒なこと、考えてません?」


「そんなことないよ。目には目を、歯には歯を、等価交換……えっと」


「和美って暴力反対の優等生ってイメージでした。《お手伝い》って、実は力仕事なんですか?」


「そうだね。もし“力で助ける”ってことが必要なら、選ぶかもしれない」


 和美はうなずいた。これまで自分がしてきた選択を思えば、自分は決して平和主義ではない。剣道で身につけた力を使って後悔したことだってあった。


「やっぱり、怖い人だなぁ」


「昼は“面白い”って言われたんだけど?」


「ああ、それ、わかります」


「私はよくわからないけどね」


 “怖くて面白い”のか、“面白くて怖い”のか。どちらにせよ、褒め言葉とは言いがたい印象だった。


「そういう印象の話で言うと、奈菜が鬼のお祓いしてるってのも、全然イメージ湧かないんだよね。あんなのが、そんな頻繁に起こってるの?」


「ええ、まぁ……」


 和美の問いに奈菜は言い淀んだ。「何?」と促すと、奈菜はため息のように息を吐いてから答えた。


「正直、和美にはもう鬼に関わってほしくないんです。素人が関わるっていうのは、影響を自ら受けに行くようなものだから。命の保証はできません。初めて遭遇したときだって、問答無用で食べられかけてましたよね?」


 和美は黙ってうなずいた。こう言われることは、予想していた。漫画やドラマではお約束の展開だ──「素人は引っ込んでろ」。


「私はね、奈菜が“邪魔だから来ないで”って言うなら関わらない。でも、“一人だと大変”って言うなら、手伝いたい。それだけ」


「え、んー……それだけって……こういうのって、“もう引き返せないの! 最後まで付き合うわ!”みたいに駄々こねる場面じゃないんですか?」


 和美は首をかしげた。


「駄々こねるって……え、そういうの一回挟んだ方がいいの?」


 形式的なものでもあるのだろうか?


「いや、違いますけど……なんとなく、情熱にほだされて“仕方ないですね”って受ける方が、それっぽいのかなーって思っただけです」


 奈菜はぼそぼそと呟き、顔をそむけて唇を尖らせた。不満そうだ。


「──今回限りにしてほしい気持ちは、本当です。でも和美は、どういうわけか鬼が見えてしまう。関わろうとしてなくても、巻き込まれてしまうんじゃないかと思ってて。命の保証はできませんし、私だってスーパーヒーロー……ヒロイン? じゃないので、危険はある。でも、仕方ないって理解してもらえたら──」


 そこまで一気に言うと、奈菜は手を差し出した。握手のつもりだ。和美は、ためらうことなくその手を握った。


「《お手伝い》、させてもらうね」

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