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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
第一章 あんパン大奮闘
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第十三話 四つのエサ

 矢附が返答せず、他の三人も押し黙った。僅かな沈黙が流れたが、それを破ったのはペタペタという足音だった。


「来たな。矢附、ほどいたるけど光界からは出んといて。アンタが出たら、この学校ごと呑まれてまう」


 言うなり西生奈菜は矢附に手をかざした。糸が解れるように光の拘束がほどかれた。困惑しながらも矢附は頷いた。


「改心が難しいとなると、鬼を祓うしかないってこと?」


「そやね。元からそれが一番早いと思ってたし──」


 和美に答え西生奈菜は自分達が光界に入ってきた側に振り返る。ゆっくりと左手をかざした。


「それが一番難しいとも思ってた」


 赤、青、緑──色とりどりの太い腕が、天井も床も壁も関係なく、あらゆる方向から這い出してくる。十数本、いや数十本。白い空間が、ぞわぞわと塗り潰されていく。


「・・・・・・気持ち悪い」


 矢附が嫌悪感を隠さずそう呟いた。瀬名は怯えきっていて後ずさりしている。


「こ、こんなに! 小鬼の増えすぎじゃない!?」


「瀬名と同じやね。さっきの騒動で他の生徒達も助けれへんかったとか何も出来へんかったって罪悪感が生まれたんやろね」


「罪悪感? そんな大ごとに皆が想ってるってこと?」


「いや、そない大層に想ってなくても些細な感情でも、鬼主の影響が出てもうてるんやろね。矢附から瀬名にうつって、瀬名のがまた広がって──こういうのは、一回火がついたら一瞬で燃え広がんねん」


 腕が、足が、角が、次々と白い空間を埋めていく。


「これって……その、影響を受けた皆は大丈夫なの?」


「この光景見て他人の心配とか、高城って変なヤツやとか言われへん?」


 西生奈菜は至って真面目な表情で和美を見る。和美は首をかしげた後、間をおいて苦笑いを浮かべた。


「言われてるかもね」


 和美の言葉にせやろね、と西生奈菜は続けた。


「外のより旨そうなエサはここにあるからね」


「エサ?」


「ウチとアンタと、そこの二人」


 西生奈菜が右手で順に指を差す。左手はゆらゆらと木の葉が落ちるような動きをし始めた。


「西生さんは巫女で、矢附さんは鬼主、瀬名さんは影響が強いから? 私は何で?」


「アンタは鬼主の影響を受け取らんのに見えるからやろな。珍しいってことは珍味なんちゃう、知らんけど」


「そんな無責任な……」


 ふざけた言い方をしているが西生奈菜は真面目な表情を崩さない。むしろどんどんと険しくなってきている。険しく、白い空間が埋まっていくのを睨んでいる。


 白い空間に大きな目玉が現れる。一つ、二つ、三つ・・・・・・数えきれないほどの赤青緑。空間に、ひび割れのように笑い声が走る。ケタケタと、甲高く、狂気じみた音が四方から染み出してくる。目玉が揺れ、瞬きを繰り返すたびに笑いが弾けるようだった。


 ひぃっ、と瀬名が怯え声を震わす。


 それが開始の合図になった。


 西生奈菜が左手から光を放つ。手のひらを起点に、光がじわりと球体を描きながら膨張していく。それは熱も音もなく、ただ世界を浄化するように白い空間を侵食していった。


「毎度毎度めんどくさい前哨戦やで」


「ミコヤ、ミコガオルゾ」


「アカンミコハアカンゾ」


「アホカコノカズヤゾ、クウテマエクウテマエ」


「エサイッパイヤクウテマオウクウテマオウ」


 上下左右、生え出る目玉があちこちとぬちゃっと音をたてる。


 光の球体がどんどんと大きく広がっていく。西生奈菜自身を球体の中に含むとその大きくなる速さは増し、和美、矢附、瀬名の順に球体の中に含んでいく。


 青の小鬼が一体、飛び出した。大きくなる光の球体へと飛びかかる。


「アホ一体。ほな、さいなら」


 青の小鬼が光の球体に触れると、触れた指から瞬時に光が全身へと広がり、言葉に出来ない音を叫び、溶けた。


「ナンヤナンヤナンヤ」


「ドナイナットンネンドナイナットンネン」


 小鬼達がざわつく。初めの一体に続いて飛び出そうとしたものが動きを止めたが、白い空間には手足が溢れていてそれが小鬼を押し出した。


 押し出された小鬼達数体に広がり続ける光の球体が触れる。


「アカンッ・・・・・・」


「アホが、えっと、何体か。ほな、さいなら」


 光に触れた小鬼の皮膚が泡立ち、音もなく崩れ落ちる。骨も筋も、一瞬で融けて光へと還る。ただし、そこには人の声とも獣の咆哮ともつかない悲鳴だけが残った。


 西生奈菜の左手はゆらゆらと揺れ続けたままだった。額に浮かぶ汗が、彼女の集中の証だった。表情は冷静でも、光の揺れがわずかに乱れているのが見えた。


 小鬼がどんどんと光界内に現れては光の球体に触れて溶けていく。形容しがたい音が、鼓膜を震わせ続けた。


「これって、余裕なの……?」


 瀬名が誰かに問う様に震えた声で呟いた。


「どうなのかな。これっていつまで続くと思う?」


 西生奈菜の圧倒的な力に楽観視したくなる気持ちを抑え和美は答えた。一番難しい、そう言ったのは西生奈菜だからだ。簡単に済むはずなどなかった。


 小鬼が次々と溶けていくが、肝心の鬼というものが出てくる気配が一向に無い。それに小鬼を溶かして何か効果はあるのだろうか? 想いの解消に繋がるのか? 和美は瀬名を見たが瀬名には何かが変化した素振りすらなかった。


 変わらず怯え、右肩を抑えている。

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