第九十九話 時計回りor反時計回り
齋藤の説明通り、少しの時間を空けて和美の手の中にあるミニチュア錫杖が黒く光を放ち出した。
「ああ、ようやく来たようだね。玄武の中でもいくつか部署とかあるんだろうか? 書類のたらい流しみたいな時間だったね。そういう凝り固まったモノの中に組み込まれるのかと思うと、やはり吐き気がするほど嫌なものだ」
崩さない微笑みを浮かべながら、齋藤がそう言う。皮肉めいた物言いは和美に同意を求めるというより、いるかいないかもわからない玄武という存在への愚痴なのだろう。
「あの、これってこれで完了?、なの?」
ミニチュア錫杖は黒く光を放つが、それが力を受け終わった後なのか受けている最中だから光が溢れてしまってるのか、和美には判断がつかなかった。もう少し、地面から力という光みたいなものが沸き立ってミニチュア錫杖に注ぎ込まれる、とか分かりやすいもの期待していた。
「いやいや、少しわかりづらいんだが、そのミニチュア錫杖の光が治まったら完了、というところだよ。僕も実際に見たのは、実は初めてなんだがそういう段取りなのだと、嫌でも理解出来てしまっている。そこら辺の説明まで、あの巫女さんがやるつもりだったみたいだが、どうやら出しゃばってしまったようだ」
齋藤がそう語り、和美が花菜の方を気にしてみるが、花菜自身は齋藤の出しゃばりを不満に思うどころか面倒な説明が省けてせいせいしてるようだ。こちらの事は気にせず続けろ、と無言の圧を感じる。
「ただ誤解を解きに来ただけだったんだが、残りの説明も任されたらしい。ここまでも合わせて長話申し訳ないが、そこは巫女さんに白羽の矢を立てられた己の不幸を呪う、ということで許して欲しい」
「そういう言い方が回りくどいって言われる所じゃないですかね? いいから続けて貰えませんか、説明を」
和美の刺すような返しに、齋藤はわざとらしく、む、と一言呟いた。
表情は相変わらず崩さないので、不満であるという人の模倣の一つなのだろう。
「まぁいい、続けよう。ミニチュア錫杖に玄武の力が授けられたら、その後、ミニチュア錫杖から光が放たれて次の四神のポイントを指し示す道標となる。親切なシステムに思えるが、そこでももちろん試練が待っているので、優しさから来るものじゃないのはわかるね? 四神は度重なる試練を与え、自身らの駒を作りたいだけだからね」
「守護者、という事ですよね」
「守護者と言えば聞こえがいいが、四神自身らが具現化出来ないから代わりを作ってるだけだよ。偉大なる四神様なら、そんな身代わり立てなくても力の行使ぐらい出来るだろうに、人と鬼に直接関わるつもりは無いらしい。いやあるいは、直接関われないのかもしれないがね。神というのも我々鬼と同じ様に人の意識、信心から成り立つものだから、神々しくあり続けるためには偶像であり続ける必要が――」
齋藤の説明がヒートアップしだしたので、和美は咳払いを一つ入れた。正直なところ、四神の説明については聞いておくべき話なのかもしれないとも思っているが、長くなられても困る状況だ。この後、市内中を駆け回ることになってるので、急がないと奈菜の助けとなる部分に遅れてしまうかもしれない。
「おっと、失礼。いつかは高城さん、君も理解した方がいい話なんだが、今はやめておこうか。とにかく、次の場所が示されるわけだが、実の所次に行く方角は高城さん、君の自由だ。西から行こうが東から行こうが南から行こうが、自由だ。オススメは時計回りか、あるいは反時計回りなんだけど――」
四神に合わせて考えると、西は白虎、東は青龍、南は朱雀となる。
それぞれ鬼で言えば白鬼、青鬼、赤鬼。
「青には緑も含むから、東に行くと小早志さんの担当方角となるんだけども、小早志さんは現在あの場には不在だからその点は安心してくれていい。彼女は今乃木市の中央で、絶賛戦争中だ」
花菜の介入で一旦分散した小早志真理亜の気配を、齋藤はカウンセリングルームに残って探っていた。どうやら西生家の一員を動員して大捕物と行こうとしてるようだ。いや、西生家に捕らえるつもりは無いので大祓物とでも言う方が正しいか。
「それと付け加えて説明するならば、現状、西の方角、白虎の下にある鬼は白鬼の力を内包したままの高城さん、君ということになる。故に待ち受ける試練は今回みたいな単なる退治じゃないだろう。きっと君の内面との対峙となる。やるからには相当の覚悟がいるだろうね」
齋藤の説明が続く中、和美の手の中にあるミニチュア錫杖の光がだんだんと小さくなっていった。
「ということで、僕のオススメは担当者不在の東から回っていく時計回りだね。盛り上がりそうな場面は後回しの方が良いだろ?」




