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夢じゃないよ

 翌朝、目を覚ますと、不気味なくらいにいつも通りだった。昨日の出来事は悪い夢だったのかもしれない。だけど、俺の中に芽生えた疑念は消えずに、胸の内をドロドロと漂い続けている。


 咲楽が「今日は散歩に行かないの」と言っているような懐疑的な視線を送ってくる。

 行けるわけがない。怖い。あの縄の形を想像するだけでも気分が悪くなる。


「うん。ちょっと、今日は家でゆっくりしてようかなって」


 「そうなんだ」という感じに無邪気な顔で咲楽が紅茶を啜る。


 少なくとも彼女に自覚がないのなら、気づかないでいるべきだろう。自覚したならそれは完全な願望に変わってしまうから。

 あの森には絶対に近づけさせないようにしないと。外出もできるだけ回数を減らすようにしよう。


「今日は家でゲームでもしようか」


 咲楽がコクリと頷く。

 俺が何かを懸念しているということも悟られないようにしないとな。


 朝食を終えて、各々家事を済ませると俺は収納ケースから古いゲーム機を取り出して二人分のコントローラーを用意した。


『ゼーガー』


 今日遊ぶのは協力プレイ可能な横スクロールアクションゲームだ。プレイヤー1がメインで、プレイヤー2はサポート。サポートキャラは何度死んでも復活してすぐ画面に帰ってくることができる。俺はいつもプレイヤー1で咲楽はプレイヤー2。

 今日挑戦するのは終盤の機械工場ステージ。

 始めるや否や咲楽が即死穴に落ちていく。声は出さないけど、驚いて背筋を伸ばす姿が可愛らしい。

 咲楽の操作するキャラは飛行能力も備わっている上に残機無制限だから、このステージは楽々クリアすることができるはずだけど……何ともまあ不器用なことか。飛行能力が余計に咲楽を混乱させていて、落下ポイントを避けようとして飛んだ先にいる敵に激突したりしている。

 声を上げない分、身体を使ったリアクションが多種多様で、見てて飽きないからいいんだけどね。


 それからも咲楽は死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死にまくった。

 その度に復活しては何食わぬ顔でまた走り出すキャラクターがちょっと恐ろしく思えるくらいに。


 そんなこんなで昼食を挟みつつ、午後まで時間をかけて最後までクリアできた俺たちは、ハイタッチして喜びを分かち合った。

 ……良い笑顔だ。クリア画面のキャラクターたちも祝福してくれている。


 ゲームを遊んでいると、少しだけ嫌なことを忘れることができた気がする。もしかすると、あの出来事は、冗談ではなく本当に夢だったのかもしれない。


 夜は二人でピザを食べながら痛快な大作コメディアクション映画を観た。

 これもまた楽しくて、俺はすっかり前向きな気持ちになってしまっていた。


 それから寝る前に、ログハウスの裏に作った眺めの良い山々を見渡せる露天風呂に二人で一緒に入って、心も体も暖まったところで、寝室を淡い月明かりが照らす中、眠りについた。


 ……ちなみに、一緒にお風呂に入ろうと最初に誘ってきたのは咲楽だ。決して俺が邪な気持ちで頼んだわけではない。理由は分からないけど、露天風呂を作った日の翌日に、急に咲楽が俺を家から引っ張り出して、露天風呂の前で「一緒に入ろう」というジェスチャーを取ったのだ。


 そりゃあ、もちろん最初はドキドキしたよ。凹凸が少なく見た目も幼い咲楽とはいえ、同い年の女の子なわけで。

 湯に浸かって紅潮する顔だとか、絹みたいに滑らかな黒髪が肩を濡らして妙に艶やかな感じがしていたりだとか、隣で見ている俺は正直気が気ではなかった。いつもは綺麗に切り揃えられている前髪も乱れていて……。

 何より、当たり前だけど何もかも露わになってしまっているわけで。

 正直、色々危なかった。


 ただ、今はもう平気でお互いの背中を流したりしているし、慣れてくると案外どうとも思わなくなる……わけがない。

 そりゃそうだろ。幼馴染とはいえ、この十数年間こんなこと一度もしたことがなかったんだから。


 ……本当に、咲楽が何を考えているのか分からない。





 ——次の日、目を覚ますと、寝室の天井にあの「縄」が生えていた。


 夢じゃなかった。

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