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創造主

 翌朝、もうそろそろうんざりするくらい唐突に、それでいて満を持したかのように、それは現れた。


「グッドモーニング」


 俺たちの寝室——正確に言えば今は咲楽の寝室のベッドに二人で寝ているのだけど——の入り口に、黒いフードを被った見知らぬ短パンの少年が朗らかな笑顔で片手を挙げながら直立していた。

 顔の上半分は影に隠れてよく見えない。


「だ、だ、誰だ!?」


 寝起きの薄目でぼんやりとしていた視界が一気に広がった。

 寝室に知らない人間がいる。それだけでもかなりの恐怖だけど、そこに立っている少年は普通の人間じゃない。口元以外は真っ黒で、昨日の影たち同様にノイズが走っている。フードと短パン以外の情報がシルエットから伝わってこない。

 一言で言えば異質だ。


「……なるほど、分からないか。まあ無理もない。僕は存在しているようで、していない。言わば概念。いや、願望そのものと言った方がいいかな」


 俺がベッドの上で固まっていると、彼は徐に語り始めた。

 何を訳の分からないことを言っている。


「君がその願望を理解していないのなら、恐らく今君が見ている僕は大層曖昧な形をしているのだろうね。言わばプレースホルダーというような状態だろうか。そうだろう、待夜真守まちやまもる


「何が『そうだろう』だ。何も分からない。それに、何で俺の名前を知っている」


「そりゃ、知ってるさ。知ってるよ。まぁ、限られてはいるけどね。待夜真守のことも、ひょっとしたら久住咲楽のことも」


 こいつ、咲楽のことも知っているみたいだ。

 「限られている」って何だ。


「お前、どうやってここに入ってきた」


「どうやって? うーん、難しい質問だな。『どうやって』って言うのは経緯のことではなく物理的なことだと思うのだけれど、生憎僕にも分からないんだ。ただここに現れた、それだけのことなのさ」


 「現れた」だって? あの世界を連想させる言い草だけど……。

 それに、さっきこいつは自分のことを『願望』だと言った。ということは、こいつも咲楽の意識と何か関係があるのか? あったとしても何だ。こいつは物じゃない、意志のある何かだ。望んで出現するにしても、何を望めばそんなことになる。

 それに、昨日から俺たちのいる世界が、あの何でも望めば出現する世界と同じ物だとは思えない。


「お前の目的は何だ」


「目的ねぇ。目的って言うと、あるにはあるのだけれど、それは君次第かなぁ」


「俺たちをどうするつもりだ」


「どうするって、危害を加えたりはしないさ。むしろ君たちを、いや、君を救いに来たんだよ」


 俺を救いに来た、だと。何から?

 あの黒い影たちからか? けど、俺はまだあいつらから実害を被ってはいない。

 だとしたら何だ?


「『一体何から』って顔をしているね。これも理解してもらえないかもしれないけれど、僕は君を君自身から救いに来たんだよ」


「俺自身から?」


「そう。君は非常に脆く危うい存在だ。それは誰かを傷つける危うさではない。君自身を傷つける危うさだ」


「俺が?」


「そうだよ」


「何でそう思う」


「何故って、それは明々白々じゃないかな。それすらも分からないと言うのなら、第一、君はあの世界を誰が作ったと思っているんだい?」


 あの世界。つまり俺と咲楽がいた理想の世界だ。意識的にも無意識的にも咲楽の願いを反映する世界。咲楽が望めば何でも自由に手に入る。常に咲楽が中心にある世界だ。

 だから、簡単に考えれば答えはこうだ。


「……咲楽、じゃないのか」


「はは、そう言うと思ったよ。でも、残念。不正解だ」


「じゃ、じゃあ誰だ。まさか、お前があの世界を作ったとでも言うのか?」


「あっははは。それは何だい、冗談のつもりかい? だとしたら……全く笑えないね」


 軽薄そうな笑みが消え、彼の表情が読めなくなる。


「自覚が無いのか、それとも気づかないふりをしているのか。どちらでも久住咲楽が気の毒だね。可哀想だ」


 彼は俺の隣でまだスヤスヤと寝ている咲楽の方を見て、慈悲深げにそう言った。


「……いいよ。教えてあげよう、誰があの世界を創り出したのかを」


 俺は目の前に存在する異質な物に対する恐怖を忘れて、それが口を開いて次の言葉を繰り出すのに集中した。


「この世界の創造主は——」


 彼がゆっくりと、真っ直ぐに指を差す。


「——君だよ、待夜真守」



 天井に生えた「縄」が、ギィと音を立てた気がした。

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