異世界にコンビニができました〜なぜかカップラーメンが冒険者に大人気です〜
ここはヘリウッド王国の王都にある小さなお店『マリウッド』。
小さいながらも、ありとあらゆる商品が置いてあり、少し割高だがなんでも揃うと人気のお店である。
そんなマリウッドに、異色のものが販売されるようになったのは、この国では珍しい黒髪をおさげにした女の子が店番をするようになってからだった。
名前をトウコというその女の子は、不思議な機械を用いて異色のものをマリウッドで販売している。
この店を利用するのは冒険者が多いため、ポーションや非常食、松明などがマリウッドの売れ筋商品であった。
しかしトウコが用意する『カップラーメン』とよばれる食べ物がその人気をかっさらったのである。
もちろん以前の商品の売上はそのままで、カップラーメンの売上が上乗せされているため、店主のマリーもニコニコなのだ。
今日も今日とて、腕利きの冒険者がカップラーメンを買いにマリウッドへ訪れるのであった。
――――……
「トウコ! この商品はいくら?」
そう尋ねるのは最近この王都にやってきたという冒険者のジェームズ。
彼はカップラーメンの噂を聞きつけ、わざわざ王都までやってきた物好きである。
そんなジェームズはカップラーメンをいたく気に入り、結構な頻度で来店しては様々な味のカップラーメンを購入していった。
今日はピリ辛味のカップラーメンを購入する。
「ねぇ、トウコ。カップラーメン以外にもいろいろ珍しいものがあるみたいだけど、他にどんなのが人気?」
「そうですね。この缶ビールも人気ですね」
トウコは350mlの缶を3つテーブルに並べた。
種類が違うらしく、銀色をしていたり、変な動物が描かれていたり、麦の絵が描かれてたりする。
ジェームズはそんなビール缶を見つめ、しかめっ面をした。
「俺、ビール1杯で酔って寝ちゃうからなぁ」
「酒場で売られてるビールよりアルコール度数は低いので1缶くらい大丈夫かもしれませんが、⋯⋯保証はないですね」
トウコはそう言いながら3つの缶ビールを売り場に戻していく。
ジェームズはその手を掴み、缶ビールを1つ掴むと、購入する。
「宿で1人で飲んでみるよ。寝ても迷惑かかんないし」
そうして意気揚揚とジェームズは帰って行った。
その3日後、ジェームズはマリウッドにいた。
「トウコ!あのビールいいね。初めて酔うって感覚を知ったよ」
いつも酔うより先に寝てしまい、起きると二日酔いのしんどさだけが残るという地獄だったと話すジェームズ。
トウコはジェームズの話に適当な返事を返しながら、在庫管理をしていた。
「ほかの種類も飲んでみたくてさ」
そう言ってジェームズは前回とは違う種類の缶ビールを2つレジに並べる。
トウコはそんなジェームズを困った顔で見て、レジに戻る前に小さな瓶を2つ持っていく。
「これ、ビールを飲む30分前くらいに飲んでください。二日酔いの予防になります。あと、飲めるからといって飲み過ぎないように。1日1本まで」
肝臓のイラストが描かれた小さなそれを、ジェームズは不思議そうに見つめた。
次にジェームズが来たのは1週間後であった。
寝起きの頭痛が無くなったと、以前買った小瓶がかなりお気に召したようだった。
「今日はさ、これが気になって」
そう言ってジェームズがレジに並べたのは、真ん丸で茶色くゴツゴツとした見た目の商品であった。
「ジェームズさんは甘いもの好きなんですか?」
「甘いもの? クッキーとかは食べるけど。⋯⋯これ甘いの?」
ジェームズは手元の商品を見つめて呟いた。
「こっちにした方がいいかもです」
そう言ってトウコがレジまで持ってきたのは同じ見た目のものだった。
「なにか違うの?」
「そっちは生クリームで、こっちはカスタードですね。生クリームは甘すぎるって男性多いいので。甘いもの食べ慣れてないならこっちがいいですよ」
ジェームズはレジに並ぶ2つの商品を眺め、結局両方購入していった。
「俺はカスタードの方が好きだったよ。さすがトウコ。よく好みをわかってる」
嬉しそうにジェームズが報告に来たのはさらに1週間がたったころであった。
ジェームズの感想をこれまた聴き流し在庫整理をしていたトウコであったが、マリウッドに新たな客がやってきた。
「いらっしゃいませ」
「おう、姉ちゃん。これら全部もらっていくぜ。……もちろん無償でな」
2人組のいかつい男性が下品な笑い方をしながら、棚に並ぶカップラーメンやら缶ビールやらを袋に乱雑に詰め込んでいく。
そんな男性の腕をジェームズが掴んで止めた。
「兄ちゃんも、痛い目見たくなけりゃさっさと離しな」
威勢のよかった男性だが、ジェームズの手が離れるどころか、どんどん強く握られていくにつれ顔を顰めさせていた。
「てめぇ、離しやがれ!」
「この腕折られたくなけりゃ、さっさと帰れよ」
ジェームズは男性に睨みを効かせながらドスの聞いた声で囁く。
腕を掴まれた男性も、それを見ているだけしかできない男性も体をビクつかせていた。
「わーたっよ。帰るから離せ」
そういい男性が袋を床に投げ捨てる。
それをみたジェームズが男から手を離すと、これ幸いと男性がジェームズに殴りかかる。
「まだわかってないみたいだな」
ジェームズはそのパンチを軽く受け流すとそのまま腕を掴み、ポキリと腕を折ったのだ。
悲鳴をあげる男性は床にうずくまり、転げ回っていた。
もう一人の男性も腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。
「ごめんトウコ、お店が散らかっちゃった」
警備兵に男たちが連れて行かれた後、ジェームズはトウコに申し訳なさそうに呟く。
「ジェームズさんのせいではありませんし。なんなら助けてくれた恩人です。ありがとうございます」
ジェームズに対し明るく振る舞うトウコであったが、商品がダメになったことにショックを隠せていなかった。
「ビールは完全にアウトだし、カップラーメンもぐちゃぐちゃになってるよね」
トウコは袋から1点、1点商品を出しながら、ため息をついた。
「俺が、買い取るよ」
そんなトウコを見ていられれなかったのか、ジェームズが名乗りをあげる。
「ジェームズさん。一介の冒険者が買える金額じゃないですよ。気持ちはありがたいですけど、無理しないでください」
しかしトウコは困ったような笑顔でジェームズの申し出を断ったのである。
――――……
さて、所変わってヘリウッド王国の第一王子リアムの執務室では、リアムと護衛のジェームズとが言い合いをしていた。
「いい加減にしてくださいよ。リアム様。何度も王城から抜け出して。挙句に俺の名前を使ってるんだから」
「仕方ないだろ。リアムなんて名乗れば王子だってすぐにバレるだろ」
「なにがコップ1杯でお酒に酔うですか。あんたザルじゃないですか」
「ジェームズになってるんだから、弱いだろ! それに小瓶のやつはお前すごく気に入っていただろ」
「そうですよ。マリウッドで売っている缶ビールも小瓶も、なんならデザートだって気に入ってますよ。でも、ジェームズとしてあの店に行けないんだから生殺しなんですよ!」
そんな掛け合いが永遠と続いていた。
こんな感じの物語がもしかしたら続くかもしれない。