第62話 条件
「おかしいと言えば、スキルの他にも気になる点があるわん。補助効果の記載欄に、『世界の呪い』なんて大層な名前のものがあったのよねぇ」
ゴブ茶と一緒に出した茶菓子を頬張りながら、ブルジョンが別の話題を話し始める。但し、相変わらずエスタの顔は明後日の方向を向いている状態だ。
「ああ、そんなものもあったねぇ。残念ながら、私は世界の呪いなんてものは初耳だったが」
「私だってそうよぉ。それでも色々と調べてみたわん」
「ほう? で、何か分かったのかい?」
「それが全っ然! そんな種類の呪いなんて、ギルドの記録にも一切なかったのん。一体何なのかしらねん? 二人に問い質すにしても、ステータスや出自について聞くのは、冒険者にとっての御法度だし…… うふーん、何の情報もない今の状態だと、正直もう何もできないのよねぇ。ミミちゃん達から言ってくれれば、いくらでも手助けできるのだけれどぉ……」
「フン、逆に考えれば私らが手助けしなくとも、自分達で何とかしているって事じゃないかい? ミミは兎も角、カンロなら何も考えていないって事はないだろう。それよりも私としては、『隠蔽』のスキルも使わずにステータスを無防備に晒している方が心配だよ。あんな状態じゃ、F級の鑑定眼でも丸見えだ。作ってやる装備の一つに、何かしらの対策を講じてやらないと、ブツブツ……」
「エスタ~? 自分の世界に入らないで~?」
「む……」
エスタ、ここで咳払いをひとつ。
「まあ兎も角だ、私達が余計に心配してやる必要はない。どうしてもと言うのなら、装備の時のように当たり前の事を教えてやる事だ。あの子達は実力があって信頼もできるが、どうもよく分からないところで常識を知らない時がある」
「そこは私も同意見――― なんだけどぉ、やっぱりエスタ、ミミちゃん達に甘々ねぇ? そんなに気に入ったのん?」
「あ?」
その一言にカチンと来たのか、エスタは反射的にブルジョンの方を向いてしまう。この巧みな駆け引きにより、ブルジョンはエスタと顔を合わせる事に成功。直後にエスタもその事に気付くが、その頃には満面の笑みを浮かべるブルジョンが目の前に居た。
「うふん(はぁと)」
「ッチ!」
とまあ、舌打ちも出るというものである。
「……この調子でA級・S級の依頼を達成していけば、ミミ達が進化するのは時間の問題だろう。人間だろうがエルフだろうが吸血鬼だろうが、生物である以上、レベル100を超えればひとつの区切りだ」
「そうなれば、いよいよS級への昇格も現実味が増すわねん。新たなS級冒険者が誕生するのぉ、一体何年振りだったかしらん? 三人に相応しい二つ名を考えないとだしぃ、冒険者名鑑に載せる内容を考えないとだしぃ、どうやって昇格式を彩るかも考えないとぉ! こいつは忙しくなるわん!」
やる気の表れなのか、ブルジョンは勢いよくソファから立ち上がり、力一杯にポージングを決め始める。
「ったく、気の早い奴だ。というか、二つ名と冒険者名鑑の管轄は、本部のギルド総長のところじゃなかったかい? 何でブルジョンがやる事になっているんだ?」
「そりゃまあ、私ったら総長ちゃんに信頼されているしぃ? うふふん」
「何だ、あいつの目も遂に腐り始めたのか?」
「な訳ないでしょん! プンプン!」
「止めろ、私の目まで腐り始める」
大急ぎでガスマスクを装着するエスタ。その姿を見て、ブルジョンは尚更にプンプンするのであった。
「じゃ、私からの一応の報告も済んだし、そろそろ行くとするよ。あの子らの装備を鍛えないといけないしねぇ」
「はいはい、お疲れ様ん。個人的な頼みを聞いてくれて、ありがとねん。ホントに助かったわん」
「別にアンタの為じゃないよ。私自身があの子に興味を持っただけだ」
「そ? なら、次は三人の昇格式で会える事を願っているわん」
「私としては願い下げだがな。 ……ああ、そうそう」
ドアノブに手を掛け、ギルド長室から出ようとしていたエスタが立ち止まる。
「どうしたのん?」
「実はね、ミミ達の他にも面白い子が居たんだよ。その子も今はA級冒険者でねぇ、ひょっとしたらだが、良いタイミングで昇格式が被る事になるかもしれない」
「あらあらあらららん…… その話、詳しく教えてぇ(はぁと)」
「やなこった。知りたければ自分で調べるんだね」
―――バタン。無常にも扉は閉められ、エスタはさっさと部屋を出て行ってしまった。
「……あの偏屈なエスタが興味を持っちゃう、四人目のA級冒険者、ねぇ。やだん、前代未聞の昇格式になりそぉ~~~」
◇ ◇ ◇
夜の王都に飛び出した美味達は、広く浅く出禁にならないレベルで蹂躙――― ではなく、屋台や飲食店、酒場を回っていた。訪れた店の数は、そろそろ大台に乗るといったところ。それでも三人の胃袋は、まだまだ前菜を食した段階である。
「ふぁんふぅふぅーんはぁはぁんふぃ?」
「……すまん、何だって?」
とある店にて、厚切りのステーキを頬張りながら、言葉らしきものを発する美味。しかし、それはとてもではないが、聞き取れるものではなかった。食べ物を口に入れながら、言葉を発してはいけない。その典型である。ただ、この難解な言語を翻訳できる者も、どうやら同席しているようで。
「S級冒険者になる為の条件ですよ、イータさん。美味ねえはその条件を知っているかと、イータさんに聞いています」
「よ、よく聞き取れるな、カンロ……」
「まあ、ずっと一緒に過ごして来ましたので、このくらいは。それはそうと美味ねえ、食べながら喋らないでください。マナーが悪いですよ?」
「モグモグふぁい!」
ゴクリ! と、ステーキを飲み込む美味。次いで、イータの方へと向き直る。何かを期待するような、キラキラと輝く視線を向ける。どうやら返答を待っている様子だ。
「あー…… ええっと、S級冒険者になる為の条件、だったか? すまない、不勉強故に知らないのだ。ご教授願えるか?」
「よっしゃ! それでは私が教えてあげますね!」
「美味ねえ、生き生きしていますね」
たまには教える側に立ってみたかったのだろう。美味の事なので、この行動にそこまでの深い理由はないと思われる。ちなみにであるが、S級冒険者となる為にはいくつかの条件が存在している。その条件とは以下の通りだ。
①A級以上の依頼を10回連続で成功。
②S級相当の依頼を達成した経験がある。
③冒険者ギルドを置く中規模国家以上の2国の国王から許可を得る。
④S級冒険者立会いの下、昇格試験に合格する。
「―――といった感じで、S級冒険者になる為の条件は、沢山存在しているのです! えへん! 沢山あり過ぎて、とっても大変!」
「ふむ、なるほどな。これまで依頼の連続達成、そして昇格の際に行う試験に合格すれば良かったところに、更に条件が付け加えられたという訳か……」
「ですね。その中でも私達にとって壁になりそうなのは、③の条件になります。依頼の連続達成や昇格試験はいつも通りですし、S級相当の依頼の達成も今回でクリアしました。ですが、中規模国家以上の国王との繋がり…… この点だけは、未だ何の繋がりも持っていない状況です」
「そう言えばだけど、まだグラノラ王国の王様にも会った事がなかったよね? ハッ、もしや王様、とっても人見知り!?」
「いや、単に私達と接点がないだけだと思うのだが……」
「まあ、王様が何かの用事で街に顔を出す事があったとしても、私達は依頼を受けて各地を飛び回って、王都を不在にしている事が殆どでしたし、そもそも会える機会がありませんでしたから。かと言って、許可してほしいと王城に直談判しに行く訳にもいきません」
「つまり、手詰まり!? どどど、どうしよう!?」
微妙に韻を踏みながら動揺する美味。いや、ある意味で余裕があるのだろうか。
「まあ、素直にブルジョンさんやエスタさんに相談した方が良いでしょう。後でそれとなく、私の方から聞いてみますね」
「よし、甘露ちゃんに任せた! 適所適材とも言うし、お姉ちゃんはこのご飯を食べるのに専念します!」
「おお、それなら私も自信があるぞ! 任せてもらおうか! 適所適材として!」
「待ってください。この場は私にとっても適所適材ですから。あ、店員さん、おかわり追加で」
S級昇格への道のりを特に重く考える事もなく、広く浅く出禁にならないレベルで(?)、三人は王都の食を楽しむのであった。




