第60話 偉業達成
「依頼達成ぇ…… おっめでとぉーーーん!」
唐突に受付カウンターから発せられた、やたらと野太い声が冒険者ギルド内に轟き渡る。声量もそうだが、何かと気を引く口調だ。その為なのか、ギルドの中に居た冒険者達は、皆こぞってカウンターの方へと視線を向けるのであった。
「ク、クロウシスターズプラスエルフだ……!」
「『鉄血』のエスタ・リコムイも一緒だぞ……!」
「見ろ……! 『紫蜂』の二つ名持ち、ブルジョンギルド長が対応するみたいだぞ……!」
尤も冒険者達からの注目は、最初から集まっていたようだが。
「ブルジョン、うるさい、黙れ」
「ああん、エスタったら酷いッ! 皆が無事に帰って来てくれた喜びを、こうして私が全身で表現しているって言うのにん!」
「その絵面がうるさいって言ってんだ。目にも耳にも騒音ものだよ」
受付カウンターでは、依頼を終えた美味達がその報告を行っていた。担当するのは受付嬢ではなく、なぜかギルド長のブルジョンである。
「んな事よりも、この子らが依頼達成した事を早く認めな。採取対象の煉獄唐辛子、更には別依頼で討伐対象に指定されているフラムマガッルスの素材、提出したもんの量も十分だよ。ほら、感情よりも仕事を優先しろ」
「エ、エスタ殿、抑えて抑えて」
「あはは、ブルジョンさんも喜んでくれているだけですから~」
「そうよそうよ、失礼しちゃう!」
「失礼なのはお前の存在自体だ」
「まっ、何ですってん!?」
エスタとの口喧嘩を繰り広げながら、依頼達成の確認を行うブルジョン。美味とイータが何とか仲裁をしようとしているが、その効果はあまり芳しくないようだ。今日も今日とて、S級冒険者達は反発し合っている。
「お二人の口喧嘩はさて置き、今回討伐したフラムマガッルス、討伐対象の賞金首だったんですね」
「そうなのよぉ。とっても強くて危険なモンスターなのぉ。まっ、ヒートウッズに作った巣からは離れないタイプだったし、急いで討伐する必要はそれほどなかったんだけどねん。ただ、あんまり放置し過ぎちゃうと、ヒートウッズの熱々領域が拡大しちゃう恐れがあったわん。そんな問題もあって、これまでは何年に一度かは、私かエスタが討伐しに出向いてたって、わ・けぇ。尤も、フラムマガッルスの別名は不死鳥。倒しても倒しても、また炎の中から新たに生まれて来るから、半ばいたちごっこなんだけどねん」
「ッ! という事は、鶏肉が食べ放題……!? エブリデイ鶏肉三昧満漢全席……!?」
「うふん。残念だけどぉ、しっかりと年周期で復活するから、食べ放題にはならないわねん」
「な、なんてこったい……」
「残念がるな残念がるな。そんな頻繁に復活されちゃあ、討伐する方が面倒になるだけだ」
現実の荒波に打ち拉がれる美味。しかしながら、一般的にはエスタの言う通り、そう頻繁に復活されては堪ったものではないのである。美味の夢を犠牲にして、世界の平和は保たれているのだ。
「でもでもぉ、今回の依頼達成って本当に凄い事なのよん? 実のところ、フラムマガッルスはS級討伐対象に登録されているのん。ミミちゃんとカンロちゃんはA級冒険者だからぁ、ランクが一つ上の依頼も受ける事ができた訳だけどぉ、実際にA級冒険者がS級モンスターを倒す事は稀も稀、マジで稀なのぉ。この調子で行けば、二人がS級冒険者になる日も近いかもん?」
「おおっ! それはつまり、更にレアな食材が手に入るって事でしょうか!?」
「我然やる気が出て来ますね。ふふん」
「う、ううーん? そうなるのかしらん……?」
砕け散った美味の夢は、別の夢として無事に蘇ったようだ。美味、元気に復活。
「な、なあ、私の方はどうなんだろうか? 依頼達成の暁に、私もA級冒険者になれると聞いていたが……」
「うふふん、イータちゃんについても問題ないと思うわん。貴女、依頼先でS級青魔法の詠唱に成功したんですって? んん~、すっ…… ばらしぃぃぃわぁぁん! S級魔法を使っちゃうなんて、普通のA級冒険者には不可能な事よぉ! 貴女の地力が、S級冒険者のそれに近い良い証拠ねん! しかもエスタ立ち合いの下での確認だから、信頼に足る足る、とっても足るわん!」
「つ、つまり……?」
「つまり、エスタからの昇格推薦を認めるって、こ・とぉ(はぁと)。イータちゃん、ブルジョン・グロスの名において、貴女をA級冒険者である事を認めるわん! おめでとん!」
ブルジョンから大きな拍手を送られる。それに続いて、美味と甘露も祝いの言葉を投げ掛け――― 感極まったイータは、ボロボロと泣き出してしまった。
「これでイータさんも、私達と同じA級冒険者ですね! よし、やったぜ!」
「うおおぉん! あ、ありがとぉー! 里の皆、私はやったよぉ~~~!」
「イータさん、お顔を凄い事に…… はい、このハンカチを使ってください」
「うう、カンロ、すまない。気遣いに感謝する…… チ―ン!」
「あの、できれば鼻をかむのは勘弁して頂けれ――― いえ、手遅れですね。何でもないです。存分に使ってやってください」
かくして、エスタからの依頼達成という偉業を認められ、イータは正式にA級冒険者として認定される事となる。A級冒険者の証である黄金色のギルド証も発行され、イータは泣きながらも嬉しそうに、それを受け取るのであった。
「さて、次に私からの報酬の話になるが…… アンタらの専用装備を新たに鍛えるとなれば、今から数日は掛かる。悪いけど、少し待ってもらう事になるよ。それでも構わないかい?」
「全然構いませんよ! 私達、空腹に追われても、時間には追われていませんので! ……ねえねえ、今お姉ちゃん、すっごい格言的な台詞を言わなかった? これ、歴史に残っちゃう?」
「微塵も残りませんから、心配しなくて良いですよ。と言う事でエスタさん、徹底的にやっちゃってください。私は可能な限りの最高品質を希望したいです」
「フッ、カンロはちゃっかりしているねぇ。妥協をするつもりなんて最初からないよ、安心しな」
「了解です。安心しました」
「うおおおぉん! 良い話だなぁー! 里の皆、私はよくしてもらってるよ~~~!」
「……イータさん、そろそろ泣き止まないと、いい加減干乾びますよ?」
甘露が渡したハンカチは、既に水分を吸えない状態になっていた。
ともあれ、依頼を終えた美味達はここでエスタと別れる事となる。高難度依頼に参加した疲れもあるだろうという事で、エスタが装備を仕上げ終わるまでの期間は、そのまま休暇に当てる事にしたようだ。未だ泣き止む様子のないイータに、王都のグルメを堪能しようと美味が提案したところ、イータは更に感動してしまい、更なる大洪水が発生。どうやらイータは一度泣き出したら、なかなか元に戻れない体質であるようだ。
「では、王都グルメ食べ放題の旅! 広く浅く出禁にならない慎重さを心に宿して! な、ツアーに行って来ますね! 出禁にならないよう頑張ります!」
「エスタさん、後で工房にお邪魔させてください。錬金術の参考にしたいので」
「ううっ…… グルメとは、何と甘美で心躍る言葉なんだろうか…… 里の皆、私はやるよ…… 頑張って、王都のグルメを食い尽くすよ……!」
「食べ尽くしたら駄目なんですって。イータさん、貴女には一度、黒鵜の五戒を徹底的に教える必要があるようですね」
「なるほど、黒鵜とイータの五戒になる訳だね! ん? 足したから六戒?」
「そういう訳じゃ―――」
ギルドから嵐が去って行った。同時に、ギルド内の冒険者達から安堵の溜息が漏れる。
「まったく、最後まで忙しない子達だったねぇ」
「そんな事言ってぇ、エスタったら、随分とミミちゃん達に入れ込んでるみたいだけどぉ?」
「ふん、どうだかね」
『黒鵜姉妹の異世界キャンプ飯』の書籍化が決定しました。
また、『黒の召喚士16 迷宮国の冒険者』の書影を公開しました。
詳しくは活動報告をご覧ください。




