第25話 旅立ち
「そうなのか? A級の冒険者と言われても、正直よく分からないのだが……」
強さを冒険者にたとえられたイータであったが、いまいちその意味を理解していない様子。首を傾げに傾げ、現在斜め45度。
「分かりやすく言えば、どんな大国に仕えても大変に厚遇される実力って事ですよ。あれだけの飲み食いを毎日しても、全く食いっぱぐれません。間違いなく将来安泰です」
「そ、そんなになのか! ううむ、里の中でしか比較する相手がいなかったから、実感があまりないな。だが確かに、里の中での腕っぷしは私が一番であったし、水の中で寝るのも私だけだった…… 道理で他の皆と違った筈だ、うむ!」
「いえ、水の中で寝るのは全く関係ないですからね?」
と、甘露に当然の突っ込みを入れられるイータ。自らが部分的に異端であると、イータも一応の認識をし、多少なりは気にしていたようだ。森の奥深くで生きるエルフも、流石に寝床はベッドが普通なのである。
「甘露ちゃん甘露ちゃん」
そんなやり取りの最中、美味がちょいちょいと甘露の肩を叩いて来た。何やら内緒話のお誘いらしい。
「美味ねえ? どうしたんです?」
「えっとね、ステータスを見せてくれた事だし、私達もイータさんにステータスを見せた方が良いんじゃないかと思って。ほら、イータさんとはもうマブダチってやつだし? 同じ釜の飯を食べた戦友だし? そうしないと、イーブンじゃないと思うんだよね。目指せ、イーブントースター!」
「何ですか、そのオーブントースターの親戚みたいな造語は…… ですがまあ、イータさんが相手なら、私も反対はしませんよ。イータさん、表裏がある方には見えませんし」
「ッ! それじゃあ!」
「ええ、信頼の置ける仲間なら、情報共有は大切ですから。 ……という事で、イータさん」
内緒話を終え、甘露がちょいちょいとイータの肩を叩く。姉妹の内緒話を察したイータは、空気を読んで両手で耳を塞いでいる状態であった。
「むっ、もう話は終わったのか? いよいよ出発か?」
「いえ、その前にですね、私達もお見せしたいものがあるんです」
その後、三人はステータス情報を共有する事となる。ちなみに二人のステータスを見せた瞬間、イータは目が点になったそうな。また、今回のキャンプで食した新食材はプラチナサーモンだけであった為、レベルはひとつしか上がっていなかったそうな。
◇ ◇ ◇
パゲティの村に戻った三人は、大急ぎで出発準備に取り掛かった。そう、到着してからの即出発準備である。
「「「はぐはぐはぐっ!」」」
「な、なあ、あそこのテーブルにいるの、ミミさん達だよな?」
「う、うん、相変わらず凄い食事量だよね。テーブルにお皿の山ができてるよ……」
「あの、僕の見間違いでしょうか? 大食いしている方が一人増えているような、そんな気がするのですが……」
まずは酒場で朝食をとり。
「この棚の食材、あるだけ全部ください!」
「ぜ、全部ですか!?」
「美味ねえ、買い占めは駄目ですよ。すみません、訂正します。お店にある商品、全種類を半分ずつください」
「えええええっ!?」
道中で使う食材を買い溜め。
「シーユーアゲイン!」
「良いハイキング場所を教えてくださり、ありがとうございました。まあ、結果としてキャンピングになった訳ですが」
「達者でな!」
知人達との挨拶を済ますのであった。スピーディが過ぎる展開に、見送る側のエッジ達は翻弄されっ放しである。しかし、一番の混乱の元となったのは、やはり―――
(((あの人、誰?)))
―――朝から美味達と行動を共にしていた、イータの存在であった。当然であるが、エッジ達とは初対面も初対面である。
「シーユーレイター!」
「達者でなーーーッ!」
だというのにイータは美味と同じく、見送りに来ていたエッジ達に対し、そんな別れの叫びを上げながら、元気に手を振っていた。一応知った体で手を振り、お元気でと言い返してやるも、やはり彼女が誰なのか、エッジ達に思い当たる節はない。何度も言うが当然だ、エッジ達とイータは完全に初対面なのだから。
「……美人だけど、誰だったんだろうな?」
「美人でしたけど、信じられないほどに大食いでしたね。まさか、ミミさんやカンロさんに匹敵する女傑が存在していたとは……」
「美人だけど、謎の美女だったね。A級冒険者ともなると、ハイキング先で仲間を見つけるのが普通なのかな?」
とまあ、そんな調子で美味達の姿が見えなくなるまで見送るエッジ達であったが、結局、彼らは最後の最後までイータの謎を解く事はできなかったようだ。
◇ ◇ ◇
パゲティの村を出発した美味達は、まだ走らずに徒歩で進んでいた。手には昨日調理したドラゴンジャーキーが握られており、三人揃って口をモグモグさせながらの食べ歩き行進となっている。
「モグモグ…… ふい~、食べた食べた~。注文の途中で酒場の食材がなくなっちゃって、まだ腹五分目程度だけど!」
一足先にドラゴンジャーキーを食べ終えた美味が、お腹をさすり微妙に食べ足りなさそうにしながら、そんな事を口にする。
「イータさんがパーティに加わった事で、一度に必要な食事量が単純に増えましたからね。いつものノリで注文してしまうと、規模の小さなお店では対応し切れないようです。今後はその点に注意しながら注文しませんと。モグモグ」
「うむ、勉強になるな。モグモグ」
「……ねえねえ、甘露ちゃん、イータさん」
「駄目です。これは私の分です」
「ああ、これは私の分だな」
「わーん、お姉ちゃんに意地悪しないでー!」
美味の懇願をスル―する二人。朝食が食べ足りなかったのは、どうやら美味だけではなかったようだ。
「取り敢えず、不足分はこのドラゴンジャーキーで補いましょう。美味ねえが腹五分目なので、昼食はそれだけ早くとる形で」
「「異議なし!」」
甘露とイータもジャーキーを食べ終え、いよいよ本当の出発モードとなる三人。美味が甘露を背負い、イータも準備体操をするように、軽くその場で跳躍をし始める。
「早めの昼食は、お姉ちゃんのお腹がアウトブレイクしたらで良いかな?」
「英単語の意味は滅茶苦茶ですが、言いたい事は何となく察しました。それで問題ないですよ。私を背負う事でスピードがトントンになっていると思いますので、力を抑える事なく、普通に走って大丈夫です。あ、でも道中ですれ違う方々に迷惑はかけないように」
「了解だよ~。お姉ちゃん、昼食目指して頑張る! イータさんも、一緒に頑張りましょう!」
「ああ、私も力の限りミミの後を追う事としよう。スタミナについては心配しないでくれ。私の走る先にご飯があると思えば、苦しみもまた快感になるというものだ!」
「それはそれで、変な世界に目覚めないか心配ではありますが…… まあ、良いです。そろそろ予定の時間になりますし、スタートする事としましょう」
ザッ! と、スタンディングスタートの体勢となる美味とイータ。目的地はこの国、グラノラ王国の王都――― 夢と希望が詰まった、食のパラダイスである。
「いざっ!」
「王都へっ!」
二人のグルメ魔人が風となり、目にも留まらぬ速さで道を走り抜けていく。この調子であれば、明日にでも王都へ辿り着けそうだ。
……が、しかし。
「か、甘露ちゃ~ん…… お姉ちゃん、お腹が、アウトブレイク……」
「わ、私も、消耗が激しくて、胃が空っぽで……」
「ちょっと、いくら何でも早過ぎますよ……」
その一時間後、美味とイータがまさかのエネルギー切れならぬ、腹ペコを起こしてしまう。結果、ちょっと早めの昼食は、凄く早い昼食へとクラスチェンジするのであった。




