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戦巫女 1  作者: 楓紅葉
1/1

序章

 今日も雨が降っていた。傘をさしていたが足元はびしょ濡れだった。

(はやく梅雨が明けないかな)

茉夏は名前の通り8月1日の真夏の生まれだ。身長は170cmと高く細身の高校2年生。太陽がギラつく夏休みが待ち遠しい。

「早く夏休みにならないかなぁ」

「でも、結局部活で毎日学校だよ?」

翔子と並んで学校から帰る。

翔子も同じ弓道部に属している同級生で身長はやや低めで幼い印象が強い。

傘をさして歩く姿は姉妹にも見えた。

「部室に弓置いてきて正解だったね」

「濡らしたくないもんね」

田んぼ道から県道へ出たとこだった。

突然の雷が目の前に雷を落とした。

「「びっくりしたぁ 」」

少し離れた背の高い木が焦げて裂けた。

気を付けて横を通り過ぎる。

「火事にならなくて良かったね?」

「崩れるといけないから早く行こ」

早歩きで歩き出すと後ろから轟音が響いた、突然の事で2人には何も認識出来ない。


茉夏が目を開ける。辺り1面の草原で空には太陽が容赦なく2人を照りつけた。

(あれ?雨降ってなかった?)

隣には翔子が横たわっているのが確認出来た。

「ちょっと翔子起きて」

激しく身体を揺さぶり翔子を起こした。

「茉夏?どうしたの?」

朝の寝起きのように瞼を擦りながら翔子が起き上がる。

「翔子ここってどこ?」

翔子も辺りを見回した。

「知らないとこだよね?」

2人でスマホを確認したが圏外となっている。

「どうしよ?」

「ここに居てもしょうがなくない?」

茉夏はとりあえず歩こうと言って歩き出した。

「ねぇ、食べ物とか持ってる?」

「飴と栄養食のスナック菓子しか持ってない」

「翔子は? 」

「ペットボトルのスポーツドリンクだけ」

しばらく歩くと砂利道に出た。

「道があるって事は人がいるって事だよね?」

「多分 …」

「どっちに行く? 」

翔子が左右を見て何かを察知しようとしていた。

「ねぇ、私目がおかしいみたい」

「どうしたの? 」

「太陽が2つ見えるの」

茉夏が空を見上げる、太陽は照りつけているのに表情は曇りだした。

「 2つあるよ?」

2人は向き合って不安に駆られる。

持ち物は教科書の入ったバッグと袴の入ったトートバッグと傘。

 理由は無いが茉夏が風上に歩き出した。翔子も後に続く。

15分程歩いた時に後ろから何かが近づいてくる音がした。2人が振り返ると馬に似たような生き物が馬車を引いていた。

「馬車?初めて見た」

「私も… 」

2人の横で馬車が止まる御者台には兎がタキシードを着て手網を持っていた。

何か言葉を発しているようだが何を言ってるか分からない。暫くすると客車の扉が開き和装の老人が降りてきた。

茉夏は恐る恐る老人の前に出て挨拶をした。

「こんにちは」

老人は目を細めて柔和な笑顔で答えた。

「こんにちは、何故ここに来たのか分かりますか?」

翔子と顔を合わせて質問の意図を確かめる。

「いえ、突然の出来事で混乱しています」

「まぁ馬車に乗りなさい、続きは移動しながら話すとしよう」

兎が2人から荷物を奪い取ると客車室にエスコートした。全員が乗り込むと静かに扉が閉められた。

再び馬車が走り出す。

「あの兎は儂の世話がかかりでな名をノヴァと申す」

「ノヴァさんなんですね、私は茉夏と言います」

「私は翔子と申します」

2人は揃って頭を下げた。

「儂は伊邪那岐じゃ」

2人は日本神話を思い出しそんな記述を思い出していた。

「あの…神様何ですか?」

「そう呼ばれた事もあるのぉ」

高笑いする伊邪那岐に2人は驚愕している。

「本題なんじゃがお主らは土砂に飲まれる所を儂がここに飛ばした」

「あ、ありがとうございます」

「本来ならあのまま死んでいた」

とんでもない事を告げてきた。翔子は隣で目を回している。

「元の所には戻れないのですか?」

「残念ながら自然の摂理を覆す事は出来ない、ここに来た時点であちらの世界からは存在その物が無かった事になっておる」

もう帰れないのかと思ったら2人は涙か出てきた。翔子と抱き合って涙した。


 やがて馬車が止まり扉が開けられた。

「到着したかの、まぁ降りなさい」

ノヴァにエスコートされ馬車を降りる。平屋の大きな屋敷に伊邪那岐が入って行くのを後ろから着いて行った。

靴を脱いで屋敷に上がる。長い廊下を経て西洋風の扉がある所に連れていかれた。

「まぁ入りなさい」

2人は促されるまま部屋に入った。中は校長室の様な木製で重厚な作りの机があり、打ち合わせ用のソファーとローテーブルがあった。

2人はキョロキョロと周囲を伺い伊邪那岐の対面に腰掛けた。

「伊邪那岐様、これから私達はどうしたら良いのですか?」

「驚くのも無理は無いの、ここに来る前の雷は覚えておるかの?」

「はい、雲もないのに突然落ちましたから不自然で覚えています」

翔子が答えた。

「そなたらの裏の世界から魔道士が攻撃を仕掛ける準備をしていての、それが暴発したんじゃ」

(は?魔道士?裏の世界?なんの事?)

茉夏の頭には疑問で埋め尽くされる。

「話しが見えないのですが」

伊邪那岐は2人を見ながら懐からキセルを取り出し火を付けた。

口から吐き出した煙に黒い装束を着た集団と人相の悪い40代位の男の人が映し出された。

「こやつはな魔王と称して表の世界である主らの世界を取り込もうと策略をしておる」

「私達に何かさせるのですか?」

「理解しておるみたいで話しが早い」

伊邪那岐は裏の世界に乗り込み魔王を討伐する事、裏の世界にも平和に暮らす人々が居て魔王から逃れるように生活をしていると語った。

「私が何か出来るとも思いませんが?」

「そのままでは無理よのう」

「儂が直々に手を差し伸べられたならいいんだがそれが出来ぬ故お主らに力を貸して欲しい」

2人は普通の女子高生なのに何かしろと正気の沙汰のは思えないお願いをされた。

「私は魔法は使えませんし、武器を使う事も出来ません、ましてや人を殺す等出来る気がしません」

「あ奴らは人では無い魔物じゃ、外見は人型ではあるが殺戮と破壊を好む凶暴な連中でな人々から恐れられておる」

「すみません、少し2人で話し合いをしたいのですが良いですか?」

「構わん、隣の部屋を使いなさい」

2人は隣の書庫のような部屋に案内された。

「翔子、どうする?」

「どうするって言っても元の世界には戻れないんでしょ?」

「何もしなくて死ぬって事かな?」

「他に選択肢なんて無いと言う事か…」

茉夏は覚悟を決めた顔をする。

「やるしか無いよね?」

「私もやるよ」

部屋を出てソファーに座った。

「覚悟は出来たかの?」

「「はい」」

「このまま送り込んでも戦力にはならんので力を与えよう」

伊邪那岐から弓道着に着替えるように言われたので先程の書庫で着替えを済ませた。

「よぉ似合っとる、では左手を前に出しなさい」

言われるがまま左手を前に出すと手に馴染んだ弓が現れた。

腰には矢籠が勝手に現れて装備された。

「これは?」

「主らの弓を取り寄せた」

伊邪那岐がキセルを振ると弓に装飾が施される、見た目も随分派手になった。

「腰の矢は無くなっても勝手にリロードされるでの無限じゃ」

当然、部活で使う矢とは違い矢尻が取り付けてある。

「普段は邪魔になるから念じると現れるようにしておいた、手を下ろしてみなさい」

すると弓が消え矢籠も消えた。2人は何回か出し入れして不思議な弓を確認した。

「弦の強さはお主らの思念で決まる、より遠くに強く飛ばすにはお主らの心の強さじゃ」

「弓の持ち手に何かウインドウのようなものが見えるのですが?」

「それはスキルじゃ、今は使えんが鍛錬次第で色々なスキルが使える」

なんかゲームの世界みたい。ふと近接戦闘という項目が視界の隅にあるのに気付いた。

茉夏が弓を装備した状態で右手を水平に振ると短刀腰に装備された。翔子もそれを見て同じように手を振ると両腰にクナイが現れた。

「そちらも弓と同じじゃ」

「なんか凄いですね」

「破魔の加護が授けてある、近くに魔物がいると教えてくれるじゃろ」

伊邪那岐がまたキセルを振った、すると茉夏の袴が朱に変わる、翔子は黄色になった。胸当てには何か文字のような柄が浮かび上がる。

「魔力を付与した、使い方はお主らのスマホにヘルプがあるから確認すると良い」

「あのスマホの充電はどうしたら良いのですか?」

「充電は必要無い、お主らの生命力が続く限り使用可能じゃ、何時でも儂と連絡を取れるようにしといたぞ」

「はは…ありがとうございます」

スマホを確認すると魔法のアイコンがある、連絡先は翔子と伊邪那岐だけになっていた。

「覚えた魔法はスマホで使うみたいだね」

「選ぶだけで使えるみたいだから簡単そう」

「ステータスも確認出来るみたい、Lv1だって」

「ゲームだね」

茉夏と翔子はそれぞれ確認した。

「話しばかりでは分かりにくいじゃろ?訓練してみるかの」

着いてきなさいと伊邪那岐が2人を道場まで案内した。

「ほぉれ」

伊邪那岐がキセルを振るとスライムや芋虫のような魔物が現れた。

「戦ってみなさい」

茉夏は動きの遅いスライムを弓で狙う。

芋虫は翔子に任せた。

スライムに照準を合わせると的が現れる中心に合わせると赤から緑に変わった。

「今!撃ち抜け」

矢を放つとスライムに命中し消し飛んだ。

翔子はクナイを構え芋虫目掛けて飛び込み連撃を与える、芋虫は糸を吐きながら防戦するも翔子の一撃が急所に入り消滅した。

「まだまだくるぞよ」

30分近く戦闘訓練をして最後に少し大型の魔物が現れる、犬いや狼のような見た目で動作も早い。

「2人で力を併せて討伐するのじゃ」

茉夏が弓のスキルにファイヤーアローが追加されていたことに気付いた。

「ファイヤーアロー!」

火矢が狼目掛けて炸裂したが更に凶暴になって襲いかかる、翔子がクナイ乱れ打ちのスキルで対抗し脚を止めた。

脚が止まった所を2人で同時に矢で撃ち抜いた。

狼は力尽きて消え去る、そこには牙が落ちている。

茉夏が触れると狼の牙を獲得しましたと表示された。

2つあったので翔子も拾う。

「これは何に使うんですか?」

「主に武器の強化素材じゃ」

試しに使うと矢の威力が上がった。ステータスを確認するとLvが3になっている、さっきはなかった種族という項目にヴァルキリーと表示があった。

「私達はヴァルキリー何ですか?」

「それは儂からのサービスじゃて、ヒールも追加しておいた、アイテムボックスもスマホにあるからの」

2人が確認するとアイテムボックスには鍋やフライパン、塩等の調理に使えそうな物が一通りあった。

「後は転送した先で確認するんじゃな」

2人をノヴァが迎えにくる。

ノヴァに連れられ魔法陣のような部屋に入った。2人を中心に案内する。

「茉夏さん翔子さん健闘を祈ります」

初めてノヴァの発した言葉が理解出来たが直ぐに転送された。


 薄暗い祠のような場所に出た。目の前には上から水が落ちてきている。

「ここは滝の裏側?」

茉夏が祠から出るとそこには小さな女の子が水を汲んでいた。

1度祠に引っ込み翔子と一緒に外に出る。

女の子はとても驚いた様子でこちらを見ていた。

「あああ、巫女様」

地に頭を付けてひれ伏していた。

「頭を上げて、ここはどこ?」

「ここはリート村の近くです」

翔子が優しく手を取り女の子に微笑んだ。

「私達はヴァルキリーです、この世界の魔王を討伐する為に派遣されました」

翔子が正直に事情を説明した。

茉夏は水の入った桶を持ち女の子に声をかける。

「私は茉夏、村まで案内してくれるかな?」

「は、はい」

「私は翔子、あなたのお名前は?」

「わたしわリーナです」

「リーナちゃん案内をお願い出来る?」

「巫女様は伝説の巫女様なんですか?」

「さぁそうなれるように努力するね」

茉夏は安心されるように優しく答えた。


 3人で山道を歩いていると蜂のような魔物が襲ってきた。

「翔子、リーナちゃんをお願い」

茉夏は短刀を抜いて蜂に切り掛るが蜂が思ったより早くて当たらない。

茉夏が切り掛かって避けた所を翔子が矢で撃ち抜いた。

「やっぱり伝説の巫女様なんですね」

「魔物がいるのに1人で水汲みしてるの?」

「うん、魔物に両親が殺されて弟と2人で暮らしているから」

2人は居た堪れない気持ちになる。

「きっと私達が魔王を討伐するから」

リーナに連れられて村の入口に到着した。

村の入口には門番が居て余所者の2人を睨みつける。

「このお姉ちゃん達がキラービーに襲われたところを助けてくれたんです」

「リーナ本当か?」

「はい、聖なる祠から出てきて助けてくれました」

門番は武器を収め礼を言った。

「この度は村の者を助けて頂き感謝します、お2人は伝説の巫女様何ですか?」

「伝説かどうかは知りませんが伊邪那岐様より遣わされたヴァルキリーです、魔王を討伐するよう命じられました」

翔子が丁寧に説明する。

「リーナ、村長の所に案内しなさい」

門番に会釈をして村に入り、村長の家に案内してもらった。

「お姉ちゃん桶を持ってきてくれてありがとう」

「どういたしまして」

茉夏は桶をリーナに返した。

扉をノックし村長の家に入った。

「これはこれは伝説の巫女様ようこそおいでくださいました」

社交辞令的な挨拶を交わす。

「この村に井戸はないのですか?」

茉夏が単刀直入に村長に質問した。

「ありますが何者かの仕業で急に水が出てこなくなりまして困っているのです、つきましては巫女様に井戸を回復して頂きたいのですが」

ゲームのように勝手にシナリオが進んでいく。

「分かりました、Lv上げもしたいので調査を兼ねて暫く村に滞在したいのですが可能でしょうか?」

「では先程のリーナの家に泊まってくだされ」

村長に案内されてリーナの家に向かった。お世辞にも綺麗な家ではなくかろうじて雨露がしのげるだけの家だった。

「あの村長何かあるね」

「用心しましょう」

腰の武器が怪しげに反応していた。

「お姉ちゃん達いらっしゃい、ボロ屋ですがどうぞ」

「お邪魔します」

所々屋根が剥がれ空が見えている、奥には2歳位の男の子がこちらを訝しげに見ていた。

「こんにちは」

翔子が屈んで声を掛けたが返事は無かった。

「弟のレンです」

「レン君こんにちは」

今度は茉夏が声を掛ける。レンは立ち上がるとリーナに抱きついた。

「そりゃ知らない人がきたら怖いよね」

「すみません、まだ言葉が理解出来ないので」

「こんな小さいのに大変だね、ご飯はどうしてるの?」

「水汲みの手伝いをしてパンを貰ってます」

「リーナちゃんお姉ちゃんしてるね」

茉夏はスマホを取り出して伊邪那岐に電話をした。

「茉夏ちゃんどうした?」

茉夏は事情を説明して何とかならないのかとお願いをした。

「事情は分かった、今回は特別に何とかしようかの」

それだけ言ったら通話が切れた。

一瞬視界がボヤけたと思ったら家屋が修復されている、窓から外を見ると野菜が実を付けていた。

「リーナちゃん外に行こう」

皆で外に出て畑から野菜を収穫した。

「茉夏は薪を拾ってきてくれる?」

「了解!」

翔子はアクアの魔法を使い桶を満たした。

「お姉ちゃん凄い」

最近覚えたのと微笑んでいる。アイテムボックスから調理器具を取り出して野菜を刻んでいった。

「レン君は柔らかくないとたべれないよね?」

「うん」

芋のような物は丁寧に皮を剥いた。そのタイミングで茉夏が戻ってきた。

「ただいま」

茉夏はアイテムボックスから薪を取り出して竈にくべた。

「ファイア」

竈に火がつく。鍋を取り出して芋を煮た。

翔子がアイテムボックスを見ていると伊邪那岐から金貨が50枚と銀貨が300枚プレゼントされていることに気付いた。

「リーナちゃんお買い物したいんだけど市場に案内してくれる?」

「リーナお金持って無いよ?」

「私が持ってるから平気だよ」

茉夏は芋は任せろと2人を送り出す。


 市場に着くとミルクと小麦を購入した。

「これだけ買っても銀貨10枚なんだ」

「お姉ちゃんお金持ちなんだね」

これから暫く厄介になるので毛布やリーナとレンに服も買った。流石に毛布4枚と服で金貨1枚を取られたが相場が分からないので仕方なかった。

「ただいま」

「遅かったね」

「毛布買ってきたよ」

「良いね」

2枚はリーナに渡す。

「貰って良いの?」

「これはお姉ちゃん達からのお礼だから」

「ありがとう」

レンは新しい毛布がフカフカでゴロゴロと堪能していた。

「マッシュポテト出来たよ」

「ミルクと燻製肉買ってきたから野菜と煮込んでシチューにするね」

バターはなかったのでちょっとコクは無いがシチューが出来た。

「食べましょうか」

リーナとレンは夢中になって食べた。

「美味しい?」

「うん」

2人は幼い笑顔に癒されている。

「私達がいる間はご飯作るからね」

「お姉ちゃんありがとう」

食事が終わると2人はLv上げに出掛けた。

日が落ちるまで魔物を探して倒した。

「だいぶ慣れたね」

「そうだねLv10に到達したね」

「そろそろ帰ろう」

Lvも上がりアイテムも数点回収出来たので家に戻った。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「リーナちゃんいい子にしてた?」

「うん、お昼の残り食べてレンを寝かせた」

「リーナちゃんも早く寝なさいね」

「おやすみなさい」

リーナもレンの隣で毛布にくるまる。

「可愛いね」

「そうだね」

回収したアイテムを半分くらい強化素材に回して余りは売却する事にして床についた。


 外が騒がしくて目を覚ます。外に出てみると村人が数人家が綺麗になっていることをリーナに問い詰めている。

「リーナちゃんどうしたの?」

「あんたらが巫女様か?」

「私達はヴァルキリーです」

これはどういう事なんだ?と問い詰めてきたらしくリーナは困っていた。

「これは私達が暫く厄介になりますので宿代として修復いたしました」

村人は自分の所にも泊まれと勝手なことを言い出している。

「私達は神の遣いですので強欲のものには手を差し伸べません」

茉夏は言い切った。

「井戸が回復は責任を持って果たします、お引き取りください」

村人は渋々と引き上げていく。

「なんかめんどくさいね」

「お姉ちゃんありがとう」

リーナの頭を撫でて大丈夫だよと笑顔で答えた。


 山の中腹で異様な光を放つ洞窟を発見した。

「ここ怪しいね」

「強そうなの居そうだから注意して行きましょう」

洞窟は狭いので近接戦闘装備で乗り込む。弱い魔物が沢山いたが蹴散らして奥まで進む。少し広い空間が広がった。

「これ来るね」

翔子がアタック強化の魔法を発動した。

天井から大型のスライムが降ってきた。素早く躱すと矢を打ち込む。

「ファイアアロー!」

「アイスショット」

スライムはふたつに分裂した。

「な、インチキ」

茉夏が怒りだした。

「これってコアとか破壊しないと倒せない奴かも」

翔子は冷静に観察をしている。

「私が突っ込むから翔子は援護して!」

短刀を片手にファイアの魔法を発動させながら茉夏が切り込んだ。襲ってきたスライムは翔子が射抜く。

「茉夏、あの赤く光るやつ」

「わかった!」

赤い球体を切り裂いた。その瞬間にスライムが閃光を放ち消え去る。

消えた所には水晶のような物が落ちていた。

「これどうするのかな?」

「ゲームだと井戸に投げ込めば良いんじゃない?」

「戻ったら試してみよう」

ステータスを確認するとLvも15まで上がりこの付近では雑魚ばかりとなっていた。

帰りながら今後を相談する。

「これで井戸が回復したら村を出るんだよね?」

「そうだね、何時までもあの村に居たら何か嫌な事が起こりそう」

「提案なんだけどさ、馬車買ってリーナとレンも連れて行くのはどう?」

「魔物に襲われて危険な事になりそうだけど、このままあの村に居ても危険そうだよね?」

「とりあえず井戸に投げ込む前に馬車や旅の支度を済ませてしまいましょう」


 村に戻り市場に直行した。

「馬車と馬が欲しいのですけど」

「それならあっちの商館に行きなさい」

教えてもらった商館に行き商談をする。

「幌のついた荷馬車と馬で金貨20枚です」

分かりましたと言い茉夏が支払いを済ませた。

「翔子買えたよ」

裏に周り馬車を受け取った。

馬車に翔子が食料を詰め込んだ。

「とりあえず準備完了だね」

「後はリーナの説得だね」

リーナは意外にもあっさりと同行する事に承諾した。

「お姉ちゃん達と一緒に旅が出来るの嬉しい」

「ずっと一緒にいようね」

「うん」

レンを荷台に乗せ井戸に行く。

リーナが村長を連れてきてくれた。井戸に水晶を投げ込んだ。

井戸の底で光が放たれる、枯れていた井戸に水が戻った。

「巫女様ありがとうございます」

「礼はいりません、このまま村を出ます」

「しかしそれでは」

「では、お礼としてリーナを同行させます」

「分かりました」

村長の背後に何か取り憑いている影が見えた。

すかさず茉夏が影を切り裂いた。

「よく見破ったな、ヴァルキリーの復活を魔王様にお伝えする」

そう言い残して影は消え去った。

「監視されてたみたいね」

「早く出ましょう」

御者台に茉夏が乗り込み手網をひく。

村人が騒ぎ出す前に村を後にした。


 川沿いの道を下流に向かって馬車を進ませる。大きな木が生えた所で馬車を止めた。

「茉夏どうしたの?」

「そろそろお昼にしない?」

この辺りは見渡しも良く魔物が出ても直ぐに対応出来そうな立地をしている。

荷台ではレンが寝ていた。

「リーナちゃん手伝ってくれる?」

「うん」

茉夏とリーナで石を積んで即席の竈を作る、その間に翔子が料理の準備をした。

「リーナちゃんレンを起こしてきて」

「わかった」

翔子がフライパンでパンケーキを焼いている、食材が足りなくてあまり膨らまなかった。フルーツをトッピングして見栄えだけでも整えた。

レンは寝惚けながらも口に頬張っている。

「お姉ちゃん美味しい」

「それは何よりです」

出会った頃は凄く警戒していたレンも今や安心しきっている様子で家族みたいに行動している。

「お姉ちゃんずっと一緒に居ても良いの?」

「危ない戦いの時以外は一緒に居ようね」

「リーナも戦いたい」

「じゃあ一緒に特訓しようね」

「うん!」

出来れば安全な所に居て欲しいのだがこの先を考えると少しでも強くなっていたほうが良いと思いリーナにも武器を持たせる事にした。

「次の町に行ったらリーナちゃんが持てるナイフ買ってあげるね」

「よろしくお願いします」

リーナもパーティーに登録し戦闘補助の恩恵が与えられるようにした。

レンが食事を終えて走り回って遊んでいると突如空から大きな鳥が飛んできてレンを拐う。

「しまった」

茉夏は弓を構えて狙ったが届かない。翔子は冷静に飛び去った方を追っていた。

「あの山に行った」

「早く追いかけよう」

馬車を走らせ目標の山を目掛けて突き進む。

「ここからは歩きだね」

「仕方ない」

馬を木に縛り魔法で見えなくした。

「大丈夫かな?」

「早くレンを助けないと」

リーナを連れて山を登る、中腹の大きな岩の影に鳥の巣があった。

「レンいる?」

「見えないね」

「リーナちゃんはここに隠れてて」

「レンを助けて」

「任せとけ!」

真夏は気配を消し弓の射程まで近づく。

「翔子は囮になって鳥の前で走り回って」

「わかった、レンの救出は任せたよ」

翔子が鳥の前に出て弓を放つと鳥は上空に飛び立つ。翔子目掛けて急降下して攻撃している。

茉夏は岩陰に隠れながら巣まで行きレンを救出した。

「ファイアアロー!」

鳥に命中し怯んだ隙に翔子がクナイを投げ足を止めた。

「ポイズンアロー」

翔子が毒の矢を放つと鳥は倒れ込んだ。

真夏が鳥の首目掛けて短刀を一閃すると鳥の息の根を止める。

「翔子大丈夫?」

「かすり傷」

ヒールを使い翔子の傷を癒した。

鳥の羽根をドロップした。

「強化素材みたいだね?」

使用すると背中から天使のような翼が生える。

「なんだ?」

「飛べるのかな?」

「飛べそうだけど魔力を消費するみたい」

「あまり頻繁には使えないね」

「この翼出し入れ出来るね」

「飛ばない時はしまっておいた方が良いね」

翼を隠してリーナの所に戻った。

「リーナちゃんもう大丈夫だよ」

リーナはレンを抱きしめて泣いていた、

試しにと茉夏はリーナを翔子はレンを抱き上げ翼を出した。

「お姉ちゃん天使様みたい」

「しっかり捕まっててね」

馬車の隠してある所まで飛んだ。

「結構魔力消費するね」

「魔力補助のアイテムが欲しいとこだね」

”プルルッ”スマホに着信がある。

「茉夏ちゃん元気してるかの?」

伊邪那岐からのコールだった。

「はい、この世界とシステムにもだいぶ慣れました」

「そうかそうか」

「伊邪那岐様、魔力補助のアイテムって存在するんですか?」

「あるよ、今Lvはどのくらいじゃ?」

「20になったところです」

「おめでとう、儂からのプレゼントじゃ」

2人の指に宝石の輝く指輪が装備された。

「魔力の消費を抑える効果が付与してある」

「おーありがとうございます」

「これからもその勢いで精進しなさい」

「頑張ります」

指輪を確認すると伊邪那岐の指輪と表記され魔力の消費を半減となっていた。

「これは嬉しいアイテムだね」

「空中戦とかも視野に入れないとね」


 再び馬車を走らせ街を目指した。遠くにキラキラと輝く水面が見える、潮風も漂ってきた。

「海がちかいよ!」

御者台の茉夏が荷台で休んでいる翔子に声を掛けた。

翔子とリーナが顔を覗かせる。

「あっ見えた」

「あれが海?」

「リーナちゃんは初めて?」

「村から出たこと無かったから」

「街も近いね」

ここに来るまでに何度も魔物に襲われ危ない目にもあってきたがやっとここまで来たと考え深い物がある。

「いきなり街に行くの?」

「ダメなの?」

1度近くに潜伏して街の情報を集めてから安全を確認したいと翔子が提案した。翔子に提案に乗り茉夏が空から偵察する。

(なんか兵隊の姿が多いなぁ)

物陰に着地してロープを羽織近くの老婆に尋ねてみた。

「何か物々しい雰囲気だけど何かありましたか?」

「昨日からドラゴンがたまに飛んできて、何もしないんだが不気味でな」

「そうなんですか」

「今は街の勇姿を集めて警戒しておる」

「なるほど」

「あんたは旅の人かい?」

「はい」

「街が封鎖されて出られないから大変だね」

(入れないって事よね?)

「足止めされて困ってます」

話しを合わせておいた。

「では、宿に戻りますので」

そう言って離れてから誰もいないことを確認して飛び立つ。

(誰にも見られてないよね)

馬車に戻り街にには入れない事を話した。

「どうしようね?」

「とりあえず海岸目指さない?」

「リーナ海が見たい」

「じゃあ行こう」

途中で道が別れていて海に向かう道に進路をとった。


 その道は街から離れ小高い丘に向かって延びている。

「これ海に着くんだよね?」

「丘の向こうには何も見えないから海じゃないの?」

丘の高台付近に来ると下に下る道が続いていて数隻の舟が係留された小さな漁村があった。

「見て村がある」

「行っても大丈夫かな?」

とりあえず行ってみる事になり馬車を走らせた。近くまでたどり着くと随分と閑散とした村だった。馬車を引いて村に入る、あまり人の気配は無かった。

海岸線まで出て桟橋の望む所まで来ると小さな子供を連れた老婆に出会った。

「こんにちは」

「こんな所に珍しい、旅の人かい?」

「そうですね」

「見ての通り廃れた村さね」

「何があったのですか?」

後ろから人の気配を感じる。

「この前、魔物に襲われて戦える者は皆死んだ」

「街でもそんな話しを聞きました」

「着いておいで」

老婆が案内した先には沢山の墓標かあった。茉夏達は祈りを捧げた。

「見た所、巫女さんのようじゃか?」

「はい、神の示しで魔王を討伐するべく旅をしております」

立ち寄った村でリーナとレンを保護した事も伝えた。

「神の遣いでありましたか」

まだ村に残る者に紹介したいと言われ着いて行く。教会のような少し大きな建物に案内された。そこには20名程の年寄りと女子供がいた。

「はじめまして、巫女をしています茉夏と申します」

「翔子です、この子達はリーナとレンです」

「動ける者がいなくてたいしたもてなしは出来んが泊まっていくといい」

「ありがとうございます」

翔子が奥の部屋に30代位の男の人が数名怪我をして寝かされているのを見つけた。

「治療しても宜しいですか?」

寝ている人は声が出せないのかコクりと頷いた。

「アルティメイションヒール」

横たわっていた人達の傷はみるみる回復し起き上がれるようになった。

「まだ無理はしないでくださいね」

「巫女様ありがとうございます」

それから炊き出しを行う事にした。台所を借りてパンを焼く、野菜を煮込みスープも用意した。

「巫女様これを使ってください」

村の子供達が魚を釣ってきてくれたのですり身にして練り物を作りスープに入れた。

「順番に並んでください」

「全員分ありますので慌てないでください」

リーナも配給を手伝う。レンはまだ幼いのでリーナにしがみついていた。

村の人達は順番に受け取り席に座った。一斉に祈りを捧げてからこちらに感謝をする。

「「いただきます」」

茉夏達も一緒に食事をした。

「つみれから良い出汁が出ていて美味しい」

「翔子お姉ちゃんは料理上手だよね」

「茉夏のパンも美味しいよ?」

翔子がフォローしてくれるが茉夏の味付けだと大味になる事が多いのでリーナの評価は正しいと思ってしまう。

「巫女様、怪我人を治療していただき食事まで感謝しきれません」

先程の老婆が頭を下げている。

「もっと早く到着していたら魔物を退けらせたかも知れませんでした」

それは仕方の無い事と老婆は優しく言ってくれた。

「巫女様はどちらに向かう予定ですか?」

「魔物の群れはどっちから来たのですか?」

「海の向こうから来ましたじゃ」

「そうですか」

そこへ先程治療した男性がやってきた。

「お身体は良いのですか?」

「巫女様のおかげでこの通り」

筋肉を見せ元気になったとアピールしてきた。

「巫女様達は海を渡りたいのですよね?」

「出来れば馬車ごと渡りたいのですが」

「俺の舟なら馬車事お渡し出来ますよ、幸い被害から間逃れたもので」

「お願いしても宜しいですか?」

「命の恩人です、やらせてください」

出港準備に3日かかると伝えられた、片道で3日程の航海になるそうだ。着いた先には大きな街もあり装備も購入出来るとの事だった。茉夏達は持っている食料の半分以上を村に提供した。

「これは船賃だと思ってください」

「とても助かります」

教会の一室を借りて夜を過ごす。茉夏と翔子は交代で見張りをした。

「茉夏起きて」

先程交代したばかりなのに翔子が茉夏を起こす。

「もう交代?」

茉夏は眠い眼を擦り起きた。

「あれ見て」

月の方向を指さしていた。

「ドラゴン?」

「嫌な予感がする」

ドラゴンは街の方向に向かっていた。

「行くしか無いよね?」

「食い止めましょう!」

茉夏と翔子は羽根を広げ夜空に飛び立つ。少し離れた位置から弓を構えた。

「メテオアロー!」

「アイシクルショット!」

2人が同時にドラゴン目掛けて放つ。無数の矢が降り注ぎ、ドラゴンの尻尾を凍りつかせた。

「乗り込むよ!」

翔子は矢で牽制し茉夏が剣で切りかかる。突然の強襲にドラゴンは怯んだ。

茉夏の短剣がドラゴンの瞳に突き刺さる。しかしドラゴンは街への飛行を続けた。

「あんまり効いてないね」

「続けましょう」

翔子は翼を集中して狙う、足を止めるのを優先したようだ。茉夏もそれにならいファイアの魔法を翼に目掛けて打ち込む。片翼を集中されたドラゴンが地上に降り立つ。

「大っきいね」

ドラゴンは怒りを露わにして茉夏達に襲いかかった。飛べなくなったドラゴンは尻尾を振り回し攻撃してくる、少しまわいをとり弓で応戦していると後ろから砲弾が放たれた。

「どこの誰かは存じませんが加勢します」

街の軍隊が茉夏達を援護してくれている。

「勝負に出るよ」

「うん!」

一気に距離を詰め接近戦に以降した。空中から翔子がクナイの雨を降らせる。その隙に茉夏は尻尾を切り裂いて攻撃手段を奪った。ドラゴンが咆哮をあげると雷が降り注ぐ。

「おっと」

「軍隊の人達は下がってください」

翔子が声をかけると軍隊は後退し身を潜めた。

「雷は当たらなければ大丈夫だから畳かけよう」

「援護する」

翔子がアイシクルショットで手足の自由を奪い茉夏が短剣でドラゴンの心臓目掛けて突進した。1度目は雷に阻まれた。

「もう1回行くよ!」

再び突進を仕掛ける真夏に幻影魔法かけてドラゴンを困惑させた。

あらぬ場所に雷が降り注ぎ茉夏の剣が心臓を突き刺した。

「ギャオーン」

雄叫びをあげたと同時にドラゴンが飛散する。

「やったね」

「疲れた」

地上に降り立つと軍隊の人達に囲まれた。

「この度の活躍に感謝します」

指揮官のような人が声をかけてきた。

「援護ありがとうございました」

「街へご同行をお願い出来ますか?」

「私達は漁村に宿を取っていますので」

「分かりました、明日街の代表と伺います」

茉夏と翔子は村に帰り就寝した。余りに疲れていたので見張りは村の人に頼んだ。

 朝になると村の人達に起こされる。何でも伯爵と呼ばれる人物が村を尋ねてきた。

「この度はドラゴンの討伐をありがとうございました」

2人はまだ眠たかったが失礼の内容に気を引き締めた。

「被害が無くて何よりです」

「お礼をしたいのですが何が宜しいですか?」

2人は顔を合わせた。

「お礼はこの村の復興支援をいただけますか?」

翔子が言った。茉夏も隣で頷いている。

「承知しました、全力で取り組みましょう」

伯爵と村長が握手をして約束が成立した。これからは軍隊も駐留して復興支援をしてくれる事になった。


 旅立ちの前日に伯爵の屋敷に招待された。

「立派な御屋敷ね」

「伯爵様だもんね」

軍隊の指揮官から竜結晶という品を渡された。

「これは?」

「次の日に戦闘があった海岸に落ちていました、私共に所有権はありませんのでお持ちください」

「有難く使わせて貰います」

「名乗るのが遅れました、グランツと申します」

「私は翔子、こちらは茉夏です」

「私達はヴァルキリーをしています」

「伝説の戦巫女でしたか、伯爵がお待ちですのでこちらへ」

会議室のような所に案内された。そこには伯爵と執事のような格好をした老人が居た。

「ようこそおいでくださいました、レイノール伯爵家の当主アルバート フォン レイノールと申します」

「執事長のグラハムです」

「私達はヴァルキリーとして天界より派遣された茉夏です」

「翔子と申します」

「どうぞおかけください、これから村の復興計画を説明させていただきます」

立派な会議テーブルがあり豪勢な椅子に腰掛けた。座ると執事長が部屋を出る、入れ違いに品格の良い初老の男性が入ってきた。

「私からご説明させていただきます、先ずは名前から、伯爵の秘書官をしておりますアルム ゲイボルグと言います」

羊皮紙に書いた資料が回された。何か色々書いてある。

「このレイノールとチノ村の海岸線に道を作り物資の行来をスムーズにします」

茉夏達が想像していたより大事になっていた。

「丘の上に灯台を設置して隣国リンドブルムよりの船をチノ村に停泊出来るように桟橋を設けます、チノ村には宿屋や商館の類を集めて規模を拡げて行きますレイノールにも港はありますが手狭になってきていますので貨物船はチノを拠点に移行していきます、それにより人員、お金がチノに集まり自立復興に繋がるかと思います」

この伯爵は民衆の事を良く考えていた。

「村長にはその事を伝えてありますか?」

「今使いの者が村長にも同じ説明をしているはずです」

アルバートが手を鳴らすとグラハムが羽根ペンとインクを持って入ってきた。

「このような復興計画でいかがですかな?」

アルバートはにこやかに尋ねてきた。

「直近の支援はどうなってますか?」

翔子が尋ねた。

「漁が再開して安定するまでは食料支援は毎日させていただきます、漁で捕れた魚は相場より高値で買い取らせていただきます」

グラハムがその場で羊皮紙に追加する。

「ありがとうございます」

グラハムが懐から銀のナイフを取り出してアルバートに渡した。アルバートは羊皮紙に血判を押すとナイフを丁寧に拭き取り茉夏に手渡した。

(私もやるのよね)

茉夏も真似をして親指にナイフを当て血が滲んだ事を確認すると血判を押し拭き取って翔子に回す。翔子も同じように押した。全員が押し終わると翔子がヒールを唱えた。指の傷が塞がる。

「流石は巫女様ですな、儀式に移りたいと思います」

羊皮紙に水晶やら宝石を配置しアルバートが何かを唱えた。紙が輝き書いた文字が焼印のように定着される。

「これで契約成立です」

「何が起きたのですか?」

「この地の神に誓い契約を結びました、契約違反を犯すと私の命は無いでしょう」

ゲイボルグが書面を預かり部屋を出た。

代わりに使用人がグラスを並べる。アルバートがワインらしきものを注いた。

「乾杯をしましょう」

茉夏達は未成年でお酒は飲んだ事がなかったが日本では無いので承諾するしかなかった。グラスを掲げるとグランツが乾杯の指揮を執る。

「この国の平和の為に」

グラスに入ったワインらしきものに口をつけた。

「これ美味しい」

翔子はいける口だった。

「酸っぱいよぉ」

茉夏はお子様舌なので合わなかったようだ。

軽く食事もして今までの旅の話しをした。

「明日から出発でしたか?」

「はい、必ずまたここに来ます」

「楽しみにしています」

アルバートがグラハムに耳打ちをする。

グラハムが失礼しますと言って部屋を出た。

「リンドブルムにはどのような要件なのですかな?」

「魔物が海を渡ってこちらに来ていますので海を越えた先に魔王がいるのかと思いまして」

「伝説の巫女様が魔王を討伐すると云う話しは本当でしたか」

部屋のドアがノックされる。

「入りなさい」

1人の少女が入ってきた。腰にはレイピアを刺し旅装束で勇ましい感じだ。

「茉夏様、翔子様お初にお目にかかります、サクラ フォン レイノールと申します」

「はじめまして」

アルバートは娘を連れて行って欲しいと頼んできた。

「大事な娘さんを危ない目に合わせるのかも知れませんよ?」

「私も次にこの領地を統べるものとして知見を増やさねばなりません、是非ご同行の許可を」

「私からもお願い致します」

アルバートが頭を下げた。

「解りました一緒に魔王を討伐しましょう」

「ちょっと茉夏?」

「この流れで断れないでしょ?」

翔子は呆れた様子だった。

「サクラこれから宜しくね、私の事は茉夏って呼んでね」

「私も翔子って呼んでください」

「早速ですが街で旅支度をしたいのですが」

「引き止めて済まなかった」

皆で部屋を出て玄関ホールに行くと屋敷の使用人が整列していて見送ってくれた。

「サクラは街から出た事があるの?」

「兵団と一緒に魔物討伐をしていました」

「へー意外だね」

「意外ですか?」

「可愛いから箱入り娘だと思ってた」

「そんな可愛いだなんて」

サクラが頬を染めていた。

「茉夏は背が高くて凛としていて素敵ですし翔子は知性溢れる知的美人じゃないですか」

「やっぱり翔子が賢く見えるのね」

「事実だしね」

街へ行きリーナ用のナイフを購入した。食料はアルバートが馬車に用意してくれたとの事で調味料だけ購入する。

「リーナの防具も買わない?」

「そうだね」

サクラの紹介で防具屋に行くと子供用の胴あてを購入した。

「おふたりの衣装はお揃いで可愛いですよね」

「色々と便利なんですよ、自動修復したり汚れても勝手に綺麗になるので」

「羨ましいです」

「サクラにも頼んでみるよ」

「嬉しいです」

街の入口に着くと馬車が待機していた。馬車に乗り込み村へと戻る。

「リーナただいま」

「おかえりなさい、えっとその人は?」

「リーナはじめましてサクラです、これから一緒に旅をします」

「あの、宜しくお願いします、この子はレンです、弟です」

「レン君宜しくね」

サクラが手を差し出すとレンはサクラの手を握った。

「私の時は警戒されたのにぃ」

真夏が不貞腐れている。

翔子は笑っていた。つられて皆も笑う。

倒壊した家屋はゲイボルグの指揮の元早速作業が始まっていた。

馬車の中を整理して長旅に備える。

茉夏は伊邪那岐に電話していた。

「竜退治ご苦労さま」

「知っていたのですか?」

「見ていたよ、強くなったね」

「お願いがあるのですが」

「なんだね?」

「サクラが仲間になったのはご存知ですよね?」

「知っているぞ」

「サクラにも同じ衣装を用意出来ませんか?」

「能力は無理じゃが衣装だけなら良かろう、明日出発するまでには用意しよう」

「ありがとうござい」

真夏はサクラには内緒にしておいた。

夜にはささやかな出発パーティーが催された。村長から村の復興支援など感謝された。

夜になるといつも通り交代で眠った。平和な夜が続いた。

「おはようございます」

サクラがいち早く目覚めた。

「「おはよう」」

朝ごはんを食べてから桟橋に向かう。

「巫女様、出港の準備は出来ています」

馬車を固定して馬屋に馬を移動させた。4人は客室に案内される。

「狭いですが我慢してください」

「お手伝い出来ることかあれは何でも言ってください」

「お気遣い感謝します」

出発順番が着々と進んでいき桟橋から係留が解かれた。帆が降ろされ入江の外に進んで行く。

客室内ではサクラが光に包まれる。桜色の巫女装束に包まれたサクラがそこには居た。

「サクラちゃんだけに桜色だね」

「似合ってますよ」

サクラは頬まで桜色に染めて喜んでいた。リーナはそれを羨ましそうに見ていた。

「リーナも戦えるようになったら頼んでみるね」

「うん!」

リンドブルム目指して船は進む。



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