私の余命
『私の余命』
私は後余命が半年と言われた。現代の奇病で、できればモルモットにしたかったようだが、家に帰りますと強く断った。そして主治医も諦めたらしく、私は家に帰る事にした。そして白髪と黒髪が混じった独特の髪色になり、性欲も若干衰えてきた。何もかもが衰弱になっていく。私はせめて、一人でもいいから、どんな形でもいいから処女を捨てたかった。
ある日の春。一人ベンチで煙草を吸うようになった。最初はあまり良さを感じなかったけど、一日に二箱吸うようになった。携帯用の灰皿は持っていないため、土に煙草の火を靴で消していた。そうしたら、大学生らしき男が煙草を吸いながら、対面側のベンチに座っていた。
結構格好よくて、髪を茶髪に染めていた。私は日増しに興味が増し、ついに声をかける事にした。
「煙草一本吸いますか?」
大学生らしき男が「ありがとう」「銘柄が違うから俺のも一本吸ってくれよ」
そうした会話が二人の出会いだった。大学は中退して、暇人になったらしい。今は勉強して、医療事務の仕事につきたいらしい。
でも、昼間はこうして煙草を吸って、余興をしていたらしい。男は付き合っている彼女がいるらしい。でも、もうそろそろ駄目になりそうだと愚痴をこぼしていた。
そして、彼女と別れて完全にフリーになった時に、私は「好きです」と伝えた。「ありがとう。なら付き合うか?」
「お願いします。死ぬ前にどうしても彼氏が欲しかったんです」
「君ほどの女は見たことないよ。綺麗な顔立ちをしているね」
私は顔が真っ赤になった。外見を褒めてもらえた事は他人で初めて面と向って言われた。私は煙草を吸いながら、気持ちの昂ぶりを抑えようとした。
「何人ぐらい彼女いたんですか?」
「四人くらいかな。中学時代から数を数えてみると」
「羨ましいですね」
「まあ、普通だよ」
そして、明日はキス。明後日は初体験する事になった。
そして、翌日。約束どおりまたキスをした。
お互い苦い煙草の匂いがするキスを。
私は運命的な出逢いに感謝した。まるでドラマのように素敵な出逢い方だった。もう処女で死ぬばかりと思っていたのだけど、私は最後に愛されてから死にたい。
ホテルに連れて行ってもらった。レンタカーらしい。そして、真っ昼間にやる事にした。私は初めてだから心臓がバクバクだった。初めてこんな広い部屋に来た。それに怪しげな玩具たちで、存在は知っているけど、でも、目で見るのは初めてだった。
お互いシャワーを浴びて、私は後攻にした。私は華奢な体躯をしている。脚が比較的長いのだけは少しばかりいいとは思っているが。
照明はいらなかった。私はキスをされて、処女喪失を果たそうとした。
そして、長くしてもらい少しずつやってもらった。タオルを敷いていて正解だった。それは鮮血で染まっていた。
私は痛くてもそれでも一度でいいからしたかった。それで、幸福感を味わえたから、二回目以降は止めといた。彼氏も後一月で死ぬからと許してくれた。
「お前が死んだ後は他の女とつきあうぞ」
「その方が自然ですからね」
そう言いながら、ベンチの隣で煙草を吸っている。後生きるのに一ヶ月を切った。
私はずっと眠れるようになったが、無理やり起こして貰って、あの公園には出向いた。彼氏が笑顔で待ってくれる。
彼氏は強い人だから、私の事をすぐ忘れてしまいそうだと思った。私はもう目的を果たしたし、逢うたびに毎日キスをする。
そして、私は銘柄を違う奴に代えた。だから、彼氏も私の煙草を吸う本吸っている。私は煙草を吸う人に憧れを抱いていた。
そして、処女を捨てて、起こしても眠りから覚めなくなりつつあった。きっと、私は後悔するかもしれない。大好きになった人より早く死ぬ事を。
人生最後の秋。紅葉が綺麗で、桜の花みたく散っていくのに対して、彼氏が棺桶に入れてくれと、ブランド物のライターをプレゼントしてくれた。そして、たぶん私は明日で死ぬと思うと告げると。
「そっか」
それだけ言って煙草を吸った。そして、人生で最後のキスをした。
もうこの世にはいられないから。またね。そう言って、私はこの公園を去った。
彼氏はきっとしばらくは淋しく思ってくれるはずだ。これでいい。私はきっと、そのくらいの愛情を掛け合ってきたはずだから。
翌朝、私は意識を失った。そして、今までのいい人生だった事や最後の楽しみも全て消え去り、いつしか私は完全に無になれた。