第6話(1200年2月) 安達の妾たち
◇◇梶原平三景時視点◇◇
三つの川があることから参河国と呼ばれたこの国には、まだ徳川家康の先祖となる世良田氏はいない。耕作する平野こそ広くはないが、三川があるため飢饉には強い農業国だ。また、良港が無いため、後世においても隣の尾張国のように商業国として発展することはなかった。
国の性格はその土地で生きる者の考え方も決める。参河の民はコツコツと仕事をすることを好み、土地への執着が強い。今日も俺は参河国の武士たちを説得したが土地から切り離すことはできなかった。
「やっぱ白旗はいいのう。源範頼殿が戻ってきたようだ」
俺の説得相手が上機嫌で声をかけてきた。室平重弘。反乱軍の頭目である。500の兵をまとめて暴れていた男だ。元源範頼の郎党で源平合戦にも参加していたという。
重弘は奪った国府の国衙(政庁)に、兵を多く見せるように旗を立てていた。旗は無地の白。源氏の旗である。ちなみに御家人には無地は禁止で、家紋を入れなければならない。
「いやあ、テロリ殿の言う通りにして良かった。迦楼羅殿も凄い。簡単に国府を落としてしまうとは、まさに大将の器。源氏というのは嘘ではなさそうだ」
カルラ殿とは義経のことである。俺が「源テロリスト」という偽名を使うのに対し、義経は迦楼羅天の面をつけ、「源カルラ」と名乗っていた。
室平に会ったのは1週間前のことだった。反乱軍の頭というから、荒々しい男を想像していたのだが、苦労人という感じの男で、所領を奪われた国人たちの話を聞いているうちに、頭目に祭り上げられたらしい。
ちなみに長くて言いずらいということで、呼び名を「テロリ」にされた。なんかカッコよくない。
「なあ、カルラ殿はどこへ行ったのだ? 数日前から姿が見えぬが」
「怒ってどこかへ行った。お前らが郎党になるという約束を破ったからな」
「そう責めるな。無傷で国府を我らのものにできたのだ。関東武者なら捨てたくない気持ちはわかるだろう。ほら、一所懸命というではないか」
室平重広がばつの悪そうな顔をした。元々は国府を落とした後、物資を奪って船に戻る作戦だった。しかし、いざ落とした後になると、室平たちは奪った土地から離れることを嫌がりはじめたのだ。
義経は『一所懸命』など負け犬の考え方だと言い捨てて、国府を出て行った。俺はあきらめずに郎党になるよう、説得を続けていたが、鎌倉から安達勢しか来ないとわかると、室平たちはますます状況を楽観視した。
「テロリ殿も参河に残ればいい。そうだ、安達の妾たちを渡そう。美人揃いだぞ」
「まだ、開放していなかったのか?」
「安達は美女狩りをする際に、必ず身寄りの者を殺した。だから、妾には帰るところがないのだ。テロリ殿がいらぬのなら、兵たちに与えるが――」
それも可哀そうだ。蒸気船には静御前しか女はいない。女手があれば便利なこともあるだろう。
俺は妾がいる屋敷の場所を聞くと、陸丸に声をかけた。
「陸丸、ついてこい」
陸丸が背負った火縄銃をガチャガチャ言わせながらやってきた。族滅された俺にとっては、隠し村から連れてきたこの少年だけが郎党だ。陸丸は銃の弾込めが早く、次々と銃を渡してくれるから、単発銃でも連射ができる。陸丸は俺にとっての弾倉役だ。
国衙から少し離れたところに、高い塀に囲まれた屋敷があった。逃げられないよう外側につけられた閂を外して入っていく。だが、式台の前に立っても、妾は誰一人出迎えにはこなかった。
「御免!」。そう言って中にあがると六人の女がいた。みな色とりどりの小袖を着ているが、羽織っているのは一枚だけだ。都の女のように何枚も重ね着をさせるほどの財力は御家人にはない。
「アナタが新しいご主人様? ちゃんとしてよね」
髪を後ろに縛った女が俺を品定めするように見てきた。顔はいいけど、無礼な女だ。まったく、藤九郎は妾にどういう躾をしていたんだ。
そんなことを考えていると、みな衣を脱いだ。一人だけ恥ずかしそうに隠していたが、他の五人は挑むような眼で俺を見てくる。
そうか。犯しに来たと勘違いしているのか。俺は彼女たちを安心させように笑顔を作って言った。
「心配するな。女の裸に用はない。服を着ろ」
「――アナタもアタシたちを辱める気?」
髪を縛った女がくやしそうに唇を噛んだ。
はぁ? 何だ、この女? さっきから全然話がかみ合わない。
「あのなあ――」
文句を言おうとしたとき、敵襲を知らせる鐘の音が耳に入った。
「――安達が来たか。陸丸、行くぞ。陸丸、おい!」
目に焼き付けるように裸体を見ていた陸丸を張り倒し、屋敷から飛び出した。
◇◇安達藤九郎盛長視点◇◇
敵の抵抗を受けずに軍は参河国府に入った。小さな国府だ。国衙までの道は200メートルも無い。
「父上、国衙に多くの旗が! 敵は思ったよりも多いかもしれませぬ。まずは矢合せで様子見を――」
隣で馬を進めている嫡男の安達弥九朗景盛が言った。
何を驚く? 想像できたことだろうが。様子見? 勢いを自ら殺してどうする。戦とは速さだ。
わしは鼻で笑うと。鎌倉から連れてきた安達勢と、息子が参河国で集めた敗残兵1000に命じた。
「賊相手に矢合わせは無用! このまま国衙に総がかりせよ!」
わしは馬腹を蹴ると軍の先頭に立った。




