第58話(1201年2月) 「江口の戦い③」
◇◇八田筑前守知家視点◇◇
静御前の舞を観ながら、山海の珍味に舌鼓を打つ。すぐに尋問をするつもりだったが、大量の料理と酒を運びこまれると、周りが歓声を上げ、そんな空気では無くなった。
そして何より、十三元老の零夜叉が側にいたことがためらわせた。
頼朝公の死後以来、まったく姿を見せなかった男が静御前を守っている。太刀は預かったが、それでも不気味だった。上皇といい、この色里には絶対何かがある。
舞の途中で席を立って外に出る。
「本陣を囲む兵を千に増やせ。酒も飲ませるな」
郎党に指示を出し、本陣に戻ろうとすると色里から激しい破裂音が鳴り響いた。
「何だ! 落雷か?」
周りの兵も空を見上げているが、雷雲はなく月明りが見えていた。
まだ、破裂音は鳴り続けている。色里から煙が上がっていた。
「誰か見て参れ! 場合によっては兵を入れても構わん」
◇◇静御前視点◇◇
外から激しい破裂音が聞こえてくると、本陣の中は騒然となった。
「お静まりくださいませ! 色里の余興でございます。わらわもこれから秘法の舞をお見せいたしますので、どうかご着座を」
零夜叉が立ち上がり、わらわと背中合わせになる。懐から鉄扇を取り出して構えた。
「女を脅す腐れ武士ども。皆殺しの舞を見せてあげる」
「何だと!」「遊女ごときが!」
叫ぶ武士を次々と鉄扇で打ち殺す。零夜叉も蹴りで殺していく。
太刀を振りかぶる武士を睨む。
「酔っぱいが、わらわに勝てると思うてか!」
わらわと零夜叉は一つの旋風となった。
八田が陣屋の幕から入ってくるのが見える。
「静御前! 何の真似だ!」
大きな口を開けて驚いている。
腐れ武士にお似合いの顔だわ。脳天に報いをくれてあげる。
「銭が好きなら、墓場におし!」
鉄扇が八田の額を割り、零夜叉の蹴りが首をへし折った。
吹っ飛んだ八田の体は銭の箱に倒れ込み。大量の銭が八田の体を覆った。
本陣の中は銭を盗もうとする者、八田に駆け寄る者、わらわに向かってくる者で、めちゃくちゃになっていく。
「零夜叉殿、竜宮屋に戻りましょう」
本陣を出ると、千人の兵に囲まれていた。
「……死地に入るぞ。静御前」
◇◇梶原平三景時視点◇◇
「殺した御家人を道に捨てたら、竜宮屋へ来い! 兵が来るぞ」
道で大声を出して遊女たちを誘導する。
接待した千人は殺した。先制攻撃は成功したが、静御前がまだ戻ってこない。
だから行くなと言ったんだ!
「テロリ様! 敵本陣から火が出てる! 成功してるかはわからないわ!」
屋上にいる薫が叫ぶ。
「静御前を殺すわけにはいかん。高衡、指揮を任せた! 俺は迎え船で援護に行く」
「そ、そんな。手前は商人でっせ!」
「赤の紐をつけた銃と、白の紐をつけた銃を交互に撃たせろ! それだけで、敵は攻め込みずらくなる。薫は狙撃に専念。千人は殺す気で撃て!」
「やってみる!」
「薫はんも、そんな無茶な願い聞いたら、あきまへんって!」
竜宮屋の裏に回り、船に乗る。
色里の外に出ると、松明を大きく回した。そして船に松明を取り付ける。
気づいてくれよ。静御前。
だが、当然のことながら敵の兵もやってくる。
「なんだ、誰もいないぞ。ギャッ!」
松明に照らされた兵を草むらから撃つ。これなら松明付近に照準を合わせているだけでい。
レンコンを2回ほど取り換えたところで、静御前と零夜叉の姿が見えた。
俺は船に戻り、二人を迎えるとすぐ岸から離す。
「無事で良かった!」
静御前が倒れ込む。零夜叉も流石に肩で息をしていた。
「しくじりましたわ。八田を殺したと思ったら、そっくりの息子でした」
「……急げ。八田は全軍に突入を命じた」
「わかった」
色里から激しい銃声が聞こえてきた。




