第56話(1201年2月) 「江口の戦い②」
◇◇梶原平三景時視点◇◇
江口の色里・稽古屋敷前で俺は二階堂に短筒を突きつけていた。
「奇妙な笠。アナタ、源テロリストでしょ」
「そうだ。これを見ろ。頼朝公の誅殺状だ」
左手で誅殺状を広げて見せた。
「あきまへん! 二階堂様はええ御人です」
「待ってテロリ様。二階堂は亀ちゃんや菊ちゃんを助けようとしているのよ」
藤原高衡が二階堂の前に立ち、薫が俺の袖をつかむ。
「邪魔するな!」
「ふふふ、謎がわかってきたわ。いい物を見せてあげる」
二階堂が懐から巻物を取り出した。記してある文字を見て驚く。
『頼朝の誅殺状』だと……。なぜ、二階堂が持っている!
「あら、今度はアナタが謎に包まれたようね。提案があるわ。アタシと組まない? 密やかで、秘めたる同盟」
こいつは半妖だ。惑わせられるな。
「強がっても無駄よ。アナタの顔に『誅殺状が気になる』と書いてあるもの」
「――一つ聞かせろ。なぜ、幕府を裏切るような真似をする」
「幕府に仕えているつもりはないわ。アタシが仕えるのは現世の理を超えた者だけ」
「理を超える者とは誰だ!」
「誅殺状を持っているのなら、いずれわかるわ」
二階堂はそう言うと、高衡に守られるように去っていった。
結局、俺は銃を撃てなかった。
「薫。一ノ谷に伝令を出す。急げ!」
◇◇八田筑前守知家視点◇◇
「たいそう儲けているようだのう。日ノ本一の色里だけのことはある」
竜宮屋の豪勢な建物は遠目からでもわかる。善信入道をもってしても裁けない里。わし一人で手を出せばきっと火傷するだろう。しかし、兵を持つ今ならできる。
「軍を二つにわけ、一万は摂津の港の守りへ、もう一万を江口の近くまで寄せろ。さらに、静御前へ文を出せ。記すのは、軍費として持っている銭をすべて出すこと。そして善信入道殺しについて静御前自身が申し開きにくること。この二つだ」
どうせ四国は混乱して奪う物もないだろう。ここで稼がせてもらおう。
◇◇梶原平三景時視点◇◇
竜宮屋・静御前の私室で、静御前と血相を変えた高衡が八田からの文を読んでいた。
読み終わると静御前は高衡に命令した。
「手元にある銭をすべて用意しなさい。他の女主人にも出すように伝えて。ただし、借り証文を必ず渡すこと」
「後で銭を返すということでっか?」
「そうよ。今さら偽銭を作りたくないなんて言わないわよね?」
「やむをえまい」
俺はうなずく。
「集めた銭を八田に持っていったとき、こう伝えてくれるかしら。『遠征の武士をねぎらいたいので、宴を催したい。静は支度が終わったら、必ずお目見えに上がります』と」
「全面降伏しかありまへんか……」
「全面降伏? 徹底抗戦の間違いでしょ? ねえ、義経様」
静御前は壁に張ってある義経の人相絵に微笑みかける。
「わらわは時を稼ぐ。追い払い方はあなたに任せるわ」
「無理な注文だが、やってみよう。静御前を奪われるわけにはいかないからな。だが、戦うためには――」
「いいわ。遊女屋での武器の使用を許可します」




