第54話(1201年1月) 「遠征前」
◇◇八田筑前守知家視点◇◇
鎌倉には関東から集められた五万の兵が集まっていた。そして御家人たちを驚かしたのが、執権の代官として北条政範が総大将に任じられたことだ。
「おい、和田義盛。何で総大将が三代目から北条の息子に変わったのだ?」
「飾りなど誰でも構わん。どうせ戦は俺様がやる。知りたければ、あいつに聞いた方が早いんじゃないか?」
和田小太郎義盛は北条政範の側にいる、江間四郎義時を見た。
「さすがに気の毒すぎて聞けぬわい」
三代目実朝の代わりを、比企の乱の功労者である江間義時ではなく、北条政範にしたということは、時政は政範を後継者に決めたということになる。義時は分家のまま本家を補佐しろということだ。
「俺様はこの戦で大勝利をし、二代目執権になる。時政がやり方を教えてくれた」
「無理だ。そうさせぬために鎌倉に兵を残し、江間四郎を軍監にしている――まさか!」
四郎が裏切るのか? 声を落とす。
「ハッハハ、冗談だ」
和田小太郎は無邪気に笑いながら、バンバンと肩を叩いてきた。
武辺一辺倒だと思っていたが、存外この男も油断がならぬ。
ぞろぞろと武士がやってきた。
「父上、そろそろ軍へお戻りを」
「なんだあ、あれは。貴様に似た顔ばかりが並んでおる。ひい、ふう、みい――」
「十人だ。わしの血が強いのか、産まれてくる子が、みな顔が似ている」
「貴様に似るとは不幸だな。皆、体が小さく弱そうだ」
小太郎は憐れむようにわしを見下ろした――。
八田軍の陣屋に戻ると、息子たちを前に並べ、太刀を振る。
「「「ちはやぶる~、神代も聞かず~」」」
息子たちが声を合わせて歌を詠む。合わさった声音が耳に心地いい。同じ血を持つ者だからこそ綺麗に揃う。
小太郎め。わしに似て何が悪い!
しかし――中年太りまでは似る必要はないだろうに。今まで贅沢をさせてきたが、甘やかすのもほどほどにせんとな。
息子たちの突き出た腹を見て、子育てを少しだけ反省した。
◇◇梶原平三景時視点◇◇
摂津国を一週間で落とした義経は一ノ谷に防御陣地を作っていた。
東側の生田口を見て、思わず声を上げる。
「これは――」
「昔を思い出した? 平家と戦ったときに似せて作ったんだ」
景季を助けるために、死に物狂いで突っ込んだ逆茂木も同じ場所にあった。家族全員ボロボロになりながら生き延びたことをよろこんで抱き合ったのを思い出す。
「あのときも手強い陣地だった。しかし、手堅い守りなんて、らしくないな」
「これは守るための陣地じゃない。攻めるためさ」
義経は自信ありげな笑みをみせた。




