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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
陸の元老 二階堂民部大夫行政
56/61

第53話(1201年1月) 「元老会議③」

◇◇北条四郎時政視点◇◇


「父上、皆揃いました」


 息子(義時)の声にうなずくと、北条邸の奥の間へ向かう。

 二代目頼家を討ってから、三カ月。源実朝が三代目将軍として、朝廷から承認され、わしは幼い将軍の後見役として、執権の座についた。それからは、大倉御所ではなく、北条邸で元老会議を行うことにしている。


 奥の間に入ると、一段高い席に座る。遠慮はしない。将軍の名代なのだから当然だ。四人の出席者が頭を下げる。


・大江広元(政所別当)

・和田小太郎義盛(侍所別当)

・八田筑前守知家(筑前、常陸守護)

・江間四郎義時(信濃守護)


 元老の大半を政治の舞台からずいぶん蹴落とした。比企の協力者だった八田も追放したかったが、真っ先に寝返ったので、処罰するわけにはいかなかった。

 それだけではない、せっかく奪った天下が揺らいでいる。播磨の小山朝政が西国十カ国の守護を殺して回っているのだ。


「姿を消していた二階堂から文がきました」


 半妖め。一人だけ鎌倉の争乱に関わらず、高見の見物か?

 中身を読むと、西国情勢についての詳細な報告が書いてあった。


「西国を荒らしまわったあげく、摂津国を領土化したらしい。兵は二万を超える。小山朝政にそれほどの軍才があったとは」


「指揮を採っているのは風神カルラという奴だろう。ふふふ、久々に燃えてきた! 俺様にふさわしい敵だ」


 むき出しにしている、和田小太郎の黒い両腕に血管が浮かび上がる。


「敵は播磨や摂津だけではない。西国の国人地頭が御家人の地頭を追い出しておる。鎌倉へ逃げ帰ってきた地頭もかなりの数に上っておる」


「捨て置けば幕府の権威に関わります。摂津から京都は目と鼻の先、上皇と結べば容易ならざる敵に変わります。すぐに兵を向かわせるべきでしょう」


「では、六万の兵を向かわせよう。和田小太郎は四万を率い東海道から、八田は二万で中山道から京へ向かえ」


「播磨は任せろ。俺様が粉砕してくれる!」


 和田小太郎の拳から胡桃の割れる音が聞こえた。


「兵が少ないように思えます。行くのなら全軍です」


 大江が珍しく強弁してきた。


「まだ、三代目に変わったばかりだ。兵が西へ集中すれば東で異変が起こる。鎌倉の守りを手薄にするわけにはいかぬ」


「ではこの八田が守りを――」


「怠け馬は前線だと言ったはずだ。これからは怠ける暇は無いと思え。元老に駄馬はいらぬ」


「シシシ、これは手厳しい」


 こういう男がいるから鎌倉は空けられん。比企との戦いでは意図せず大博打を打ったばかりだ。これ以上、危険は冒すつもりはない。

 息子(義時)が膝を進めて言った。


「総大将は実朝様で良いでしょう。御家人の目に新しい天下人が誰なのかを知らしめるには良い機会かと。及ばずながら私が軍監として補佐いたします」


「いいだろう。北陸道から八田、中山道から実朝様、東海道から和田が進む。皆に異存はないか?」


 こうして、小山討伐が決定した。


◇◇◇◇


 愛妻の牧の方がいる北の間に入ると、遠江守護を譲った政範に、牧の方が鎧具足をつけていた。


「きらびやかではあるが、ごちゃごちゃと付けすぎではないか。政範は飾り雛ではない。動きづらい恰好では戦場で戦働きができぬ」


「まあ、政範に働かせるおつもりですか! この子は大将です。ほら、怖がっているではありませんか。心配しなくていいのよ、御家人が守ってくれますからね」


「はい、母上様」


「総大将は実朝だ。政範は初陣だぞ。まずは手柄を上げさせてだな」


「いいえ、総大将は政範にしてください! あなたは執権なのでしょう。誰に気を使う必要がありましょう。政範が早く天下人になる姿が見せてください!」


 以前はこれほど激しい女ではなかったのだが……。

 比企の乱で絶望を味わってからというもの、妻はじっくり動くことが不幸を招くと思い込んでいた。


「急げば敵を増やす。牧も殺されるかもしれぬぞ」


「政範が天下人になるのなら、斬られても構いません! あなたもそうでしょう?」


 牧の方が胸に飛び込み、泣き始めた。雛人形のような政範がおろおろしている。

 か弱いが愛おしい。妻と子がいなければ、伊豆で隠居しているだけの余生だった。

 執権になれたのもこの妻あってのことだ。なのに、悲しませてどうする。


 わしは覚悟を決め、妻の背を抱きしめた。

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