第47話(1186年) 回想「隠し村の赤ん坊」
◇◇梶原平三景時視点◇◇
隠し村に戻った俺は、怪我の療養をしつつ、鎌倉の動静を眺めていた。
比企能員の守護国のうち、信濃は江間義時に、上野は安達景盛に与えられた。そして、政所別当に大江広元と並んで、北条時政が就任。そして、三代目将軍・源実朝を補佐する職として新たに執権が設けられ、北条時政が初代執権となった。
「この瓦版、ちょっと間抜けかも」
薫が今月配られた二号の瓦版を見せる。タイトルは『鎌倉幕府で内乱勃発。勝者は誰だ?』。
「二カ月前に書いたにしては、いい線いったほうだろ。勝者がわかっているのは関東だけ。他の国ならまだ記事を楽しめる。三号の瓦版が当たるかどうかは義経と守護代殿の頑張り次第だ」
ともかく鎌倉の目から西国を逸らすことには成功した。
「播磨へ戻ろう」
「待って。アタシは誰の首も取ってない。鎌倉に行かせて」
「もういい。薫には援護で助けられた」
「じゃあ、抱いて! 妾なるわ」
「なんで、そうなる!」
「誰かのために役にたった証が欲しいの! 安達盛長の妾なのに処女。源テロリストの女武士なのに一人も殺していない。そんなのってありえる?」
「だったら、江口の色里で働くか? 危険も少ない」
薫が銃口を向ける。
「アタシは役に立ちたいの! 買われたいんじゃない。おわかり?」
「すいません……」
冗談の通じない女だ。
そういえば、十五年前にも似たようなやりとりをしたな――。
◆◆回想◆◆1185年
義経が俺に銃口を向ける。
「僕は逃げたいんじゃない。戦いたいんだ。わかるだろ?」
「俺を脅したところで、その武器は使えない。火薬が無きゃな」
相模国一宮の梶原館に山伏姿で現れた義経を、俺は隠し村に匿った。
鉄を槌で叩く音が、村中で鳴り響いている。鍛冶職人たちに、火縄銃と蒸気機関を作るため試行錯誤させていた。勘のいい義経はすぐに火縄銃が武器であることに気づき、使わせろとダダをこねだしたのだ。
「十人足らずで戦えるわけないだろ。どうして北陸道周りで奥州へ向かわなかった! というか、なぜ俺の館に来た!」
「平三の兵がいる。僕の味方なら、いっしょに戦おうよ。ここから鎌倉まで一日とかからない。急襲すれば勝てる。あの銃を使えばもっと簡単だ」
疑り深いやつだ。火薬を隠していると思っているな。
「頼朝を討った後、どうする? お前に御家人が従わないのは京都でわかっただろ。院宣があったのに、集まったのはわずかだった」
「黙れ! 黙れ! 黙れ!」
義経が銃を叩きつけ、体を震わせていた。思い出したくないのはわかる。それまで、英雄といって近づいていた人々に裏切られ、心に深い傷を負ったのだ。
「よく聞け。俺は味方じゃない。お前を好きでもない。救いたいだけだ」
「意味がわからないなあ。ややこしい気性なのはわかったけどね」
俺もそう思う。強者についていくと決めているはずなのに、上総介の精神に憧れている。その帳尻を合わせようとするから、俺の行動はややこしくなる。
「あーああ、やっぱり無理か。じゃあ、おとなしく奥州へ行こうかな。それから、礼物を渡さなきゃね」
「礼物?」
「景季に伝言を頼んだんだけど、聞いてなかった? 」
そんなことを景季が言っていた気がするが――。
バブーという声が聞こえてくる――バブー!?
「なんだ、それは」
「赤ん坊を見たことないの?」
「そう意味で言っているんじゃない!」
「ある寺から盗んできた宝物さ――」
義経が耳打ちをする。
「お前!」
「そうそう、名前に六って入れるのを忘れないでね」




