表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
伍の元老 比企藤四郎能員
47/61

第44話(1200年10月) 「反転」

◇◇北条四郎時政視点◇◇


 今は生き延びたことを喜ぼう。五年耐えれば、また機会も巡ってこよう。


 手勢二百とともに参河国を進んでいく中、わしは輿の中でぼんやりしていた。眠れてないのである。ここまでの道中、泊まるたびに、妻の牧の方は泣いてわしを非難した。わしは毎晩謝った。藤四郎のときとは違い、心からの謝罪だ。わしは、義時にすべてを任し、京都へ着くまでは、妻をなぐさめることに専念していた。


 瓦版という紙を手に取る。近頃、商人が商いのおまけとして配っているらしい。それを義時が「旅のなぐさみになれば」とくれた。『頼朝の呪いか? 幕府元老六人が連続死』。くだらぬ内容だが、妙に当たっているところもある。死者の中に比企藤四郎能員の名があり、わしの気を晴らしてくれた。



 輿の外から義時の声がする。


「父上、参河国府に寄ります」


 そうか、参河は安達藤九郎盛長の死後、後を継いだ安達弥九朗景盛(やくろうかげもり)が守護をしている国だった。


「そうだな。味方してくれた弥九朗にも迷惑をかけた。一言謝らねばならぬ」



 参河国府の国衙(こくが)(政庁)に近づいたのだろう、外が騒がしくなってきた。馬のいななきも多く聞こえる。


「馬のいななきだと?」


 御簾を上げると、周りは武装した兵と軍馬でひしめきあっていた。慌てて輿から降りて、義時の姿を探す。


義時(四郎)、これはどうゆうことだ!」


「父上、こちらです」


 声がした方を見ると、鎧を着た義時と安達弥九朗。それに――。


「千幡様を連れてきたのか!」


「もう、千幡様ではございません。元服して、実朝様と名乗られました」


 頭が追い付かない。わしの息子は何を考えているのだ。


「実朝様を総大将にし、鎌倉に攻め入ります。遠江、駿河、伊豆も加われば兵は九千を越えるでしょう」


 動きが早すぎる。政子の葬儀の前から手を打たねば、ここまでの準備はできない。


「はじめから、そのつもりだったな! なぜ、わしに黙っていた!」


「遠江、駿河と北条の守護国を通る際、比企の手の者がずっと父上を見張っておりました。父上に少しでもおかしな動きがあれば勘づかれます」


 わしは釈然としないまま、国衙の中に案内されると、文机の上に紙と筆があった。


「何を書けば良いのだ」


「朝廷に対し、二代目が病で亡くなったので、実朝様が三代目を継ぐことになった。それを認めるようにと、お書きください」


「二代目はまだ生きておる。嘘とわかれば、朝廷は怒って二代目の味方をするぞ」


「朝廷の勅使が、鎌倉に来る前に終わらせます――二代目を殺しても、悲しむ人はもういない」




◇◇比企藤四郎能員視点◇◇


 (われ)は北条が軍を率いて攻めてくると聞き、鎌倉口の西側、化粧坂・大仏坂・極楽坂の切り通しに、百騎ずつ配した。山を切り通した道は大軍の運用がきかず、少数で守りやすいとはいえ、兵が足りぬ。もう手元には二百騎しか残っていない。


 尼御台の葬儀を終え、北条に勝利し、集まっていた御家人を国へ返した後でなければ、まだ兵がいたものを……。まさか、北条はこの機を狙っていたのか?

 今から守護国の信濃、上野に使者を飛ばしても軍は間に合わない。


「比企よ、大江が政所の扉を閉めて会おうとせぬ。余は見捨てられたのか!」

 

 不安なのだろう。二代目はすがるように上総介が造った御璽を握っていた。


「勝てば政所の扉も開きましょう。和田小太郎に会ってきます」



 侍所には袖切りの直垂を着た和田小太郎義盛と息子たちがいた。三浦一族は鎌倉のある相模国の守護。和田の協力を得られれば兵を集められる。


「侍所別当、よく来てくれた。貴公の求める強い敵が間もなくやってくる。二代目のために黒金剛と呼ばれるその力を見せよ」


「そそらんなあ。北条など数が多いだけ。俺様がここにいるのは手柄首の特等席だからだ」


 和田小太郎は右手を前に出すと、手の中にある胡桃を握りつぶした。


「貴公も裏切るというのか!――」


「三浦介義澄の後を継いだ、平六義村が江間義時(四郎)に味方した。貴様に味方をすれば、俺様が長をつとめる三浦一族が二つに割れてしまう」


 北条は鎌倉の中立派の中にも毒を仕込んでいた――。


「藤四郎。同じ十三元老の誼だ。一刻だけ待ってやる。その後は――貴様は俺様の獲物だ」


 なんということだ。鎌倉内で戦いが起これば切り通しで守っていても意味がない。すぐに兵を集め、上野国に向かわねば――。


 戻ってきた伝令にそう命令しようとすると、先に伝令が叫んだ。


「報告! 極楽坂を守っていた、八田殿が寝返りました!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ