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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
伍の元老 比企藤四郎能員
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第43話(1200年9月) 「北条時政の敗北」

◇◇北条四郎時政視点◇◇


 自邸の奥の間で、わしは胃を押さえていた。膳に伸ばす箸が止まる。食欲が湧かないのだ。

 政子が殺されるなど、考えもしなかったことだ。頼朝の妻で、二代目と千幡の母。誰も手出しができぬと信じていた。当然のことすぎて、こんな事態になることなど頭の片隅にもなかった。


 下手人は源テロリストだと、大江が伝えにきた。城長茂の乱のときに使われた武器と同じなのが、その証拠だという。だが、肝心の政子の死体は大倉御所に運ばれていて、嘘か誠かは確認はできない。


 政子の死によって有利になったのは二代目と比企藤四郎だ。今戦えばわしは負ける。藤四郎はどう動く?


「父上、二代目から尼御台様の葬儀に参加するようにと使者がきております」


 いつの間にか義時(四郎)が側に立っていた。

 なるほど、すぐにではなく、手堅く殺しにくるか。おそらく八田(怠け馬)の知恵だろう。


「行けば赤子のように殺される。そして行かねば、わしを討つ理由が一つ増える」


「そんなことより姉上の死を悼まないのですか? 北条家のために奔走し、亡くなった姉上を――」


「今は政治の舞台から落ちるかどうかの瀬戸際なのだ! 生き残った後なら、いくらでも菩提寺を建ててやる」


「策はあるのですか?」


「小賢しいことを言うな!」


 投げつけた皿は、義時(四郎)に当たらず壁で砕けた。


「私に考えがあります。だから今は姉上の死を悲しみましょう」


「言ってみろ。良い策ならば、大河のような涙を流そう! 大いに嘆きもしよう!」


 義時(四郎)の表情が少しだけ暗くなる。


「頭を丸めて出家して、二代目と比企殿にこれまでのことを謝るのです。そして京都守護職として二代目に尽くすと誓ってください」


「全面降伏ではないか! 北条は族滅させられるぞ!」


「姉上を殺した源テロリストの存在は比企殿にとっても脅威です。父上を殺すよりは京都守護職として使ったほうが得だと考えるはずです」


 腕を組んで考える。京都で耐えるか。頼朝の元で耐えることには充分慣れている。妻の悲しむ顔を見るのが辛いが仕方あるまい。


「いいだろう。藤四郎に全身全霊をこめた謝罪を見せつけてくれる! これも戦だ。罰しようという気など微塵も起させぬ!」


 立ち上がって膳を蹴る。料理が床の上に散らばった。




◇◇梶原平三景時視点◇◇


「戦が起こらないだって! 藤四郎なら北条を潰すのはわけないだろう!」


 隠し村で薫からの報告を聞いた俺は、にわかに信じることはできなかった。


「焦燥して病んだ北条様が、尼御台様の葬儀に現れ大泣きしたそうよ。そして位牌にすがりつき、『尼御台様の死で己の間違いに気づきました。これからは二代目を支え、京都守護職として尼御台様の仇を討つことに命を捧げます』と、誓ったんですって」


 今の妻と子に愛情のすべてを注いでいる時政が、政子のことで病むか?

 きっと食を断ったのだろう。あの時政のことだ。血も少し抜いたかもしれん。

 

「それで、二代目様は遠江と駿河の守護を取り上げるだけで、北条様の命は許したわ」


 これで北条は天下レースから脱落だ。京都で再起を計るにしても、時がかかるだろう。これからは藤四郎の天下をどう崩すかを考えなければならない。そうなると鍵になるのは――。


「千幡の処遇はどうなった?」


「寺に入れられることが決まったわ。でも、千幡様は尼御台様の死を知ってから寝込んでいるらしいの。まだ母に甘えたい年頃だから当然よね」


「どこの寺か調べろ。千幡が殺される前に奪う」


 俺は帳簿を取り出すと、坊主を抱き込むのに偽銭をいくら寄進するか考えた――。

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