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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
伍の元老 比企藤四郎能員
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第41話(1200年9月) 「テロ活動」

◇◇八田筑前守知家視点◇◇


 大倉御所の中庭で比企藤四郎能員が白絹の袖をきらめかせながら、御家人を叱咤していた。


「池の水が無くなっても構わぬ! 火が出た屋敷があれば速やかに消しに行け! 鎌倉を守るのは二代目と(われ)の使命である」


 比企はここにきて大将としての風格を一段上げたようだ。見た目の華やかさに釣り合う威厳が備わりつつある。それに引き換え北条は姑息な男よ。

 わしが常陸国で悪禅師を殺して戻ってくると、わしの屋敷が燃えていた。他の御家人たちも大倉御所や北条邸に詰めているため、屋敷を燃やされているらしい。下手人はわからぬというが、北条に決まっておる。


 回廊から尼御台が歩いてくる姿が見えた。御家人たちは一礼をする。


 あの御仁が止めさえしなければ、すぐにでも北条を討ちにいけるのだが……。

 尼御台は大倉御所と北条邸を毎日のように往来している。このまま争いが起きなければ、北条に巻き返す時を与えてしまう。


 それと、この瓦版とかいう代物。『頼朝の呪いか? 幕府元老六人が連続死』。読むと六人の死者の中に比企の名があった。比企は「呪いも内容も偽りだ」と一笑に付していたが、わしは気味が悪かった。



 尼御台を見るといつもと違う点があった。後ろに大江広元が付き従っているのだ。


「大江よ。おぬしの知恵でも比企か北条で迷っておるのか?」


「どちらにも加担しません。確かめたいことがあるゆえ、尼御台様のお側にいるだけのこと」


「ふうん、そうか。ところで元陰陽師殿。頼朝公の呪いはあると思うかね?」


 瓦版を大江に見せると、無表情な顔で言った。


「――呪いには、まだ足りない」


「何が足らぬのだ? おい!」


 その問いには答えず、大江は回廊の奥へと消えていった。



◇◇北条四郎時政視点◇◇


「比企がこの機に乗じて攻めてくるかもしれぬ。おのおの方、油断召されるな」


 北条邸に味方として馳せ参じた御家人に指示を与えると、奥の間に入った。食膳が二つ用意されている。わしと悪禅師の分だ。


 悪禅師・阿野全成が御家人を熱心に説いて回ったおかげで、味方と敵、日和見の御家人を知ることができた。斬られてしまったが、生きていてもいずれわしが殺していた。千幡を将軍にした後は、藤四郎のように邪魔な存在になる男だ。


 その後、わしは御家人を集め、二代目派と千幡派の対立を表面化させた。残念ながら、わしより、二代目と藤四郎のほうが人望があるようだ。集まっている兵を比べると、向こうが五百、こちらはその半分だ。わしの味方を増やすにはもう少し時がいる。


 だから、政子を使い、和睦を進めている。お互いの兵を退かせて、一度仕切り直しをすれば、必ず形勢を逆転してみせる。そう考えていたが、この放火騒ぎ。藤四郎め、有利なうちに戦をしたがっている。政子にもうひと踏ん張りしてもらわねば。


 気が付くと、膳の品をすべて食べてしまっていた。食欲は気力の源だ。まだまだわしは諦めぬ。


「悪禅師の膳を陰膳にしないとな。死者には不浄だ」


 悪禅師の膳にある猪肉を箸でつまむと、口に放り込んだ。



◇◇梶原平三景時視点◇◇


 今日も義経兵が瓢箪爆弾を御家人屋敷に投げ入れる。捕まらないことを第一にしているので、実力者の屋敷は避けざるをえない。


 それでもスカっとした気分だった。鎌倉には俺を弾劾した六十六人の屋敷がある。だから無差別と言いながらも、大抵の屋敷は復讐の対象なのだ。


 俺はキーマンを狙撃できないかと、旧上総介邸の屋根から見張っていたが、比企も北条も二代目も外へ出てくる気配すらない。狙えるのは大倉御所と北条邸を頻繁に行き来している政子だけだった。


 薫はおとなしく後方支援をやっている。昨日、どうしてもといって聞かないので、政子の狙撃をさせたが、結局撃つことはできなかった。


◆◆◆◆昨日の回想


 旧上総介邸の屋根で薫は銃を構えていた。俺は火縄に火をつけてやる。


「奥からやってくる輿に乗っているのが政子だ。ちょうどいい。御簾をあげていて顔も見える」


「――ねえ、聞いていい? 尼御台様を撃つことは、いいことなのよね?」


「いいや。鎌倉は混迷し、争いが起こる」


「それは武士同士の話でしょ? 民にとっては――」


「巻き込まれて死ぬ民もいるだろうな」


「じゃあ、何のために撃つの?」


「人々を不安にさせ、不幸にさせ、世を乱すためだ」


 薫の息が乱れている。


「だから外道の作戦と言ったんだ。薫には無理だ。やめよう」


「いや、やるわ。テロリ様の役に立ちたい」


 薫が深呼吸して銃を構えなおす。しかし、すぐに息が荒くなるのがわかった。涙声に変わる。


「お願い。御簾を下げて。顔を見せないで。だったら撃てるから。お願い! お願いだから!」


 パ――ン! 銃声が響き渡る。


 だが、政子の乗った輿に何も異変は起こらず、そのまま射程外へ去って行った。

「ごめんなさい」と一言謝ると、薫はしばらくうなだれていた。

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