第40話(1200年9月) 「鎌倉の異変」
◇◇梶原平三景時視点◇◇
潜伏場所である相模国一宮の隠し村で帳簿を書いていると、薫がのぞき込んできた。
「かなり銭を使ったなあ」
播磨国からペリー号のような大型船ではなく、中型船で相模国に向かったため、行く先々で舐められた。水軍や海賊から通行料という名のカツアゲをされたのだ。
「偽銭だからいいじゃない?」
「それでも播磨の銅は使っている。バラ撒くのはいいのだが、手元に物も残らないとなると惜しい気がしてな。まあ、ただの貧乏性だ」
苦笑する俺に、薫は密偵が拾ってきた情報を教えてくれた。
「悪禅師が捕まった?」
「頼家様への謀反の罪よ。千幡様を三代目にさせてほしいと言って、御家人の家を周っていたんですって。捕えたのは八田筑前守知家。常陸へ流罪になるそうよ」
常陸は八田の地元だ。悪禅師は恐らく殺されるだろう。
悪禅師というのは二つ名で、名は阿野全成という。頼朝の異母弟で、義経の実母兄だ。これで義経以外の、頼朝の兄弟すべてが天寿を全うできなかったことになる。さらに言えば、今生きている頼朝の息子や孫も天寿を全うできない。
救いが無い。頼朝は憎かったが、ここまでだと、ざまあ、というより気の毒になる。
「千幡様は北条が守っているわ。それで、大倉御所と北条屋敷に御家人が集まって、鎌倉は騒然としているわ。それを納めようと尼御台様が奔走しているという噂よ」
千幡はまだ八歳だ。謀反の意味さえ知らないだろう。だが、政子の動きは迷惑だ。こちらとしては、内輪揉めは激しいほどいい。
両陣営の関東における実力を書き記してみる。
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■源頼家、比企能員陣営
比企能員 信濃国20万石、上野国25万石
八田知家 常陸国27万石
武田信光 甲斐国12万石
計84万石 動員兵力2万1000人
■北条時政陣営
北条時政 遠江13万石、駿河8万石、伊豆4万石
安達景盛 参河国15万石
計40万石 動員兵力1万人
■浮動票
三浦義村・和田義盛 相模10万石、上総20万石
御家人多数 武蔵国 33万石
✖千葉常胤 下総国 19万石 老齢
✖小山朝政 下野国 19万石 死亡
計101万石 動員兵力2万5000人
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あくまで、自分の守護国へ戻り兵を集めた場合だが、参考にはなる。✖は戦が起きても参加できる状態ではない国を現している。
比企陣営の戦力が倍はあるが、浮動票の行方によっては北条が勝つことも充分ありえる。悪禅師を犠牲にしてまで根回しをした北条か? 頼家を擁する比企か? 想像するのは楽しいが、俺が考えなければならないのは、そこじゃない。
義経から借りた十人を呼ぶと、鎌倉中の屋敷に瓢箪爆弾を投げ入れるよう命じた。恐怖と不安を高め、不測の事態を引き起こさせる。
火縄銃を背に縛り、短筒を手に取る。
「俺が狙撃するから、薫は茂みに隠れて支援しろ」
「狙撃ならいっぱい稽古したわ。私にやらせて」
「ダメだ。この作戦は無差別テロという外道の作戦だ。そして、俺が狙う相手は、薫には撃てないし、撃ってほしくもない」
「誰なの?」
「子の争いを止めるために、必死に頑張っている母親だ」




