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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
伍の元老 比企藤四郎能員
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第38話(1200年8月) 「戦略」

◇◇梶原平三景時視点◇◇


 魚住泊から、瓦版と偽銭を積んだ船が次々と出港していく。上手くいけば二カ月後には米を満載して帰ってくるだろう。千の募兵もすでに終わり、偽守護代の室平重広(シゲ)が練兵を始めていた。これに参河兵三百を加え歩兵の中心にする。騎馬隊はまだ百騎のままだ。


 船を見送った後、守護所で義経・重広・弁慶を集めて、今後の戦略を説明した。


「十月から一万の兵を集め、重広は山陽道から太宰府へ、義経は四国を攻略する。第二次平家討伐のルートとほぼ同じだ。あのときは七カ月かかった」


「僕は讃岐国と伊予国を一カ月で落としたけどね」


 義経が得意げに四国北部を指し示す。

 源範頼の郎党として従軍していた重広がかぶりを振る。


「ちょっと待て! あのときの幕府軍は五万だぞ。兵の数も質も全然劣るではないか!」


「シゲうるさいよ。それよりも、幕府が指をくわえて見ているかなあ。それより、さっさと鎌倉に攻め込もうよ。敵の大将首取ったほうが早いって」


「もっと無理だ! 弱兵一万で幕府にかてるわけがない!」


「シゲは黙ってろ。義経、俺が源氏は北条に滅ぼされると言ったことを覚えているか?」


「でもずいぶん先の話でしょ。待ちきれないよ」


「早めてみようと思う。北条は二代目の排除を狙っている。機会が訪れれば、必ず動く。そうなれば二代目も黙っていない。というよりも、外戚の比企藤四郎が動く」


 義経が納得した顔をした。


「あー、それで瓦版に比企の名を書いたんだね」


「お前たちが西国を攻略している間、俺は鎌倉に行く」




 鍛冶工場では、偽銭造りから火縄銃造りにシフトしつつある。すでに百挺の銃が積まれていた。手招きする陸丸の元に行くと試作品がいくつかあった。すでに助手と化している三人の女子の一人、(うるみ)が通常の半分の長さの火縄銃を俺に手渡した。


「優しい銃です。弾が一回り小さくて、近くで撃たないと命は奪えません。その代わり片手で持てるんですよ」


「これも八連弾倉(レンコン)がある! それに銃身に龍が彫ってある。めっちゃ、カッコいいじゃん!」


「うれしい! 私が彫ったんですの」


 潤が顔を輝かせて喜んだ。それで、俺に手渡してきたのか。


「薫ちゃん用には梅の花を掘ったんですのよ。それに陸丸さんには揚羽蝶。それに――」


 次々と見せてくる。どれも悪くない。センスがある。面コレクターの俺にはわかる! この娘は伸びる!


「俺の屋敷にある倉の鍵だ。中には運慶・快慶もいる慶派に作らせた面がある。見て勉強するといい」


「ちょっとお館様! 姫の手を握るのを止めてくれる。それに姫たちには新兵が入ってきたら火縄銃の扱いを教えるって役目があるんだからね」


「すまん。才能との出会いに、嬉しくなっちゃってさあ」


「こんなに褒めてもらえたのは初めてです!」


 潤が俺の手を握り返してくる。これ以上いると陸丸の機嫌を悪くしそうなので、俺は陸丸が作ったいくつもの試作品を葛籠に詰め込んで鍛冶工場から退散した。


 版木小屋まで行く途中、銃声が聞こえた。薫が稽古しているのだろう。しかし、鎌倉には連れていけない。敵の本拠地だ。危なすぎる。俺は義経隊から十人前後借りていくつもりだ。


 薫を説得しようと銃声の方向へ行く。しかし、辺りを見渡しても誰もいなかった。周りを見渡していると、草むらからいきなり人が現れたので驚いた。


「どう、わからなかったでしょ? 伏せ撃ちを稽古していたの」


 草色の小袖を着た薫が得意げに胸を張った。迷彩とまではいかないが、パッと見はわからなかった。火縄銃の先には安定させるための二本の脚がついている。


「危険には近づかないわ。お願い。鎌倉に連れて行って。必ず役に立ってみせるから」


「――離れた場所からの狙撃しかしないと約束できるか?」


 薫は大きくうなずいた。


 鎌倉に行けば最低でも二カ月は帰ってこれない。向かう前にやらなければならないことはまだあった。瓦版の次号と次々号の原稿を書いておかなければならない。



 翌日、版木小屋に行き、達爺に次の原稿を渡すと、目をむいて驚いた。


「これは――真ですかの!」


「乞うご期待だ。これも頼む」


 もう一枚の紙を達爺に渡した。こちらには文字だけではなく絵図も描いてある。



「さあ、テロリストの仕事をしに行こうか」


 俺と薫、義経配下の十人は鎌倉へ向けて出港した――。

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