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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
四ノ元老 善信入道
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第32話(1200年7月) 裁けぬ者 裁かれる者

◇◇善信入道視点◇◇


 わしの前に上皇が来た。牛頭馬頭、零夜叉が互いの主人を守るよう側に立つ。


「静御前を連れてゆくことは朕が認めない」


 これまでずっと朝廷は捜査への協力を拒否してきた。今もまた邪魔をするつもりか? 


「ここは朝廷ではありませんぞ、陛下。わがままは通りませぬ。第一、京都守護の許可なく、平安京を出られては困りますな。乱の元だ」


「帝が臣に伺いを立てる? あべこべだ。理に合わぬ」


「幕府の理ではそうなります。拒むなら力を行使せねばなりません」


「ふ、ふ、ふ、わかりやすい。武を持って従わせる。実に単純明快だ。天孫降臨依頼、朕の祖霊たちもそうやって国を大きくしてきた。しかし、公家たちは武を怠たり、結果、武家が台頭した」


 上皇の言う通りだ。公家たちが顔を伏せる。


「朕は神器に認められるまま即位した。兄である安徳天皇が崩御した後、戻ってきたのは、八咫鏡(やたのかがみ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の二つのみで、天叢雲剣あめのむらくものつるぎは海深く消えた。


 朕は幼きころ、神剣に認められていないことに思い悩んだ。欠けている天皇だと。欠けたものを埋めようと、武に励んだ。神剣は武の象徴だからだ。だが、ある日、間違いに気づいた。(神剣)に見放されたのではなく、朝廷が武を捨てたから武が怒っているのだと。朕は正さねばならばない」


 上皇は何を言おうとしている。静御前の話だったはずだ。


「善信に命ずる。将軍家を京都に移せ。誤解するな。朕は争うつもりはない。武は朕の手元にあるのが本来の姿なのだ。そうすれば、神剣も海中から姿を現すであろう」


 わしは上皇に気圧されていた。堂々と幕府に対して従えと言っている。上皇はテロリストより危険だ。


 二階堂が小声でわしに言った。


「善信、ここは退きましょう。下手に動けば大乱を引き起こすわ」


「静御前はテロリストを知っておる。正体はもしかすると、小山朝政ごときではなく――」


「言ったはずよ。上皇を裁くには万の兵が必要だと」


「――いや、竜宮屋を囲んでいる今ならば大乱の前に上皇を捕えられる。島流しにできれば、最高の見せしめだ。公家も二度と幕府には逆らうまい」


「――忠告しても無駄のようね。アタシは降りるわ」


「おい、どこへ行く。幕府を裏切るのか!」



 二階堂は一人で楼門から出て行った。度胸のない男だ。ここはわしの勝負所だ。退くわけにはいかぬ。


「上皇陛下。しばらくの間、寺でお過ごしいただこう。牛頭馬頭、陛下をあの迎え船(証拠品)にお連れしろ」


 上皇は零夜叉を手で制すると、足幅を拡げ、両手を胸の高さに構えた。戦う気か?


「仕方あるまい。陛下は大酒に酔われて乱れておる。怪我の責任はわしが取る。やれ!」


 牛頭馬頭が筋肉を盛り上げて襲い掛かる――しかし、当たらない。上皇は駒のように回りながら避けるのだ。素手での戦いは慣れていないが、牛頭も馬頭も十人力の武士だ。それが――。


 上皇が脚で牛頭の顔を蹴り上げ、馬頭の顔を蹴り下ろすと、二人はグニャリと地面に崩れ落ちた。上皇は肘や肩をさすっている。信じられないことだが、その程度しか痛みしか受けずに倒したのだ。


「零夜叉! 朕に(つぶて)を当てるな! 今は稽古ではない」


 上皇は零夜叉を睨んだ。まさか、牛頭馬頭の打撃では無かったというのか……。


「――善信入道。朕に対する謀反の罪により、死罪に処す。申し開きはあるか?」


 裁くというのか? 問注所執事たるこのわしを! 裁くのはわしだ!


 零夜叉がゆっくりと近づいてくると、頭を楼門のほうへ、クイッと振った。


「外に出るまでは零夜叉は刑を執行しない。遊女屋の中を穢すのは、色里の法に背く」


 何が色里の法だ。何が死罪だ。竜宮屋の外には太刀を持った兵が250もいる。零夜叉の存在が不気味だが――。


「朝敵になりたくば残れ! 朕が死を授けよう!」


 上皇が大喝すると、兵がざわめき、櫛の歯が抜けるように減っていった。


 行くではない! このままでは、上皇を捕まえられぬではないか!


 振り向くと、兵は50人まで減っていた。わしは失望と同時に覚悟を決めた。


「残念でしたな、陛下。兵は減りましたが、残ったものは陛下を恐れぬ強者たちです。ここからは裁きではない! 戦である! 零夜叉、わぬしがいくら強かろうとも一人で陛下を守れまい。幕府に戻ってこい」


 上皇と零夜叉は少しも動揺を見せない。なぜだ? 勝てるというのか!


「善信入道、後ろをよく見るのだ」


 わしは振り向いて気づいた。


「菊の紋。この武士たちは――西面の武士!」


 メキリという音とともに、わしの景色がぐるりと回った――。




◇◇梶原平三景時視点◇◇


 江口の色里から一里離れた河原で、俺は善信入道に銃口を突きつけていた。


「頼朝公の命により、お前を誅殺する!」


「首が後ろ向いてしもうてるのに、何を言うてはるんですか」 


 藤原高衡の言う通り、昨日、善信入道は零夜叉に首を折られて死んだ。目の前にいるのは死体である。


「やかましい。儀式みたいなものだ。だいたい、お前が邪魔しなければ、生きている二階堂に今の言葉を言えたんだ」


「二階堂様は半妖とか呼ばれてますけど、根はええ御人です。殺すんやなくて、話せばきっとええようになります」


 昨日、二階堂が一人で竜宮屋を出たとき、俺は薫を連れてやつを追った。そして、やつを照準に捕らえたとき、高衡が側に駆け寄り、射線を切ったのだ。それから高衡はやつをかばうようにして、迎え船に乗せ、送り出した。


「ところで、善信はんの罪は何ですか?」


「昨日と似たようなものだ。聞きたいか?」


 うなずく高衡に、俺は善信との過去を語った――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさに天誅、ですな。 坂東武者がコロコロされると気分爽快この上ない。東国国家死ぬべし慈悲は無い。
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