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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
四ノ元老 善信入道
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第29話(1200年6月) 容疑者

◇◇善信入道視点◇◇


 京都守護所の居間に戻ると、朝廷との交渉のイライラから、わしはオウムに八つ当たりした。


「島流しにしてやろうか!」


 イヤダ! イヤダ!


「よし、よし」と、罪人役を演じたオウムに木の実の餌をやる。


 シマナガシ! シマナガシ!


 言葉を覚えてしまうほど、オウムに八つ当たりしているのか。わしは苦笑した。

 改めて京都での捜査の難しさを感じる。

 朝廷が宮城内での聞き取りを拒否するのは我慢しよう。腹立たしいのは播磨国守護・小山朝政のことだ。「疫病にかかりし不浄なる者を、平安京に入れてはならぬ」と、小山の召喚に横槍を入れてきた。そして公家どもは「正四位より上の朝臣は武家には裁かせぬ。疑うことも許さぬ」と、露骨に態度で示してくる。やはり、軍で脅さねば難しいか――。


「中原は、そのへん上手くやっていた。だが、わしは器用ではない」


◆◆◆◆


 朝廷にいたころ、わしと寂忍は検非違使で同僚だった。互いに法律論を交わし、秩序ある社会を語って飲み明かした。しかし、平清盛の義弟である平時忠が検非違使別当になってからは、検非違使が政治の道具に変わっていった。平安京のいたるところに赤禿と呼ばれる放免を放ち、政敵に無実の罪を着せていった。大体、時忠からして二度も流罪になった政治犯だ。


 そして、わしが平家の罪を裁こうとすると、必ず握りつぶされた。まさに、「平家にあらずんば人にあらず」だ。時忠は不正を悪びれもしなかった。


 わしは検非違使の変わりように絶望して出家した。中原は憤慨しながらも「時忠が憎いからこそ、時忠から学ぶ必要がある」と言い、検非違使に残った。


◆◆◆◆


「つまるところは武力の裏付けがなければ、誰も裁けないということだ。三千、いや、小山朝政を討つことになれば五千……」


「上皇を裁きたいなら一万は必要ね」


 顔を上げると二階堂が柱にもたれかかって立っていた。


「前内大臣の牛車を見つけたわ。あの野菜売りの目が正しければだけど」


「愚者の目は、智者の言に勝る。間違いはない」


 野菜売りとは城長茂の乱の当日の目撃者である。乱の最中、朱雀大路で牛車が物取りに奪われた。とびきり豪華な牛車の中から転げ出たのは、白い狸のような公家で、ほうほうの体で宮城に逃げていったという。前内大臣に違いない。女を乗せた牛車は戦いのあった六条に向かい、一刻後に戻ってきた。これは兵の目撃談とも符合している。


 物好きな野菜売りは、今日は商売にならないと朱雀大路で戦見物を決め込んだ。そうしたら、なんと牛車は賊とともに宮城のほうへ向かい、さらに一刻後、宮城から再び賊と出てきた。上皇の言葉を信じれば、この間に北面の武士はみなごろしにされたことになる。


 なぜ、牛車が必要だったか? 公家を人質としてさらうためか? いや、そうだとしたら、牛車を奪うときに前内大臣を取り逃がすはずはない。


 人質ではなく、平家討伐の綸旨を出した以仁王(もちひとおう)のように、親王の一人を反乱軍の大将とするために、平安京の外に出したということは? いや親王はまだ三つ。大将などありえない。


 わしの推論はここで行き詰まっていた。そんなときだ。江口の色里の噂が聞こえてきたのは、新しく店を開く竜宮屋の女主人は前内大臣・土御門通親の妾で、伝説の白拍子・静御前だという。はじめて耳にしたときは、ハッタリを効かせすぎだと大声で笑った。内大臣はすで生きておらず、静御前が姿を消したのは十五年も前のことだ。誰も証明できないのをいいことに、好き勝手に嘘をついているとしか思わなかった。


 だが、遊女屋じゃありえない豪華な館と、前内大臣の遺品を使った迎え船という噂を聞くと、もしかしたら、という気になってきた。土御門家はきっぱりと否定しているが、逆に怪しく感じてきた。そこで、二階堂と牛車を何回も見た野菜売りに確認させに行かせたのだった。



「竜宮屋にお金を出しているのは、土御門家ではないわ。ゑびす屋よ」


「ああ、奥州の貿易王子か。儲けておるらしいな」


「今は播磨の貿易王子よ」


「小山の守護国か……。やつがテロリストなのか?」


「坊やは臆病な子よ。そんなタマじゃないわ」


「ではやはりテロリストの正体は小山だ。小山を呼べぬなら、ゑびす屋を呼び出すか」


「あの坊やは勘がいい。きっと逃げるでしょうね。こちらから行くしかないわ」


「京都守護所の兵は五百。半分を残せば二百五十。取り逃がすかもしれぬ」


「いいじゃない。そのときは小山朝政をテロリストとして攻めればいいだけ」


 シマナガシ! シマナガシ!


 オウムが木の実を平らげていた。



◇◇後鳥羽上皇視点◇◇


 建礼門の前では、新しく選ばれた西面の武士たちが棒を持って打ち合っている。教えているのは、零夜叉(足立遠元)だ。言葉は発することはない。打ち合う、棒を交わしながら歩き、指から小石を飛ばして、いたらぬところを指摘する。

 

「なぜ、後ろからの棒をよけられる?」


 零夜叉は黙って、庭まで朕を案内する。枝を拾って、池を突いた。


「……師の一人だ」


 池をのぞき込む。鯉が多いが、零夜叉は小魚を狙って何度も突き、そのたびに小魚は逃げていく。


「小魚をつく場所が少し後ろではないか?」


 零夜叉は問いに答えずに何度も繰り返す。


「――そうか、魚は見えぬ背後からの攻撃を避けている。それを言いたいのだな」


 零夜叉は水面から魚まで最も短い角度で刺す。小魚は枝に刺さっていた。


「水の動きで察しろということか。だが人は水の中にはおらぬ」


 零夜叉は懐から貝殻を出すと中にある油を朕の腕に塗った。肌がひんやりとして、身体を動かすと冷たさが増す。


「なるほど! 風を感じる! 人は風の中で生きている。そういうことだな」


 零夜叉はうなずいた。


「ところで静御前の話は聞いたか? 朕は伝説と呼ばれた舞を見てみたい。そちもついて参れ」


「……あの女は風の中を泳ぐ」


「それは凄い。風を学べそうだ」


 零夜叉はふわりと跳躍すると舞うように蹴りを放った。

 負けず嫌いな男だ。朕はクスリと笑った。

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