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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
四ノ元老 善信入道
29/61

第26話(1200年4月) 静御前

◇◇梶原平三景時視点◇◇


 高衡邸の長い回廊をドスドスと音を立てながら歩いていく。


 ああ、どうせ俺はクズだよ! だが、静御前(あの女)がベストなんだ。


 俺と義経のやり取りを見ていた藤原高衡が、既存の遊女屋を買い取りまっか? と言ってきたが断った。俺が求めているのは貴族(VIP)相手の高級店だ。簡単に買い取れるような大衆店じゃ、情報収集の目的を果たさない。


 静御前と義経が仮住まいをしている、離れの屋敷が見えた。足が重くなり、立ち止まる。そう、俺は静御前(あの女)が苦手なのだ。さて、どうやって説得したものか? 


「テロリ様!!」


「うぉっ!! 後ろから声をかけるんじゃない、薫!」


「菊ちゃんと亀ちゃんを助けて!」


 薫をはじめ、お菊とお亀は安達藤九郎盛長の元妾だ。二人ともいい子でトラブルに巻き込まれることなどなさそうだが……。


「憧れの静様に会いに行くと言ってあの屋敷に入ったきり出てこなくて……、中からは静様がお怒りになる声が――」


 マジかよ……。機嫌が悪いじゃん。出直そうかな。


「誰も見捨てないって言ったわよね!」


 いや、言ったけど、それはもっと深刻なときの話でさ。女のモメ事までは……。


 薫に引っ張られるように戸の前に立つと、「義経、静、一緒懸命(いっしょに命を懸ける)」と書いた紙が貼ってあった。愛が重いよ、こえーよ。

 そーっと開けると、救いの神が現れたかのように、お菊とお亀が泣いてすがりついてきた。


「大丈夫か! おい、静御前。この子たちに何を――ヒィッ!」


 目の前にムチを持った鬼がいた。


「稽古の邪魔ぁ―――!」


 顔面に一撃を喰らい、俺は気を失った――。



 気が付いた時、回廊から静御前に見下ろされていた。静御前の横には、お菊・お亀・薫がうつむいて正座していた。なんで俺だけ地面なんだ。


「あら、生きてらしたの? 残念だわ。埋めやすいように庭に寝かせたのに」


「あのなあ……」


「用があるなら手短にしてくださる」


 まあ、ちょうどいい。土下座をすると一気に言った。


「江口で遊女屋をやってくれ! 天下を取るための情報が欲しいんだ! 貴族を呼ぶためには最高の芸を見せる必要がある。力を貸してくれ!」


「――わらわに義経様の側を離れろと?」


「二年、いや一年でもいい!」


「――大嫌いな男の頼みを聞くとでも?」


「そこを曲げて頼む! 条件があれば何でも聞く」


「ふうん――なら、引き受けても良くってよ」


「おお! 真か! 条件は何がいい?」


「大嫌いな男への願いなんて一つしかないわ――二年後、義経様の前から消えること。死んでくれたら最高だわ」


「――わかった。条件を飲む」


 即答すると、薫たちの身体が硬直するのがわかった。

 静御前の顔がゆがむ。


「そういうところが嫌いなのよ!」




 静御前が離れの屋敷の中に消えると、薫たちが集まってきた。


「あんなこと約束しちゃって、大丈夫なの?」


「この話は他言無用。いいな」


 元老を倒し、名誉を回復できれば、後はどうなってもいい。



◇◇◇◇


――一カ月後


「わらわがやるからには貴族でも物足りない。上皇や将軍が通うような店にしてみせますわ」


 そう言い残し、静御前は江口の色里に旅立っていった。驚いたのは、ひどい目にあったお菊とお亀がついていったことだ。薫の話では、静御前が播磨国内から白拍子候補を集めたときに見せた演舞に感動し、「天女のような舞ができるのなら、荒稽古にも耐えられる」と言って決めたそうだ。


 静御前を見送った義経がそばにきた。


「静に何を話したの? 僕は行かなくていいって言ったのに」


「ははは、知りたいか? 天下を取ったら教えてやるよ」


 不思議がる義経の頭上で、俺の嘘を叱るようにカラスがカァ一と鳴いた。

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