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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
四ノ元老 善信入道
27/61

第24話(1200年4月) 播磨国守護代 小山重広

◇◇梶原平三景時視点◇◇


 播磨国国府は飾磨郡(姫路市)にある。国衙(こくが)(政庁)の隣の守護所には播磨国の地頭が集められていた。上ずった声が広間に響く。


「やあやあ、我こそはー、守護代の甥の小山重広である。生まれは参河国――」


「……名乗りじゃないんだから。普通でいいんだよ」


 俺は小山重広こと室平重広の袖を引いた。顔はハットを目深に被り隠している。

 室平重広が小山朝政の甥というのは、もちろん嘘だ。すでに死んでいる小山朝政は流行り病で療養していることにし、代官として親族が派遣されたという筋書きだ。地頭たちは小山一族のことには詳しくないが、重広を値踏みをするように重広を見ていた。その中の一人が手をあげる。

 

「あのう、前守護が決めた『ゑびす屋』の株は廃止されるのでしょうか?」


 周りの地頭たちもうなずき、「ゑびす屋を取り潰しになったら、株証文が紙クズになってしまう」と騒ぎ始めた。


 俺は心の中でガッツポーズをする。

 よし! 俺の撒いた種は十年の間に、この地に根を張っていた。


 小山重広の耳元に返答内容をささやく。

 重広は咳払いして言った。


「えー、ゑびす屋は潰さないし、株証文も安堵する。あー、前と何も変える気はない。だから、めったなことがない限り、守護所に来ないでくれ。ゴホン、わしにも流行り病が移っているかもしれぬからな」


 ということで、流行り病(嘘)が収まるまでは、やりとりは文に限定することを決めて、地頭会議を解散した。義経と藤原高衡が待っている隣室に行くと、慣れない芝居に疲れたのか、小山重広は汗びっしょりになっていた。


重広(シゲ)、いや守護代殿、ご苦労さん。これで、しばらくは誤魔化せそうだ」


「何で某がこんな目に……。バレたら地頭が斬りかかってくるんじゃないかと思って汗が止まらなかったぞ。ゑびす屋の株証文とか、知らぬことを聞かれるし……。何の話だ、あれは?」


重広(シゲ)が乗ってたペリー号は五年で作りあげた。いくら、俺が有力御家人で、高衡が奥州藤原の財産を持っていたとしても無理な話だ。人手が足りない。技術が足りない。まず前提として鉱山、石炭、製鉄、鍛冶、木材、造船と様々な産業が必要になる。


 そこで俺は地頭に出資を持ち掛けた。といっても金じゃない。彼らも豊かじゃないからな。労役という形での出資だ。泰平の世になった今、もう戦で所領をもらうことはできない。商いの戦いに兵を出せ。出せば分け前を渡す、と。播磨が西国だったのも良かった。商売が身近なので、肌感覚で理解してくれた。東国だったら、胡散臭いと怪しまれて終わりだっただろう。


 高衡が工人を連れてきて、木材や鉱山など南宋に売れそうな産業から、手をつけて行った。一年後、地頭に人を出してくれた割合で利益を分配すると、参加しなかった地頭が乗り気になった。自然、産業発展の速度が上がっていく。


 製鉄でできた鉄は播磨国外に売り、鍛冶には農具を造らせ、配当として地頭に配った。播磨国は農業でも豊かになっていった――」


「ふーん。半分も意味はわからんが、頑張ったってことだな、うん。頑張るのはいいことだ」


 聞いといて話を打ち切るんじゃねえよ。それからが大変だったんだぞ。


 俺は時間を見つけては播磨国に来た。腕のいい工人に、蒸気機関やスクリュー、ベアリングなど、イメージを絵に描きひたすら伝え続けるためだ。技術知識があいまいだからそれしかできない。そのおかけですっかり絵が上手くなったが……。


「で、これからどうしはります?」


「地頭の集まりでわかった。彼らは株主という既得権益を手放したくない。守護代の正体がバレたとしても協力するだろう。幕府に密告したところで旨味は少ないからな。だが、いっしょに戦うかというと疑わしい。全てを失うと判断すれば鎌倉につく。味方にするには勝算と利益を彼らに見せなければならない」


「貯めた財産で兵をぎょうさん雇ってみてはどないですか?」


「兵はどのぐらい雇える富がある?」


 高衡がソロバンをはじきながら答える。


「一万人を三カ月間。近隣諸国から集める時間がかかるよって、動けるのは二カ月でんな」


 義経がパンと膝を叩く。


「それだけあれば充分だね。僕なら簡単に京を落とせる」


「却下。落とした後は? 略奪して兵を食わすのか? お前がボコった木曽義仲の二の舞になるぞ」


 義経はチェッと舌打ちをした。


「高衡、地頭に後戻りができなくなるほど出資したくなるような、商いはないか? 何か新しい商品を作るとか」


「南宋との取引は資源を売るだけでボロ儲けですわ。でも加工品となると、質も信用も南宋品にはかないまへん。貴族も舶来品を好みはりますよって」


「鍛冶で開発した、鉄製品はどうだ? 金属加工技術なら南宋にも負けない。鉄砲を作って売るってのは? ゑびす屋の独自商品だ! 武器商人は儲かるぞ!」


「やめておいた方がよろし。鉄砲は発想がええだけで、構造は簡単や。パクられまっせ。飛ぶように売れた石鹸も南宋の商人はすぐパクりよった。大体、何年かけるつもりでっか? 鎌倉を滅ぼすより先に寿命で死んでしまいまっせ」


 そうだ。悠長に時間をかけてられないんだ。



「お館様――! これ見てよ――!」


 アイデアが出ずに悩んでいると、陸丸が紙を持って飛び込んできた。話についていけなくて寝ているシゲにつまづいて転ぶ。陸丸の手から紙を取ると、京都の密偵からの報告だった。内容を読んだ俺はブチ切れた。


「ふざけんなよ! 北面の武士みなごろしは源テロリストの仕業だと! 俺が朝敵だと! 上皇め、俺たちに罪をかぶせてきた!」


「えらいこっちゃ! 朝廷も敵になってもうた! 源テロリストの正体がバレたら、すぐ攻めてきまっせ!」


「平三、やっぱ一万集めて都をやっちゃおうよー」


 俺の中で闘志が湧きあがってくる。


「それもいいが、せっかく国家の敵に認定してもらったんだ。テロリストらしいことをしようじゃないか」


「何をするの?」


 懐から銅銭の束を取り出して強く握る。ギャリッと嫌な音を立てた。


「この国の経済を破壊する――」

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