第20話(1200年3月) 院政
平安京の郊外の林の中。
上総介のことを思い出すと、いつも手を見てしまう。罪がそこにあるかのように。
木に縛られている中原掃部頭寂忍が、得意げに言った。
「上総介か。あのときは私が頼朝様から調査を一任された。思い出せ、私が弁護したからこそ、そなたは忠臣となり罪を受けなかったのだ」
「俺は罪を受けたかったんだよ! あの後、俺が誤って殺したとどれだけ訴えても、お前は取り合ってくれなかった。そして、上総介一族も謀反者として処罰され、所領は三浦介義澄の預かりとなった」
「忘れてもらっては困るな。上総介の罪も後に晴らしてやったではないか」
「平家を滅ぼした後でな! 上総介は冤罪となり、名誉は復活した。だが、そのころには上総介の一族は衰え、関東の小豪族の一つになっていた。智者を気取っているが、お前の知恵は悪知恵だ。そんな頭脳は吹っ飛ばしたほうがいい」
銃の火縄に火をつけると、寂忍の頭に銃口を向ける。
寂忍が俺を睨みつける。
「愚か者め。しょせん開拓民の末裔だ。頼朝公にしてもそうだ、野犬の頭でしかなかった。京都に幕府を移さず、朝廷を御すだと? 外戚になるだと? 頭がおかしい。関東から動かぬだと? 私は頼朝公を野犬の王にするために、身を捧げたのではない!」
「それだけ自白すれば十分だ」
「不満だけで殺すのか! 反対だけで殺すのか!」
「上総介もそうしただろうが!」
銃声が林に響き、寂忍の頭が砕けた――。
◇◇◇◇
三日後、俺たちは摂津国の大港・渡辺津でペリー号の出港準備をしていた。陸丸が牛車を吊り上げて搬入している。内大臣が使っていた物なので、惜しいのはわかるが、牛車なんてものは、平安京のような整備された道路があってこそ、役に立つものであって、地方都市程度じゃ、無用の長物だ。
「いい子よ、陸丸くんは」
黒髪をポニーテール風にまとめた女が声をかけてきた。参河国で救った安達藤九郎の六人の妾のリーダー格で、薫と言った。宝塚の男役のような凛々しさがある。
「戦いに巻き込んで悪かったな。銃まで使わせて」
「銃の扱い上手かったでしょ? 陸丸くんがみんなに教えてくれたの」
「また、いいとこ見せようとして……」
「そうじゃないわ。こっちからお願いしたの。戦いの役に立ちたいって。ここって、テロリストとかいう名の反乱軍なんでしょ。何もしなければ捨てられちゃうわ」
「俺は誰も見捨てはしない」
薫は真っすぐな目で見つめてきた。
「いい人ね――みんなにも伝える。きっと安心するわ」
ペリー号の甲板から声がする。
「お館様――っ! オイラの姫たちにちょっかい出しちゃダメ――っ!」
俺と薫は目を合わせて笑った。
義経に会いに行くと、義経が平安京に置いてきた密偵が戻ってきていた。
「平三、あの日から小山朝政が姿を消したらしいよ」
「きっと、死んでいるな。上皇は約束を守る御方のようだ」
「そして、恐ろしい」
「どういう意味だ」
「姿を消したのは小山だけじゃないよ。内大臣・土御門通親もだ。さらに、北面の武士が全員殺された。上皇は新たに西面の武士を作るらしいね」
足立遠元の仕業だ。というか、やつにしかできない。
「土御門通親が死ねば、上皇に意見する者がいなくなる。北面の武士も一新した。これからは強力な院政が行われる」
「おもしろくなってきたね」
頼朝の誅殺状を拡げる。
三浦介義澄、安達藤九郎盛長、中原掃部頭寂忍の三人の名は、彼らの血で消されている。
残るは九人。すべて消したとき、頼朝様の命令と俺の復讐が終わる。
そのとき、俺は上総介のように強くなれているだろうか?




