第14話(1200年3月) 陸丸と牛車①
◇◇梶原平三景時視点◇◇
俺は銃の照準を向かってくる兵から、奥にいる大江広元に移す。
二代目の前で俺を見捨てた、あの顔を忘れはしない。
銃口が火を吹く。しかし、大江広元に異変は起こらなかった。
くそっ! 距離が遠い。もう一度!
銃声が鳴る――だが、倒れたのは隣の武士だった。
「お館様、どうしたのさ。急に当たらなくなったじゃないか。しっかりしてよ!」
「早く次の銃を寄越せ。敵の大将を打ち抜いてやる!」
「大将だって? あんな遠くの敵に当たるわけないよ! 向かってくる敵を撃たないと、オイラたちが斬られちゃうんだよ!」
「わかってる! 次こそ当てる!」
「馬鹿お館! もう銃を渡さないぞ」
陸丸の悪態は俺の耳には入らなかった。呼吸を整え、血の激流を鎮める。
――南無八幡大菩薩。
集中力が極まったとき、俺は神の名を唱え、引き金を絞った。
この弾は必ず広元に届く。
確信めいた予感は半分当たり、半分外れた。広元に当たる寸前に、青白い影が広元の前に飛び上がり、銃弾を受けたのだ。広元は馬を返すと、護衛に守られながら後ろに下がっていった。
俺は拳を叩きつけ、次の銃を手に取ろうとした。だが、陸丸の姿は側には無かった。
「くそったれ!」
敵兵は目前に迫っていた。腹が立ったが、陸丸が怒って逃げるのも仕方ない。俺は牛車から飛び降りた。こうなったら、全力で逃げるだけだ。
パパパパーン!!!
幾つもの銃声が聞こえた。振り向くと敵兵がバラバラと倒れていく。
隣の牛車の後方から、安達藤九郎の妾たち6人が銃を構えているのが見える。
状況を理解できない俺の耳に陸丸の詫びるような声が聞こえた。
「ごめんねー、オイラの姫たち。贈り物の牛車に焦げ目がつかなかった?」
あのマセガキめ。牛車は女のために盗んだということか。
「さあ、姫たち。こんな怖い場所から逃げようねー」
陸丸は牛に鞭を入れて牛車を走らせた。
「おい! 陸丸! 俺も乗せろ!」
「定員いっぱいだよ。お館様は走って逃げて。姫たちを危険に合わせた罰だよ」
「何が姫たちだ。お前が勝手に連れて来たんだろうがあああっ!」
走りながら叫ぶ。もう反撃はないと思っただろう。道をふさぐほどの人数が追いかけてきた。
ゼイ、ゼイ、今日は何度目のダッシュだ。斬られる前に肺が破れて死ぬかも……。
そう思ったとき、後ろで雷が落ちたような音がして、俺の身体がフワリと浮いた。
牛車とともに前を走っていた陸丸が振り向いてニヤリと笑う。
「お館様、もう追手はこないよ」
俺の背後には粉々になった牛車と無数の死体が転がっていた。
◇◇◇◇
平子十郎は轟音から大江広元を守るように前に立っていた。右肩に受けた銃創を不思議そうに触っている。
「大江広元殿。あれは落雷……かのう?」
「いや、空は晴れている――術かもしれん。引き返して見てみたい」
「危険じゃ。雷相手ではわしでも守り切れぬ。京都守護所へ戻ってはどうだ?」
「無用だ。占いではこの地は凶と出ていない。むしろ凶と出ているのは――」
広元は最後まで言わず、口の端で笑った。
◇◇中原掃部頭寂忍視点◇◇
京都守護所に騎兵が侵入してくるのを、じっと観察していた。しかし、知っている将も郎党もいなかった。わかっているのは、敵の策に嵌まったことだけだった。密偵頭が退避を促してきたが、私はうなずかなかった。
「こちらの罠を読み切って、裏をかいてきた将だ。逃げても無残に殺されるだけだ。ならば、捕まったほうが活路はある。敵の狙いは私だ。そなたは隠れていれば助かる」
奇妙な面をつけた将が回廊に近づいてきた。
「落ち着き払っていて、つまんないなー。もっと悔しそうな顔をしてよ。勝った気がしないじゃないか」
「そうではない。感心していたのだ。卿の主は誰だ?」
「僕が主だ」
「ふむ。ならば、この乱はすぐ治まるな。卿の言葉は軽い。それでは誰もついてこぬ」
「――負け惜しみだね。ムカつくけど、あいつが殺したがっているから、我慢してあげるよ。弁慶、寂忍を縄で縛るんだ。痛いぐらい強くやって!」
まるで子供だな――しかし、この物言い、どこかで聞いた記憶がある。
「あいつとは何者か?」
「源テロリストさ」




