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梶原殿と12人  作者: キムラ ナオト
参ノ元老 中原掃部守寂忍
14/61

第12話(1200年3月) 中原兄弟

◇◇中原掃部頭寂忍なかはらかもんのかみじゃくにん視点◇◇


 六波羅・京都守護所の館。

 門から内大臣・土御門通親(つちみかどみちちか)の牛車が出るのを見送ると、無性に熱い茶が欲しくなった。


「ようやく話がまとまったな」


 源頼朝の死の前後、三左衛門事件が起きてから、幕府と朝廷の関係はこじれていた。そんな中、わしは朝廷との交渉役として京都守護に赴任した。そして粘り強い交渉の結果、状況は治まりつつあった。


「兄上、悪内府(土御門通親)を信じておいでで?」


 居間に戻ると、碁盤の前に座っていた大江広元()が聞いてきた。

 黙って弟の正面に座り黒石を置く。横を見ると熱い茶が立ててあった。頼朝公に長く使えていただけあって、気配りのできる弟だった。


「公家の言葉をまともに受け取るほど耄碌してはおらぬよ。だが、悪内府の欲望なら信じられる。彼奴が欲しているのは藤原北家が独占していた関白の座だ。そのためにはどんな手でも使うだろう。逆に平安京の外には興味が無い」


 今日の会談では幕府が土御門体制を保証することと引き換えに、三左衛門事件関係者の罪をほどぼりが冷めた後に赦免。事件の原因となった一条家は院の近臣に取り立てることで、手打ちが決まった。


「譲歩しすぎでは? 幕府の力をもってすれば朝廷など――」


 弟が白石を打った。ふむ、いい攻めだ。だがそれでは詰め切れぬ。


「誰が号令をかける? 誰も言うことを聞かぬ。将軍家(頼家様)か? (けい)の思惑はどうであれ、敵を知る前に仕掛ける気はない」


「後鳥羽上皇ですね」


「うむ。朝廷では悪内府が権勢を奮ってはいるが兵を動かすときは、やはり上皇が鍵だ。武芸狂いという変わり種らしいが――」


 黒石を打つ。弟は間を置かず白石を打ってきた。


「そう考え、あの男を近づけました。上皇も興味を示すかと」


 京都に来た目的はそれか? 弟の知はいつも急ぎすぎる。待つことを知らぬ。


「感心せぬな。その白石は我々の制御が効かぬ劇薬ぞ。いくら強い手であろうが、勝手に動く石を使ってはならぬのだ!」



◇◇梶原平三景時視点◇◇


 播磨国を出てから二日後に京都に着くと、平安京の外に兵を待機させ、人気の少ない右京から入った。目的の公家屋敷は左京の五条大路にある。しばらく駆けると平安京の中央を貫く朱雀大路に出た。徒競走ができそうなくらい幅のある、このバカでかい道を越えると左京に入る。


「ここからは歩こう」


「ハァ、ハァ……。そうだな、義経。平安京は広すぎる。空き地が多いんだから半分ぐらいにすればいいんだ」


「そうじゃない、視線を感じる」


迦楼羅天(かるら)の面をしているからじゃないのか?」


 そう言う俺もカウボーイハットを目深に被り、顔を隠していた。


「僕に対してじゃない。この区画を誰かに上から見られているような気がする」


「元検非違使(警察)の勘か? なら信じないとな」


 義経は源平合戦の一時期、京都の治安を預かる検非違使をやっていたことがある。


 歩いてくと、道を歩く町人が徐々に増えていくのがわかった。

 公家屋敷に入らずに通り過ぎてから、義経が言った。


「町人の配置、完全に密偵の監視下にはいっているね、しかも――」


 公家屋敷から出た雑色らしき男が、町人と話している。


「内通者までいる。きっと小山朝政襲撃や院宣の計画のこともバレてるね。だとしたら、越後守(城長茂)はまな板の上の鯉だ。いつでも兵で取り囲める」


「踏み込まないのは、武具を運んでくる高衡(たかひら)を待っているからか」


「たぶんね。寂忍はじっくり獲物を観察している。僕たちが会いにいけば、寂忍の手のひらの上で遊ばされるだけだ」


 俺たちは城長茂に会うのを諦めて、兵がいる場所へ戻ることにした。

 再び公家屋敷を通り過ぎるとき、義経がボソリと言う。


「おもしろくないね。寂忍の流れに乗るのは――皆、聞いて、全力で走るよ」


 なんで? そう聞く前に、義経は公家屋敷に向かって叫んだ。


「京都守護が城長茂を謀反の罪で捕えに参った! 覚悟せよ!」


 辺りの空気がピンと張り詰めるのがわかった。町人に扮している密偵たちの気配が変わったのだ。


 この野郎、急に始めるな! そう文句を言おうとしたが、義経の姿はすでに前にあった。俺も慌てて駆けだす。幸いにも密偵の注意は公家屋敷に向けられていた。


「ゼイゼイ……。ちょっと待て。お前らと違って俺は鍛えてないんだぞ。ハンデ寄越せ、 バカヤロー!」




 俺が息を切らせながら、兵が待っている京都郊外に着いたときには、義経たちはすでに鎧を着け終わるところだった。


越後守(えちご)を助けに行くんだな」


「馬鹿なこと言わないでよ。今頃、城長茂の元には京都守護の兵が向かっている」


「だから助けに行くんだろうが!」


 義経は俺の問いには答えず、馬に飛び乗ると合成(モンゴル)弓を持った騎兵100を率いて飛び出した。残された参河兵300の侍大将である室平重広が聞いてくる。


「テロリ殿、我らもカルラ殿の後に続けば良いか?」


「やつはどこへ向かった?」


「京都守護所」


 俺は唸った。京都守護所は普段なら兵がいて攻めることはできないが、今は兵が出払っている。討ち取るなら絶好のチャンスだ。だけど、それでは――。


「俺たちは越後守(えちご)を助けに行く。陸丸(ろくまる)、女と遊んでいて火薬が無いなんてことはないだろうな?」


「オイラに任せて。一晩中、撃ち続けても余るぐらいさ」


「調子に乗るな」


 俺は陸丸の頭を小突いた後、参河兵に進軍を命じた――。

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