2、鈴の音の声(後)
追われているということは、追ってきている人がいるってことだ。
僕は、僕の中の感覚を鋭くさせた。
倒れている鈴の音色の声の少女は、気絶しているだけだとわかった。
他にはケガ等をおっていないこともわかった。
とりあえず一安心だ。
次に、周りには人の気配はしないが、すごく遠くのほうですごく嫌な気配がこちらに近づいてきている。
この感覚は生きてきた中で感じたことのないものだ。
ドロドロと負の感情を煮詰めたような感覚。
これほどの感覚は生きてきた中では感じたことがなかった。
いかに犯罪を重ねた人だってこんな感覚はしない。
早くこの場から逃げなければ。
急いでこの鈴の音色の声の少女(次からは鈴の少女と言おう)を背負った。
なんというか、すごくいい匂いがしている。
背負うという密着状態だとなおさらこのいい匂いが僕をくらくらさせる。
もうちょっと匂いを堪能したいという気持ちをなんとか落ち着かせて、おっちらえっちら、足取りがおぼつかない感じで歩いた。
気絶している人を背負って歩くのは、いくら軽くても大変なんだ。
何度か背負っている少女が落ちそうになったが、気合でなんとか落とさないようにして頑張って歩いた。
でも僕が背負って歩くスピードなんて、亀ぐらいの速度だ。
いくら早く歩こうとしても僕にはむりだ、人として重大な欠点があるのだからしかたない。
ヒーヒー言いながら何分か歩いたところで気配がした。
とりあえずなんとか時間を稼ごう。
そうすればなんかいいアイデアが浮かぶはずだと判断して
「もし、助けてくれ。倒れている人がいたので背負ってここまで来たのだが病院なり医者なりのところまで案内してくれないか?」
声を掛けたが返事はなかった。
そうだろうな、とは思ったが、返事ぐらいしてくれてもいいものだと僕の心の中で悪態をついた。
てか、現代の日本社会では、「他人には優しくしましょう。」というすごくいい道徳があるじゃないか!
まぁ、優しくされたことはあんまりないけど……それでも、ここまで困っている人に手を差し伸べないのはどうかしている。
助け合いの精神すら失われてしまったら破滅しかないんだぞ!
と現代日本の道徳に関する怒りが心の中で渦巻いていくと、金属のような擦れる音が聞こえた。
すると強烈な痛みを胸に感じた。
「我の一撃を受けても生きているとは……その王女は渡してもらおう。あまり傷つけずに連れて来いとの我が主魔王様の命令なのだ。渡してくれるのなら……命まではとらない。」
と上品な言葉遣いだが、すごく不快な声で語りかけてきた。
胸ポケットに入れた携帯が壊れたのであろうことだけが伝わった。
幸い、急いでいたので胸のポケットに入れていてよかった。
すごくラッキーだと思った。
こういう運だけは先生にも褒められていたものだ。
てか、こんなことを言っているが、その声を聞いた限りじゃ、背負っている王女?なのだろう少女を渡したところで僕の命を摘み取るんだろうことはわかる。
僕はこの状況はどうしようもないものだと思い、背負っている鈴の少女を丁寧におろして、相棒の白い杖を正眼に構えた。
「ほう、我の威圧に対して向かってくるとは、それでもなんと嘆かわしい。そんな貧相な棒きれで我を倒せると思っているのか?我は四天王の一人バルザークなのだぞ!」
と言い終わるか終わらないかの隙だらけのところをとりあえずためしに攻撃してみた。
「イタッ、貴様!名乗っているのだから大人しく聞いていろ!野蛮な人種はいつもこうだ!」
とぶつぶつ文句を言っているポンコツな相手に対して、さらに攻撃をしようと思ったが。
突然すごい力によって僕は吹き飛ばされてしまった。
「ふははははは!さすがにこの攻撃を受けたら、いかにレベルの高い人種でもバラバラになっただろう。さて、王女をはやく魔王様のところに連れて行くとするか。」
むくりと僕は何ともないように装って立ち上った。
不意打ちとは……僕も言えた口ではないが卑怯だとおもった!
「こんな攻撃を受けたのは、先生との訓練以来だ。なんとか受け身だけはとったけど、次に攻撃を受けたら僕は死んでしまうだろうなぁ。」
とのほほんとした口調で僕は言った。
「バカな!受け身程度で我の肉体を強化した渾身の一撃【ギガインパクト】を受けてなんともないのか!?そんな人種がいるなんて聞いていないぞ!だが、次の攻撃を食らったらいくらレベルの高い人種でもおしまいだ!この攻撃は次から次へと倍々の力になっていく!いくぞ!【ギガセカンドインパクト】!!」
僕の肌を焦がすような膨大な力が襲ってきた。
だが、先生の本気の力に比べたらまだまだだな、と思った。
『無想杖術流一の型、【虚空残影】』
僕は先生と出会って杖術を習った。
先生は『無想杖術流』の師範で、よく僕を杖で殴っては殴って……殴られていた!
いや、稽古という拷問をしてくれた。
その成果で、僕は目が見えないながらも他の人より違うものをより鋭く感じ取れるようになった。
その稽古のなかでも比較的簡単な技を使った。
それが夢想流一の型【虚空残影】だ。
この技は、相手の攻撃をしようとした気配を感じて、相手の攻撃する意識の外から攻撃する技である。
人というか、生き物は何かを『行動する』ということに対してわずかに気配が変わる。
その間何コンマ秒かはわからないが、それは夢想流にとっては隙になる。
その隙を縫って高速で動いて攻撃するという至ってシンプルな技だ。
『虚空、何もない空間からの攻撃そして残影、残ったのは影しかないような速度で』だ。
「この技を体得するまでには……何回か生死を彷徨ったよ!平気で殺しにかかるんだもん!てか、この技が簡単だって言った先生がむちゃくちゃすぎるんだよ!平気で人を殺せるような攻撃をするんだから本当におそろしいよ。稽古を思い出してまた吐き気が……オロロロロロr」
と僕の嘔吐の音だけが聞こえた。
しばらくえっちらおっちら少女を背負いながら歩くと何人かの人の気配がした。
「もし、助けてください。倒れている少女がいたのでここまで背負ってきたのだが、病院なり医者なりのところまで案内してください。」
と言おうとしたら、周りからはやかましく声が聴こえた。
「姫様が…」「助かってよかった…」「早くお連れしろ…」とか聖徳太子でも聞き分けられないようなさまざまな安堵とも怒りとも憤りとかの声を浴びせられながら、背負っている人を注視する目線の気配を感じた。
「これはいったい…」
というやいなや背負っている人を無理やりはがされ、どこかに連れて行ってしまった。
別段悪い感情を感じたわけでもないので、そのままあれよあれよとなすがままにしていたら、固い床のところに僕は投げ込まれた。
そしてガシャンッ!という音とともに無音になってしまった。
「イタタタタ、一体全体どうなってるんだ?こんなカビ臭いところに投げ込むなんて!僕は怒ってるぞ!おーいだれかー!僕はどうなるんだー!」
と目の見えない僕に対しての扱いがあまりに雑なことに対しての抗議を延々大声で訴えたのである。
前後半で書いてみましたが、いかがでしたか?
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