表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
讃えよ、眼鏡を Ah───!!!  作者: ローリング蕎麦ット
1/10

第一話


 むかしむかし、あるところにクロードという青年がおりました。


 クロードの家は鍛冶屋でした。


 両親は早くに亡くなり、村の農具や工具を毎日毎日、ひとりで鍛えます。


 少年の頃から鍛冶場が遊び場だったクロードの腕は評判がよく、作った物は長持ちしました。


 そんな彼の楽しみは、森の修道院で暮らしているクリスティナとお話をすることです。


 クリスティナはクロードと同い年の修道女です。


 書物を読むのが大好きで、彼女の頭の中にはたくさんの物語が詰まっていました。


 古の聖なる物語や、星々の伝説、誉れ高き騎士の英雄譚。


 クロードは文字が読めないので、クリスティナにおはなしを聞かせてくれとよくねだりました。


 クリスティナもまた、クロードにおはなしを語るのを楽しみにしていました。


 そんなクリスティナには、悩みがありました。


 年を重ねるごとに、どんどんと文字がぼんやりとしてゆくのです。


 まだまだ若い娘ですが、もともと目がよくありませんでした。


 それが暗くなるまで本の虫。


 気づくと随分と視力が落ちてしまっていました。


 今では読む書物の量に制限がかかっています。


 ある日、クロードがクリスティナの部屋に遊びに行くと、読書をしていました。


 しかし紙面の上に透明の石を置いています。


 人差し指と親指で作った丸を少し大きくしたサイズの石でした。


「やぁクリスティナ。なんだい、それは?」


「これはリーディングストーンというの。見て」


 手招きされてクロードが近づくと、書の文字を見せられました。


「俺は読めないんだよ」


「読めなくていいのよ、見ててね」


 クロードが見ている文字の上に、クリスティナが透明の石を置きました。


 すると、文字が大きくなったではありませんか。


「な、なんだこりゃ」


「すごいでしょう。文字を大きくしてくれる石なの」


「へぇ、こんな石があるのか」


 クロードが不思議そうに石を文字の上から外したり、置いたりします。


 今でいうところのルーペです。


「これがあれば、クリスティナの目がこれ以上悪くなることもなさそうだな」


「そうなの。修道院長が私のために手に入れてくれたのよ。とっても嬉しい」


 きゅっと胸元にリーディングストーンを大切そうに抱えてクリスティナが微笑みました。


 その微笑みがマジ可愛くてクロードはときめきました。


「ほら、予備にもうひとつもあるのよ。クロードも書を勉強するなら貸してあげるわよ」


「いらねぇよ。俺は鍛冶ができればそれでいいんだ」


「なによ、きっと役に立つのに」


「しかし、」


 予備のもうひとつのリーディングストーンを受け取って、クリスティナを透かして見ながらクロードは言います。


「こんなの使わなくても、クリスティナの目がよくなればいいのにな」


「そうね。でもそれはきっと主の奇跡じゃないと駄目じゃないかしら」


「神様なら目を治せるのか?」


「聖人の伝説には見えなくなった目が見えるようになる奇跡がいくつかあるわ。聖パウロの伝説もそうよ。聖パウロがキリスト教の人々を迫害していた頃、天から降ってきたイエス・キリストの声を聴いたの。「サウロ、サウロ、なぜ、わたしを迫害するのか」とね」


「サウロ?」


「聖パウロがキリスト教に回心する前のお名前よ。この声を聴いて、聖パウロは目が見えなくなったの。でもこのことを知ったアナニアという教徒が祈りを奉げると、聖パウロの目から鱗のようなものが落ちて、目が見えるようになったのよ。この奇跡に、聖パウロはキリスト教に帰依したの」


 クロードはミラクルを使ったマッチポンプなのでは? と思いました。


 でもクロードはクリスティナが好き好きラブちゅっちゅっなので、黙っていました。


「でもクリスティナはもう修道女じゃないか」


「そうね。私のためにお祈りをしてくれる方もいらっしゃらないでしょうし……」


「俺が祈るよ」


「うふふ、ありがとう、クロード。その気持ちで私は胸がいっぱいよ」


 クロードはクリスティナの胸を見ました。


 確かにいっぱいでした。


 豊穣なる大地の実りが双つがそこにありました。


「クロード?」


「いや、クリスティナの目からは鱗みたいなものが落ちないのか考えてたんだ」


「うーん、そうね……」


 クリスティナが困ったような顔をして、ふたつのリーディングストーンを目元にもっていきました。


 ふたつの目でふたつのリーディングストーンを覗き込んでから、ぽろりと落とす真似をします。


「鱗がおっこちちゃった~……な、なんちゃって……」


 戯れの冗談をやって恥ずかしがるクリスティナですが、クロードは動けませんでした。


 なぜならばクリスティナがリーディングリストを目元に持っていき覗き込んだ時、体に電流が走ったのです。


 そう、クリスティナの目がリーディングストーンを隔てられた瞬間、恋にも似た胸のときめきで時間が止まったのでした。


「ク、クリスティナ、もう一回今のをやってくれ!」


「えっ、い、いやよ……恥ずかしいわ」


「その恥ずかしがってる姿も趣き~~! だが違う! 頼む! 頼む……たの……この、大人しくリーディングストーンを目元に持っていけ!」


 ほぼ盗賊の口調で、強引にクロードはそれをさせました。


 クリスティナは身の危険を感じて従いました。


 再びリーディングストーンを目元に持ってきた時、クロードは気色悪い悲鳴を上げて爆発しそうな心臓の高鳴りに床を転がりました。


 もうお分かりですね。


 クロードは眼鏡っ娘萌えでした。


 しかしこの時代、まだ眼鏡が生まれていません。


 故にこの性癖は本来ありえないものでしたが、クロードは扉を開いてしまいました。


 クロードは他の人類よりも新しいステージに先に進んでしまったのです。


 しかもクリスティナは巨乳の修道女です。


 読書家で巨乳で修道女で眼鏡っ娘です。


 人類の大半の扉を開くに足るマスターキーでした。


「ちょっとクロード大丈夫?」


「くっ……なんだこの気持ち、なんなんだ! なんなんだ!!」


 己の感情を制御できないまま、クロードは叫び声をあげて走り去ってしまいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ